第22話 オトモ選択
僕らは跳ね橋を守る門番に挨拶しながら、王城へと戻ってきた。
王城は、昼間であれば一般市民も入ることができる。もちろん重要な場所は関係者以外立ち入り禁止だが、心にやましいところがなければ、たいていの場所は普通に通り抜けることができる。
地下ダンジョンへの入り口は重要な場所から遠く、退屈な日常から逃げ出してきた子供の秘密の隠れ家としては絶好の位置にあった。
「カゲトさまっ、良かった、今日はお会いできました」
今日も今日とてお勉強に飽きた王女様が、僕のことを待っていたようだ。彼女の腕の中ではファンシーキャットが仏頂面で足をぶらぶらさせている。
王女様は僕とダンジョンで出会う以前から、王城の人たちの目を盗んでやって来ていたらしい。
さすがにダンジョンが目覚めてからは、護衛の兵士を背後にひかえさせている。
「これはミステミス様、ご機嫌うるわしゅう」
「そんな堅苦しい挨拶はいりません。それよりも、ダンジョンの中に強いモンスターが出たみたいですの。教授と護衛の方々が言ってましたわ。カゲトさまも今ダンジョンに入るのは危ないですわ」
「大丈夫ですよ。僕はそんなモンスターには負けません。それに、王子様たちは今もまだダンジョンの中にいるのです。僕がいつまでも休んでいるわけにもいきません」
「まあ、さすが神に選ばれた方。カゲトさまはとても勇敢なのですね」
王女様はキラキラした目で僕を見上げてくる。
純粋な尊敬の目で見られるのはちょっと照れるが、悪い気はしない。
「お兄様はたくさんの兵と一緒ですから大丈夫でしょうけど、カゲトさまはお一人でダンジョンに挑んでいらっしゃっていて、怖くはありませんの?わたくしは考えるだけで恐ろしいです」
『先日は一人でダンジョンに入ってきてましたケド、その時は怖くなかったんデスかね?』
言ってやるなよ。というか、あの時はモンスターが本当に出るなんて思ってもなかったんだろう。お化けが出るかもしれない場所と、人食い獣の住処では、怖さの種類が全然違う。
僕も友達と肝試しをやったことはあるけれど、本当に危ない所には絶対に近づかなかった。
臆病者だと言われても、それで死んだら元も子もないし。
僕は身の安全をできるだけ確保して進むようにしている。だからこそ、自信を持って言える。
「僕はそんなに簡単に死にませんよ。それに、頼りになる仲間がいるので、一人じゃありませんよ」
『その通りデス。センパイの身は私が守りマス。例え傷ついたとしても、死んでない限り回復させてみせますとも』
そこは傷一つ付けさせないと言って欲しかった。
『私は防御力を上げることはできマスが、担当ではありませんノデ。必要なら受け専をお呼びすればよろしいカト』
受け専て、言い方ぁ!
「ピセルちゃんは使い魔ですものね。カゲトさまほどの魔術師なら、わたくしの心配など余計なものなのでしょう。それでも、わたくしはカゲトさまの無事をお祈りしております。お気を付けて行ってきてください」
「身に余る光栄です。ミステミス様も、教授や護衛の方々の言うとおりにして、ダンジョンから出てくるモンスターに気をつけてください。それでは行ってきます」
王女様に見送られて、ダンジョンに入る。
地下十階より先はまだどうなってるか分からないから、彼女が言うように気をつけて進むことにしよう。
ダンジョンの中は、最初に来た時よりも過ごしやすい空間になっていた。
魔光石は明るさを増している。ロウソクだったのが松明になったくらい差がある。
空気中の毒ガスもほとんど感じなくなっていて、明日になれば完全にキレイになりそうだ。
「とりあえず、氷から出てきたモンスターと戦ってみようと思うんだ。どんなヤツか分かるかな?」
『少々お待ちくだサイ。……ふむふむ。どうやら【カースドドール】というモンスターのようデス。下に行くほどレベルが高いものがいるようデスね。強さはそこまでではなく、私の魔法で倒せそうデス』
スケルトンコングを倒せるレベルのピセルなら、たいていのモンスターは楽に倒せそうな気もする。だから敵の強さについては話半分に聞いておいた方がいいかもしれない。
「けっこうMが溜まっているし、護衛のモンスターを喚んでみようかと思う。一緒に戦っていれば、レベルもあがるだろうし。どうかな?」
『いいと思いマス。では何を喚びマスか?キングポメラギオンデスか?』
「喚ばないよ。それよりも、もっと言うことを聞いてくれるのがいいかな。あとは、ピセルが魔法攻撃力あるから、逆に物理防御が高い盾役になるのがいいかな」
リストに条件を付けながら絞り込んでいく。いまここですごく強いモンスターを喚ぶつもりはない。Mを半分以上残しておいて、後で必要に合わせて強いモンスターを喚ぶ方がいいだろう。
だからカースドドールの攻撃を受けられるヤツが望ましい。
「ラージスライムは遅すぎだし、パペット系はここのダンジョンと方針が被ってて嫌だなあ。あとは各種アーマー系か」
『受け専なら、自分で回復ができるエンジェル系をオススメしたいのデスが』
「エンジェル系?ピセルの妹ってこと?」
『まさカ。エンジェルとついてもただのモンスター。まだ自意識の薄い、ハト寄りの知能の者達です。デスが経験を積んでレベルが上がれば、妹として推薦できる者がいるかも知れまセン』
天使の生態は複雑なんだな。謎は深まるばかりだ。
「エンジェル系はこれか。値段は、いちじゅうひゃく……げ、高い」
防御力の高いアーマーエンジェルやシールドエンジェルは、考えていたものの倍くらい値段が張る。買えないことも無いけれど、他に使うかもしれないからそこまで出したくはない。
『一つ下のランクの者を育てて、クラスアップさせれば安くすみマスよ』
「ちなみにクラスアップに必要な経験値は?」
『エンジェルなら20レベルでクラスアップさせられマス』
遠いよ。
ダンジョンから出てから昨日までの間、街の外でレベリングをしたけれど、いま僕はやっと10レベルになったところだ。
外より敵に会いやすいとはいえ、弱いモンスターを悠長にレベリングをしている余裕はない。
『ダメですか?』
「て、天使はほら、ピセルで十分だよ。うん、そうだ。ピセル以外に天使はいらないよ」
『ナルホド!言われてみればそうデスね!!さすがはセンパイ!』
反応がすごい。すごいチョロいなこの天使。
『ではこき使うのにぴったりなのはやはりデビル系ですかね?盾にしてよし、使い捨てにしてよし、クラスアップ直前に他のモンスターのエサにしてもいいかもしれマセン。我ながらいいアイデアだと思いマス』
「興奮しすぎ、落ち着いて。静かにしてって、モンスター寄ってくるって!勝手にウィンドウいじらないで!!」
ピセルを落ち着かせて召還するモンスターを選ぶまで、それから十分以上かかってしまった。
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