第23話 王子様ご帰還
ダンジョン攻略ために喚び出すモンスターをピセルと相談し、ついにどれにするか決まった。
「じゃあ行くよ。召還!」
小部屋の中が、魔方陣から放たれる光で満ちる。魔方陣からゆっくりと姿を現したのは、人間の体に牛の頭が乗ったモンスター、ミノタウロスだった。
身長は僕より少し高く、筋肉質な体のほとんどが茶色い毛皮に覆われている。手足は完全に人間で、頭は牛そのものだ。
ミノタウロスは牛の目で僕を見た後、片膝をついて頭を下げた。
『【従属契約】もしっかり機能していマスね。これで大幅な戦力アップデス』
「ミノタウロスってかなり強いイメージあったから、予算内で喚べるレベルのがいるのは意外だったよ」
『コレはいわゆる【成りたて】デス。センパイはとても運が良かったデスよ』
「成りたて?ランクアップとかクラスチェンジとかしたばっかりってこと?」
『イイエ、違いマス。モンスターの誕生方法にはいくつか種類がありまして……っと、話し中ですが、ニュースデス。どうやら王子たちが戻ってきたようデスよ』
言われて耳をすますと、遠くで鎧が立てる金属音が聞こえた。
警戒されないようにミノタウロスを小部屋に残して、ピセルと一緒に音の聞こえる方へ向かう。
マップを見ると、音の聞こえる場所に魔方陣のマークがついていた。
『転移魔法陣の部屋デスね。今回は地下十階のボス部屋の先から戻ってきたようデス』
「ああ、アレか。僕らはピセルの魔法で戻ったから、使ってなかったよね」
『転移魔方陣を使用するための魔力は使用者持ちな上に、ダンジョン全体に持っていかれマス。それに設定したのは前のダンジョン主ですので、当然のごとくコストが水増しされていマシタ』
ダンジョンアタックするゲームでは転移装置は定番だけど、使用コストなんて考えたことなかった。
この世界のように、ダンジョンが魔力の回収装置としての機能があるなら、必ず使う便利な機能ならコストを高く設定するのはアリだろう。
転移装置を使わずに潜り直されたとしても、滞在期間と労力で、十分に魔力を回収できるだろうし。
『そういうコトデス。しかも今回は満身創痍のご帰還のようデスし、敗者に鞭打ち、残りカスまで絞り取れるでショウね』
「へー、……って、満身創痍?地下十階までの道なのに、そんなに苦労したの?」
僕はボーンイーターのおかげで、とても快適に進んだので、どこでそんなに傷つく要素があったのか分からない。
兵士の方がネズミよりはるかに強いだろうに。それとも毒ガスと氷漬けモンスターが、そんなに強力だったのだろうか。
『それは本人たちに聞いてみるのが早いデショう』
話しているうちに、転移部屋の近くにまで来ていた。
王子様たちは人数が多いので、一度には全員転移できないために、転移部屋の周辺通路に兵士たちが並んでいた。
疲れた様子ではあるが、ピセルがいうように満身創痍には見えない。
僕が向こうを見つけたように、向こうも僕に気づいたようだ。兵士の集団にいた一人が、僕の方へ歩いてきた。
「貴様は、不法侵入した魔術師だな。よくものこのこと姿を現したな。さては我らを笑いにきたか。今すぐたたき切ってやる」
「ちょ、落ち着いてください。僕は貴方たちが心配で様子を見に来ただけですよ。これでもいちおう神に選ばれた身ですし」
「つまり神に選ばれてない我々をあざけりに来たと」
「言ってません。毒ガスが出てきたでしょう?僕はアレが嫌でダンジョンから出たのに、王子様はダンジョンに残り続けたみたいですし、大丈夫だったのかなと心配だったのですよ」
「ふん、ダンジョンから出ていただと?臆病者め。貴様の言うことなど信用できるか」
「何をしている、騒ぐのは止めよ。我々は未だダンジョンの中にいるのだ。言い争うなど愚か者のすることだぞ」
今にも武器に手をかけそうな兵士をなだめながら話をしていると、転移部屋から王子様が出てきた。
王子様は相変わらず堂々としているが、最初に見た時よりも元気がないようにも見えた。
「ふん、神の遣いの魔術師か。今はお前などに構っている暇はない、失せよ。お前らも構うな、隊列を整えよ」
すぐに視線を外して転移部屋の前に戻ってしまった。
兵士も僕を睨んだ後、隊列に戻っていった。
少し離れた場所でしばらく見ていると、やっと全員が戻ったようで隊列が動き始めた。
何人かはこちらをチラ見していくが、それをする気力もないほど疲れている兵士もいた。そして、半分を過ぎた後、立派な鎧に無残な穴を開けた兵士が通った。
周りの兵士よりも明らかに立場が上みたいだけれど、その人の鎧が一番ひどく壊れている。しかもその近くにいる同じような鎧を着た人たちが、その人を気遣っているのがよく分かった。
『体の傷は魔法である程度は癒やせますが、心の傷は魔法だけでは癒やせマセン。アレは、なかなか大きな傷を負ったようデスね』
いったい何があったんだ。
隊列が終わるころ、一人の兵士が列を外れてこちらに来た。
兵士はまだ若いようで、すこし緊張しているのか表情が硬い。
「ま、魔術師どの。フォーレン王子からの言付けです。聞いていだだけますでしょうか」
「王子様から?僕になんの用でしょうか」
「はい。フォーレン王子は、魔術師殿の腕を見込んで、貴方にダンジョン攻略を任せるとおっしゃっています」
「前はダメだと言ってたけど、急になんでまた」
「それはその、魔術師殿は我々よりもダンジョン攻略に慣れているご様子ですし、それならばお任せするべきだとのご判断ではないかと」
『自分たちは被害が大きかったのに、センパイは平気そうな顔をしていたからデショウね。それに転移装置は十一階にあったので、自分たちよりも先に攻略していたのは明らカ。実力の差を感じて、素直になったのデショウ』
あんな偉そうな態度をしていた王子様が、そんな簡単に素直になるだろうか。疑わしいけれど、王子様の許可が出るならこれからも大手を振って出入りできるだろう。
「ダンジョン攻略していいってことは分かりました。でもそれだけですか?」
「いえ、ダンジョンの情報を適宜報告するようにともおっしゃってました」
僕が聞きたかったのは、謝罪の言葉とかそういうのだったんだけど。
「あ、あと、報償を出すとも。ダンジョンは危険なので、その……」
『センパイの顔が怖くてビビってマスね。散々こちらを馬鹿にしていたのに、いい気味ですねえ』
僕の顔が怖いだなんて言われたのは初めてだ。そんなに変な顔をしていただろうか。
「報償って言っても、どのくらいもらえるんです?適宜報告って言っても、そんな簡単に会って話せるわけじゃないでしょう」
「その、詳しいことは後で使いの者を送るとおっしゃってました!自分はただの伝令なので、申し訳ありません!」
兵士は頭を勢いよく下げると、離れた隊の元へ走っていってしまった。
「なんだったんだろうな」
『どちらでもいいのデハ?私たちのやることに変わりはありマセン』
「そうだね。じゃあミノタウロスを迎えにいって、ダンジョン攻略を再開しようか」
見えなくなった隊列とは別な道を通って、元いた小部屋へ戻った。
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