第21話 優雅?な休憩
青く晴れた空の下、のんびりお茶を飲んでいたら、ピセルが何かに気づいたように顔を上げた。
『センパイ、ただいま王子の部隊が十階のボス部屋に突入しマシタよ』
「そっか、思ったよりも時間かかったね。やっぱり毒ガスがやっかいだったのかな」
僕らは毒ガスの効果がどれほどのものか分からなかったし、ダンジョンを本格起動させてからすぐに退避していた。
王子様も毒ガスからは逃げるかと思っていたんだけど、そこまでヤバくはなかったようで進軍された時はどうしようかと思った。
『毒ガスだけでなく、私たちが遭遇したような、氷漬けで封印されていたモンスターが複数いたようデス。すでに私たちのものになっている階層にもいたようデ、兵士たちと戦闘になっていたようですが、おかげで魔力がうはうはデスよ』
「うはうはとか、ちょっと俗っぽいぞ、天使ちゃん」
そう指摘すると、ピセルはハトのくせに器用にウィンクをして取り繕った。
『おっとイケません。私としたコトが』
王子様たちに十階層まで来られてしまったけれど、そこは諦めるしかない。彼らがすごかったのだと認めよう。
それに、十一階に降りてすぐの場所に一階への転移魔方陣があったので、王子様達はそこから脱出すると思っている。ゲームじゃあるまいし、休まずにずっとダンジョンの中で活動し続けられるわけない。
僕だってダンジョンの外にでた時は、あまりの開放感に声が出てしまったのだから。
僕らは今【霧出す森の国】フォレスター王国の城下町にある、繁華街のカフェテラスで休憩している。ここからは王城がよく見える。
王城は小高い丘の上に建っていて、その周囲を深い水堀に囲まれている。王城に続く道は一本道で、途中の跳ね橋を渡る必要がある。
たとえ城が攻められたとしても、跳ね橋を上げて塀の上から矢を射かければ、一方的に攻撃できるだろう。
フォレスター王国は北西から南を通って南東に至るまで、その名にあるように深い森に囲まれている。
北には背の高い山が連なっていて、そこからは様々な鉱石が得られている。
そして東は広い平野で、唯一楽に行き来ができるそこは大きな道が引かれている。
フォレスター王国は自然に守られた、とても豊かな国だった。
すれ違う人々は笑顔であふれていて、今の豊かな暮らしに満足しているのがわかる。
周囲にはダンジョンが複数あり、そこから取れる資源を利用して、外国との交易が盛んに行われているらしい。
そもそもフォレスター王国は、元はダンジョンを中心とした商業都市だったらしい。
元々はとある冒険者がダンジョンを攻略し、その功績によって国王になった。
ダンジョンを攻略した王は、さらなるダンジョンを神に願った。そのおかげでこの王国の周囲には大小いくつものダンジョンが発生することとなり、そこにあるお宝を求めて冒険者が、商人が、そして人々が集まり、フォレスター王国は発展してきた。
フォレスター王国はダンジョンによって産まれ、ダンジョンによって育てられた王国だ。
ということが、この五日間の聞き込みでわかった。
『ヒトは真実を簡単にねじ曲げマスね。ココが神によって与えられた約束の地だとは、面白すぎて世界樹が芽吹きそうデス』
「例えのスケールがデカいな。そこまで言うほどのことなのか?」
ピセルは大きくうなずいて、用意した水皿から水を飲んだ。
『そもそもここは、東の帝国と西の小国家群の間にある緩衝地帯だったのデス。戦争になればお互い余計な傷を負うことになるので、ここに発生したダンジョンに手が出せなかったのデス。そのせいでここのダンジョンが成長しすぎてしまい、一度、大規模なスタンピートが発生。その対策として周辺国家が協力してダンジョン討伐の前線基地を設置し、それを利用して野心家が独立国家を興したのが始まりデス』
ピセルは一気にしゃべってから、また水を飲む。
『独立国家は周辺国との戦争を初め、それが長期間続いたせいで、さらに多くのダンジョンが発生しマシタ。そのダンジョンのせいで戦争を止めざるを得ず、しかしそのおかげで滅ぼされずに済んだのデス。つまりここの人々はダンジョンに生かされているのデスよ』
通り道は違うが、だいたい同じ結論になっているね。あえてそう指摘はしないけど。
「すごいね。とっても詳しいみたいだけど、まさかピセルはこの国の建国から見てきたわけじゃないよね?」
『当然デス。私は産まれたてピチピチ、永遠の16歳デスよ。天使を合法ロリと同じにしないでくだサイ』
ピセルが見返りつつ流し目をする。
「すっごい矛盾した言葉だな」
『それがちっとも矛盾してないのデス。なぜなら私は16歳として産まれ、16歳のまま成長しているのデスから。教育もお姉さまからバッチリ受けていますトモ』
天使ってのは僕が思っている以上の不思議生物らしい。いわゆる不老不死ってやつだろうか。
『不老ではありますが、不死ではありマセンよ。天使といえど、そこまで万能ではありマセン。であるからこそ、死があれば生がアリ。私たちはお姉様によって産み出されるのデス』
「お姉様からピセルが」
単為生殖かな?
『普通は二人のお姉様による共同作業デスね。不純な交流のいらない、健全で完璧なシステムデス』
素敵な
『ですがもちろん、不純な異性交流も可能デスよ。いえむしろ、私とセンパイは
「おちつけ発情バト。まだヒト形態に戻れる魔力も溜まってないだろう」
『はっ、そうでシタ。うっかり無精卵産むところでした、危ナイ危ナイ』
こいつと話していると、話がちょくちょく脱線して進まない。くだらない話をしてる時ならいいんだけど、真面目な話の時は強引にでも戻さないといけない。
「それで、王子様ご一行の話に戻るけど、今はどんな感じなの?」
『おっとそうデスね。王子たちがゆっくり慎重に進んでいるおかげで、魔力が順調に溜まっていマス。省エネ封印をひとつふたつ解除できますが、この先のダンジョン攻略を考えると、強いモンスターを喚ぶのに使った方がいいでショウね』
ピセルの顔が、真面目なものに戻る。
「ピセルの封印を解除して、強い魔法で一気に進むのはどうかな?」
『私が使う魔術は神官系なので、どちらかと言えば回復寄りデス。同レベルの攻撃を専門とする魔術師には負けマスし、この先で魔術に耐性のある敵が出てこないとも限りません』
「やっぱりそうだよね」
今までの嫌らしい元ダンジョン管理者の傾向からして、魔術が効かない敵を用意していることは十分考えられる。
休眠から目覚めたばかりのダンジョンだと侮っていたら、とても痛い目に遭うだろう。
次に喚び出すモンスターは、そこらへんもよく考えておいた方がいいだろう。
「もう少しすれば王子様たちも戻ってくるだろうし、僕らもダンジョン攻略を再開しようか」
『そうデスね。十分休んで英気を養えましたし、物資の補給もバッチリデス。センパイも新しい装備とスキルは大丈夫デスか?』
「もちろん問題ないよ。早く戦闘で使うのが楽しみだよ」
そういうワケで、僕らは王城地下のダンジョンへと戻ることにした。
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