第10話 システムウィンドウ
地下二階のボスを倒してダンジョンの支配権を手に入れたはずだったが、そう上手くはいかなかった。
あれから僕らはダンジョン入り口近くの小部屋に戻ってきて、そこで一息ついていた。
小部屋は六畳ほどの広さで、軽く掃除してから他の部屋からまともな木のテーブルとイスを運び込んだ。
天井に、ピセルの魔法で作った光の玉を浮かべて光源にする。
魔力ショップでお茶を買い、それを飲んでほっと一息ついた。
「ふう、やっと落ち着いたかな。それじゃあそろそろ」
『現実逃避はヤメにしマスか』
現実逃避、いやな響きだけど、つまりはそうなんだろう。ピセルが言った、二つの悪いニュース。それが僕らの心にのしかかっていた。
『まずは現状の確認デスが、私たちはこのダンジョンの支配権を手に入れマシタ。ただしそれは、地下五階までデス』
「地下五階」
『ハイ、ナゼ浅い階層に端末が置いてあるのかと思えば、どうやら支配権を分割してあったようデス。つまり、このダンジョンを完全に手に入れるには……』
「やっぱり最下層にまで行くしかないってことか」
『そうなりマス。本当に、巨人族は嫌らしくて困りマス』
これが悪いニュースの一つ目。僕らはまだまだ、目的を達成できていないのだ。
コップに残ったお茶を飲み干して、息を吐く。大量のお茶の葉を割安で買ったので、気にせず飲めるのがいい。ピセルのウィンドウに収納できるのはいいが、魔力消費の関係で保存機能は無いらしい。早めに使いきるのがいいだろう。
水は、沸騰させれば飲めると注釈が入ったものを買い、魔法で沸かせて使っている。魔法で作ればいいと思っていたが、飲めるものではないらしい。
ティーセットはピセルが元の世界で買っていたものを使っている。小さい花が描かれた、かわいらしいものだった。
食べ物もピセルが大量に確保していたが、全部が日持ちする携帯栄養食だった。
『あちらの世界は素晴らしいデスね。餓えるどころか飽食で死ぬ者がいるくらいの豊かな国があるとは思いもしませんでシタ。あの程度の金額でこんなに大量の食料が手に入るとは、思ってもいませんデシタよ』
十年は戦えると言いそうだったが、こんなものばかり食べてたら飽きて死にたくなりそうだ。こんなことになると知っていたら、ポテチとかチョコとかを買い込んでいただろうに。
『私の持ち物は低コストでこちらへ持ってこれましたが、センパイの持ち物はそうはいきませんデシタ。センパイ一人だけでギリギリデス』
僕のカバンがなかった理由は魔力コストだったのか。
『本当に申し訳ありマセン』
しおらしくしているので、怒るに怒れない。あの中には携帯ゲーム機が入っていたんだけれど、それも諦めるしかないだろう。
「別にいいよ。僕にはピセルがいるだろ?ぼっちでゲームやってるよりも、リア充してる今の方がはるかに楽しいさ」
『センパイ……そのセリフ、一部の人を敵に回してマスよ?』
「ピセルって時々僕の味方かどうか分からないこと言うよね」
このハトは本当にしょうがないヤツだなあ。
閑話休題。
お茶が無くなったので新しい葉を入れてお湯を注ぐ。ゴミはダンジョンのシステムを通じて廃棄する。エコで便利だ。
『センパイもダンジョンシステムの使い方に慣れておいた方がいいデスね。ウィンドウの呼び出し方さえ覚えれば、あとはセンパイの方が上手く使えるでショウ』
「それ便利だよね。スマホだったら落としそうだし、なくすこともないし」
『ウィンドウは私とセンパイにしか見えないノデ、相手に手の内を知られる心配もありマセン。自在に使えるようになれば、とてもカッコイイと思いマスよ』
幾つものウィンドウを展開して、魔法をバリバリ使いながら戦闘するシーンを想像する。
うん、いつか絶対にやってみたい。
「よし、すぐに使いたいから教えてよ」
