第8話 お休みダンジョン
ピセルを肩に乗せて階段を降りると、やはり薄暗いダンジョンが続いていた。
「やけに暗いよね。これはそういう演出なのかな」
『ここは休眠中のダンジョンなんデス。なので、コレはいわゆる非常灯なのデスよ』
「休眠中?」
『ダンジョンは生き物なんデス。普段は元気よく活動して魔物を生産していマスが、それがいつまでも続くワケではありマセン。侵入してくる生物が少なくなれば魔力の回収ができ
ず、運が悪ければそのまま餓死してしまいマス。それを防ぐために、余力のあるウチに封印することデ、長期間の魔力枯渇状態に耐えるのデス』
「冬眠みたいなものか」
詳しく聞くと、どうやらこの世界のダンジョンは魔物の一種らしい。体内に魔物を飼ったり罠を張ったりすることで、侵入者から養分や魔力を奪って活動しているそうだ。ただ、ダンジョン自身がする侵入者対策は原始的で、知識と経験を積み重ねた人間には太刀打ちできない。
『なのデ、このダンジョンはセンパイに支配された方が幸せなのデス。ぜひともセンパイの色に染めてあげてクダサイ』
なんでコイツはいちいち恥ずかしい言い方をするんだろうか。僕をからかって楽しんでいるのか?
「つまり僕がこのダンジョンに罠やら魔物やらを配置して、ダンジョンの活動を助ける。それで見返りに魔力を分けてもらえるってわけだね」
『ちょっと違いマスが、おおむねその認識で合ってマス』
「じゃあ早くダンジョンの管理者にならないとね」
『それデスが……』
「おっと敵がきたみたいだ」
噂をすれば、ダンジョンが配置した敵である、スケルトンが正面から歩いてくるのが見えた。
「休眠中でもモンスターはいるんだね」
『最低限の防衛機能デス。あれはオールドスケルトンといって、安価でありながら長持ちすると評判デス。子供を追い払う程度の能力を持ちマス』
「やっぱり超雑魚だったか」
最初に何もわからないまま戦闘したけど、殴るだけで簡単に倒せたくらいだ。それでも歩き回る人骨ってだけで威圧感があるし、用がなかったら逃げていたかもしれない。
自分が強かったわけではないのは残念だけど、強かったら僕がヤられてたのだからよしとしよう。
「経験値も微々たるものデスが、放っておくわけにもいきまセン」
「そうだね。ちゃちゃっと倒しちゃうから、離れてて」
腕まくりをして杖を構える。
ピセルが飛び立ってから、オールドスケルトンに近寄って殴り壊した。
『センパイは魔法を使わないのデスね。この程度なら必要ないでしょうガ、この先は必要になってきマスよ』
「使えたら使ってるよ。僕の世界には魔法はなかったし」
『スネないでくだサイ。ダンジョンの管理者になれば、すぐに魔法を使えるようになりマスよ』
「本当!?それは楽しみだけど、このダンジョンをクリアしなくちゃいけないんだよね」
魔法が使えるというのは魅力的だけど、それまでが長そうだ。最初のダンジョンということで、深くないことを期待したい。
なんて思ってたら、ピセルが思わせぶりな笑い方をした。
『実は、このダンジョンに関しては攻略しなくても管理者になれる方法があるのデスが、聞きたいですか?』
「なんだって、それは本当かい?」
『本当デスとも。そのためにこのダンジョンを選んだと言っても過言ではありマセん』
ピセルが羽を振るうと、マップらしきものが描かれた半透明のウィンドウが出た。
『これがこのダンジョンの地下二階までのマップデス。下調べをしていた時に見つけたのデスが、ココを見てくだサイ』
注目すると、その部分が拡大される。
『ここがこの階のボス部屋なのデスが、どう思いマス?』
「一階にもボス部屋があったよね。それがここにもあるのは、ちょっと多いと思うかな。これが普通なのかい?」
『もちろん違いマス。ボス部屋はコストがかかるので、普通はこんなコトしまセン』
「やっぱり。だとすると……あっ、階段部屋とは別に、入り口がない部屋が隣接してるね」
そう指摘すると、ピセルは大きくうなずいた。
『さすがセンパイです。そここそが我々の目的地、ダンジョン管理用の端末装置がある部屋デス』
「つまりこの階を突破すれば」
『このダンジョンの管理者権限が得られるということデス』
「よし、それなら簡単だ。一気に倒してダンジョン管理者になるぞ」
『はい、いきまショウ!』
そうと分かればモタモタしていられない。マップを見ながらどんどん進み、邪魔するオールドスケルトンは出会った端から倒していった。
そうして数分後、元から大して広くないので、ボス部屋には簡単に到着することができた。
入り口を開けると、中には太くて立派な骨でできたゴリラがいた。中身がスカスカのスケルトンと違って、筋肉的なものまでも骨で再現されている。
これは休眠状態のダンジョンにしては、かなりレベルが高い敵なんじゃないだろうか。
『おや、スケルトンコングデスね。これは随分と魔力を奮発してきマシたね』
「やっぱり。いくらボスだとしても、こんなに強そうなのが簡単に出てくるものなの?」
『イエイエ、普通はノーマルなスケルトン兵がせいぜいデスよ。ここまで強いものを用意できたのは恐らく我々、いえ正確にはワタシが原因でショウね』
「ピセルが?」
『ハイ。ここには調査の段階で一度来てマスし、転移魔法もこのダンジョンに設定してマシた。なのでその時に発散した魔力をボスにつぎ込んだのでショウ』
「これ、見た目からして超強くない?」
『そうデスね。レベルは低くて十五はイってると思いマスよ。ざっとセンパイの五倍デスね』
「レベル五倍差とか、勝てる要素ないなあ」
なんてこった。せっかくピセルが用意してくれたダンジョンだっていうのに、僕が弱すぎて話にならないなんて。今から戻ってレベル上げをしようにも、出てくる雑魚がオールドスケルトンじゃ何時間かけてもレベルアップできるか分からない。
『仕方ありまセン、元はと言えばワタシが撒いたタネ。イエこの場合は水の方が近いでショウか?デスので、ワタシがなんとかしマショウ』
そう言ってピセルは飛んだ。
「なんとかするって、でも、ピセルは省エネモードだろ。危ないから、他の方法を考えよう」
『心配ないデスよ。ワタシに任せて、センパイは下がっててクダサイ』
ピセルは僕が走るより速く、スケルトンコングの前に飛んでいく。
スケルトンコングは機械的な動きで腕を振るった。それは離れていた僕でさえ、目で追うのが難しいスピードだったが、ピセルはそれを難なく躱した。
『ワタシは省エネモードではありマスが、元が名前持ちの上位天使。なのでこの程度の敵に後れを取るなどありえマセン。どうか安心してそこで見ていてクダサイ』
ピセルは言葉通り、スケルトンコングの攻撃をかすりもせず手玉にとっている。僕はその様子をハラハラしながら見ていることしかできない。
『そろそろイイでショウ。これがワタシの、魔法デス!』
言うが早いか、ピセルの羽から光りが放たれる。それがスケルトンコングを直撃すると、その部分の骨が音を立てて壊れた。
その壊れた骨の内側から、ピンポン玉くらいの石が転がり落ちる。スケルトンコングはそれを拾おうと手を伸ばし、そのまま床に倒れてバラバラになった。
「すごい……」
『ふふ、今のは【
大魔王か。
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