第9話 ダンジョン管理端末
ピセルの魔法によって、僕の五倍ものレベルを持ったボスがあっさりと倒された。
省エネモードなのにこんなに強いなんて、どのくらいのレベルなんだろうか。
『ふふふ、それはヒミツデスっ。センパイがもう少しマスターとして成長したら、教えてあげてもいいデスよ』
思わせぶりなことを言っているが、つまり今すぐには教えてくれないってことだろう。ならば、自分で考えてみよう。
ゲームによるが、レベル差が大きいと正攻法ではまず勝てない。数字で表される能力の差もあるが、レベル補正というものがあるからだ。
レベルが高い者が何らかの理由で弱体化したとしても、その補正によってレベルが低い相手には優位を保てる。
ピセルがボスをあっさり倒せたのも、たぶんそれがあったからだ。でも、だとすると、ピセルはすごく高いレベルだということになる。
十五レベルだというスケルトンコングの、さらに四倍くらいはあるんじゃないだろうか。
『センパイ、そんなにワタシを見つめてナニを考えているんデスか?あ、分かりました、ピセルちゃんのカワイさに見惚れてたんデスね』
「そうだね。ピセルのことをもっと知りたいなって思ってたんだ」
『それはおいおいお話ししマスよ。それより、隠し部屋を探しまショウ』
やっぱり簡単には話してくれなさそうだ。
とりえず、隠し部屋が描かれていた方の壁を調べてみる。
ゲームだったら壁に向かって走り続けたり、横にずれては体当たりを繰り返したりするところだけど、今は普通にペチペチ叩いてみる。が、特に変化はない。ピセルも半透明のウィンドウを出してなにやらやっているが、ダメなようだ。
『似たようなダンジョンでは壁の模様がヒントになっていたらしいのデスが、ここにはありマセンね』
「うーん。今は休眠中ってことは、以前は活動してたんだよね?その時の持ち主はどうしてたんだろうか。せめて前の持ち主がどんな人なのか分かればなあ」
『前のダンジョンマスターのことデスか?少々お待ちくだサイ』
ピセルの目の前のウィンドウが次々と切り替わる。パソコンを使いこなすカッコイイ動きだけれど、それをハトがやっているところがシュールだ。
『分かりました。前のダンジョンマスターは、この男デス』
ピセルが肩に乗って、ウィンドウを見せてきた。そこに写っていたのは、やけに肩幅の広い筋肉ムキムキの男だった。
『大地神の眷属である巨人族デス。脳筋の多い種族ですが、頭もいいチート級の者もたまに現れます。この男もそうだったようデス』
「巨人族か。身長は……五メートル!?どうりでこの部屋の天井が高いわけだ。だとすると、上の方になんか無いかな」
見上げた先にあったのは、いくぶん見慣れた光を発している不思議な石。それがなんとなく、他の石よりも奥に引っ込んでいるように見える。
「ピセル、お願い」
『ハイ、お任せくだサイ』
ピセルが飛んで、その石に触れた。するとピセルの周囲にいくつものウィンドウが現れ、文字列が高速で流れていく。そのウィンドウが次々と閉じられていき、最後のひとつが消えると、壁が動いた。
『やりました!さすがセンパイデス!!すごいデス』
壁が開いた先には、細密な模様が彫り込まれた台座の上に、大きな水晶玉が置かれていた。
「これが、このダンジョンの管理用端末……」
『ダメデス!』
不用意に伸ばした手が、ピセルの体当たりによって弾かれた。
『アア゛ッ』
次の瞬間、ピセルが目の前で何かにぶつかったように止まり、そのまま空中に磔にされた。
八角形のガラスを隙間なく並べたような壁が、水晶玉の台座を囲んでいる。ピセルはその表面に捕えられていた。
『前の、マスターが残シタ、防壁デス……!離れて、クダサイっ!』
「そんな、ピセルが」
『大丈夫デス、動かなけレバ、これ以上のダメージはありません。解除しマスので、少しダケ、時間をくだサイ』
磔になったままのピセルが、ウィンドウを開く。その体から、僅かな光が少しずつこぼれていく。それがまるで倒されたモンスターが消えていく様に見えて、どうにかしてやりたくなる。でも動かさない方がいいって言ってたし、でもピセルに死んで欲しくはないし……。
助けることも逃げることもできないまま、動けないピセルを見ているだけなのが悔しい。でも今の僕にはどうすることもできない。僕が動くとピセルの邪魔になるかもしれない。意味もなく足を動かしたくなるのを我慢して、とにかくじっとしていた。
そのまま何分か、それとも何十分だろうか。不意に小さな音がしたかと思うと、ガラスの壁が粉々に砕けた。
宙に浮いたままだったピセルが急に落ちてきたので、慌てて受け止める。
『ナイスキャッチ。さすがセンパイデスね』
「ピセルごめん、僕……」
『そんな顔をしないでくだサイ。大丈夫デスよ、ただのかすり傷デス。でもどうせなら、このまま端末まで連れていってもらっていいデスか?』
「もちろん、それくらい簡単だよ」
揺らさないように気をつけながら、慎重に水晶玉の前まで進む。
「これでいいかい?」
『ハイ、ありがとうございマス。それでは、少々お待ちくだサイ』
ピセルに水晶玉を近づけると、またいくつものウィンドウが開かれる。高速で文字列が流れたあと、ひとつのウィンドウだけ残して閉じられた。
残ったウィンドウには、右手のマークが表示されている。
『ここに右手を重ねれば、ダンジョンマスターの上書き完了デス。センパイ、どうぞ』
「うん、いくよ」
ちょっと緊張しながら、ウィンドウに右手を置く。
すると僕の周囲に無数のウィンドウが開かれ、そこに高速で文字列が流れ始めた。
その文字は僕には馴染みのないものだったが、見ているうちに何故か読めるようになっていく。
まあ読めたところで意味はさっぱり分からないんだけど。
そのまま待つこと一分少々。文字が流れ終わったウィンドウが次々と閉じていき、右手を置いていたウィンドウだけが残った。
『お疲れ様デス。これでダンジョンマスターの引継ぎが完了しマシた。早速で申し訳ないのデスが、魔力を少々分けていただけマスか?』
「ケガを治すんだね。いいよ、好きなだけ持っていって」
ピセルが僕の腕の中で立ち上がると、その体を光が覆った。
何とも言えない不思議な力が、右手のウィンドウから僕の体を通ってピセルに流れていくのがわかる。
その光はすぐに収まり、またきれいな白い羽を取り戻したピセルになった。
『ありがとうございマス。センパイのおかげで、傷は完璧に治すことができマシた』
「よかった。これで二人でダンジョン運営が初められるね」
ゲームでダンジョン運営ものはいくつかやったことがあるけれど、まさかリアルでそれができるとは思ってもみなかった。どんなダンジョンにしようか、夢がどんどん広がっていく。
『センパイ、それなんデスが、実は悪いニュースと悪いニュースがありマシて、どっちから聞きたいデスか?』
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