第7話 ピセルとダンジョン

ハト、はと、鳩。なんでハトなんだ。

目の前で起こったことをすぐには受け入れられない。


「えっと、ピセルは、えっ?」

『ハイ、ワタシこそがあなたの天使、ピセルちゃんです♡』


姿はハトでも、声は間違いなくピセルだった。


「本当に、ピセルなの?」

『そうですよ。ヒト形態からハト形態になっただけです。一文字変わっただけですよ』

「なるほど……って、そういうレベルの変化じゃないから!」

『ノリツッコミありがとうございます』


器用に羽でサムズアップしやがった。ほんとどうなってるのコレ。


『ナニカおかしなことがありましたか?』

「あったよ!ものすごくおかしなことが!今!」

『じゃあ、ありのまま起こったことを説明してください』

「ええと、かわいい後輩の女の子が気がついたらハトになっていた。何を言ってる分からねーと思うが以下略」

『かわいいだなんてそんな、本当のことをありがとうございます。でも理由は簡単ですよ』

「それはどういうことだ?」

『単なる魔力切れで省エネモードになっただけですよ』

「なるほど省エネね。あるあr……いや、ねーよ。なんで現代日本の人間が魔法なんて使えてしかも魔力切れで省エネのためにハトに成れるんだよ!後付け設定とか超展開とかいうレベルじゃないだろ!」

『落ち着いてくださいセンパイ。そもそも私、向こうではなく、こちらの世界の生まれですよ。こちらは向こうと違って、奇跡も魔法もあるんです』

「ええー、本当かなあ?」

『本当ですよう』


光るハトの首が、言葉に合わせて上下に動く。うっすら光りながら人の言葉を話す以外、完全にハトだ。


『次元転移魔法のコストを甘く見過ぎてマシて。ワタシだけなら問題なかったのデスが、センパイ一人連れてくるだけでも、ほぼ全ての魔力を使うことになってしまいマシた』

「僕のせいでピセルがハトに……ごめん」

『イイエ、そんナ。世界の壁を甘く見ていたワタシが悪いんデス、センパイのせいではありマセン。それに、元の姿に戻ることもできマスから』

「本当?」

『今すぐというのは無理デスが、魔力が貯まれば可能デス。そして魔力を貯める一番効率の良い方法ガ、ダンジョンを運営することなんデス』


そういえばピセルが僕を頼ったのは、それが理由だった。うまく本題に戻ったみたいだな。


「ピセルがお父さんから頼まれたって言ってなかったっけ?というかピセルのお父さんって……」


異世界の住人でしかもハトになれるピセルのお父さんは、どんな人物だろうか。そもそも人じゃなさそうだけど。


『神デス』

「かみ!?かみってええと、あの、神?」

『ハイ、その神のかみです』


あやふやに思い浮かべていたなんかスゴイイメージの遥か上空を軽々と超えた答えが返ってきた。


「ええと、神って、なに?」


哲学か。


『この世界を創った創世十二神のうちの一柱デス。ワタシたち天使族の生みの親で、世界秩序の監視と維持を主に受け持っていマス』

「創世神のうちの一柱。そんなスゴイ神様直々の頼み事って、僕には荷が重いんじゃないだろうか。なんかすっごい不安になってきた」

『深刻に考えるコトないデスよ。最初に言ったように、これはただのゲームなんデス』

「ゲーム?たしかにこの世界はゲームっぽいかもしれないけど」

『この世界のセンパイの世界もヒトはほとんど変わりマセン。みんながより豊かに、幸せになろうとしていマス。ヒトは放っておくとどんどん増えて住む場所を広げていき、そしていつか自分の幸せと他人の幸せがぶつかる事になりマス。そのような時、暴力的な手段で他人を蹴落とそうとするヒトが、それなりにいるのデス。しかし、全てのヒトは創世十二神の子供たち。なのデ、神々はその争いをなんとか止めさせようと考えました。そこで使われるようになったのが、ダンジョンです』

「ダンジョンが、争いを止める?」

『そうデス。ダンジョンは魔物の巣窟であり、放っておくと増えた魔物が溢れだしてしまいマス。その代わりに、ダンジョンから得られる素材は人々の生活を豊かにしマスし、ダンジョンを攻略すれば大きな力を得られマス。命の危険が付きまといマスが、それ以上の見返りが期待できる場所、それがダンジョンなのデス


つまり、人々はダンジョンを見つけたら挑戦するしかないし、そっちに気を取られるから戦争どころじゃないってことだろうか。


「って、命の危険があるの?僕はあんまり暴力は得意じゃないんだけど」

『ソコはこのピセルにお任せくだサイ。省エネモードではありマスが、ちょっとした魔法程度なら使うことができマス。さらに、ワタシたち天使の手厚いサポートもありマス。なんと魔力を通貨変わりにシテ、色々とお買い物ができるんデス』


ピセルが翼を振るうと、目の前に半透明のウィンドウが展開した。


『こちら、センパイが使いやすいシステムを構築しておきマシた』


ウィンドウには、様々なものの名前が並んでいた。強そうな武器防具やアイテム。食べ物や服。さらには動物どころかモンスターの名前まである。

指でスクロールさせれば、果てがないくらい長いリストになっていた。でもそのほとんどが、値段の部分が灰色で買えないことを示していた。


「聖なる短剣グラディウス、いちじゅうひゃく……一千万!?いまの所持金は……」

『コチラ、右上にありマス。ちなみに単位は魔力のえむとなってマス』

「わあ、わかりやすい。で、所持魔力は……100M。少なっ」


ゲームの初期スタートか。いや、初期スタートだったわ。


『まあまあ、ワタシの魔力も時間が経てば回復して加算されマスし、それにセンパイはもっとスゴイことができるんデスよ』

「すごいこと?」

『ハイ、それはダンジョンを攻略することデ、そのダンジョンをセンパイのものにできるのデス。そしてそのダンジョンで得られる魔力はもちろんセンパイのモノ。ダンジョンが成長すればするほど、人気があればあるほど魔力を稼げマスから、センパイは将来的に魔力長者になれるんデス!』

「長者って、今どき使わないよ」


なんて否定しながらも、僕はその光景を思い浮かべずにはいられなかった。

たくさんのモンスターを従えた、すっごい強い武器を持った自分の姿を。そしてその横には、元の姿を取り戻したピセルがいるんだ。


「よし、分かった。僕はダンジョンを攻略するぞ!」


こうして僕は、ダンジョン攻略に本気で乗り出すことになった。

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