『ハイ、それでは動作とスイッチを紐付ける方法でいきマショウ。そうすることによって、要らない場面でウィンドウを開いてしまうリスクを無くせマス。まずは手のひらを上にして両手をにぎってくだサイ。その状態から軽く肘を引いて……』
手のひらを上にして両手をにぎり、軽く肘を引く。
『頑張るゾイ』
「オイちょっと待て何をやらせているんだよ」
『やる気を形にしてもらったダケデスごめんなさいもうしマセンから首と足を放してもらえマスか?』
まったくせっかく僕がやる気になったというのにコレだよ。コイツは合間にギャグを挟まないと死ぬ病気なんだろうか。
『センパイフォルダが埋まっていくのは、思ったよりもなかなか楽しいものデスね』
「ピセル、聞いてる?正しいやり方を教えてよ」
『ハイハイ、ただいま教えマスよ。まずはチョキを出して』
「正しいやり方でって言ってるだろ。いい加減にしろよ」
そんな感じで時間がかかったが、十分かからずにウィンドウを出したり消したりできるようになった。簡単なジェスチャーだけど、普通はやらない動きなので問題ない。
魔法のメニューも見れるようになったので、これで僕も魔法を使うことができる。
「僕の魔法は、光魔法?」
『これは私の魔法デスね。契約したのでセンパイも使えるようになってるみたいデス。ただし威力が少々落ちマスが』
「契約っていうと、ここに来る時にしたアレか」
『ハイ、全てを捧げると誓い合ったアレです』
今さら思い出して恥ずかしくなってきた。勢いもあったとはいえ、よくあんな恥ずかしいことを力強く誓えたなと自分の事ながら感心する。
『あの契約の効力で、ステータスとスキルに相互補助がかかっていマス。私のものはセンパイのもの、センパイのものは私のもの、ということデスね。ちなみに、転移魔法で魔力を一時的に使い切った私がこうして無事なのも、センパイのおかげなんデス。なのでもっと威張ってもいいんデスよ』
「この流れで褒められると、さらに恥ずかしい。もう止めてほしいんだけど」
『また言ってくれてもいいんデスよ。そうすれば、もしかしたら魔力が増えるかもしれマセン』
どうです?とハトがくちばしを近づけてせまってくる。僕をからかっているのは間違いないので、なんとか話を変えないといけない。
「そ、そうだ、魔力はどんな感じ?そろそろ回復してるんじゃないかな」
『回復量はそれなりデス。先ほどの攻撃魔法くらいなら使えますよ。それとダンジョンはまだ稼働していないノデ、私たちが放出した分の幾割かを回収できただけデス。当分はつつましく暮らしていくしかナイデスね』
「ダンジョンを開放して、外の魔力を取り入れるのは?」
『そうすると、私たちの管理下でない部分までも活性化してしまいマス。今でさえ私が放出した魔力でボスが強化されているのデス。私の手に負えなくなる前に、このまま一気に最下層まで進んで、全ての支配権を手に入れるのが最良だと思いマス』
「ちなみにどのくらい深いの?」
『地下五十階デス。端末にアクセスした時に確認したので間違いありマセン。次の管理端末の位置は十階にありマスが、そこに行くまで私の魔法を使うほど、ボスが強化されるでショウ』
やっぱり前のダンジョンマスターは意地が悪い。
これが悪いニュースの二つ目。ピセルに頼ると敵がどんどん強くなっていくし、僕が強くなろうにも、十分な経験値を持っている敵がいない。
『ここは完全に、ダンジョンの乗っ取りに対抗してマス。これ以外にも、ナニか罠がありそうデス』
「だったらどうすればいいんだ?なんかもう頭がゴチャゴチャしてきたよ」
『これはもう、私たち以外の力が必要デスね』
「仲間がいるってこと?どうやって増やすのさ」
パーティーメンバーを募集しようとするなら、ダンジョンから出ないといけない。でも、それはできないと話したばかりだ。
『そこで登場するのがコレ、魔力ショップ、バージョンモンスター販売所デス』
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