第6話 決着とピセル

逆転できるかすら分からないとっさの思いつき。でも目の前には剣を振り下ろそうとしているスケルトン。もう逃げ場はない。そしてチャンスも今しかない。

腰にさげた袋からポーション(仮)をつかみ出し、振り下ろされる手にブチ当てた。


コイツがアンデットであるならば、回復アイテムでダメージを与えられる、かも。

そんなゲーム脳での行動は、結果から言うなら大成功だった。

割れたビンから飛び散る液体がかかると、スケルトンはそこから煙を吹き上げた。苦しむように震えながら剣を取り落とし、煙とともにボロボロと壊れていく。

予想以上に効いていて、ドン引く。

足止めくらいにはなるかなと期待してしたけど、ここまで劇的な威力が出るとは想像していなかった。

恐るべしポーション(仮)。


そういえば、と弓持ちの方を見れば、すでに弓を引き絞ってこちらに狙いを定めている。

あわてて杖を体の前に持ってきて盾代わりにすると同時に、矢が力強く放たれた。


「うわっ!」


矢は予想以上の威力で、僕の手から杖を引き剥がした。

こんなものが直で当たっていたら、体に穴が開いていただろう。ほんとうにゾッとする。

杖は遠くへ転がってしまい、弓持ちは次の矢をつがえようとしている。

なら、いま僕にできる一番いい方法は、これだ。


足元に転がっていた、スケルトンが持ってた剣を拾う。

手にずっしりとした重みを感じるそれを、しっかりと握りしめて走る。

弓持ちがこちらを見ながら弓を引き絞り始める。でも、僕の方が速い。


「喰らえ!」


構える弓へフルスイング。剣なんて使ったことないから、棒のように振ることしかできない。それでも重さとスピードのおかげで、弓持ちの手を砕くことができた。

振り切った剣に引きずられる体をなんとか留めて、反対方向へと振る追い打ち。

無理な体勢だったせいか、体ごと弓持ちへとぶつかってしまったが、確かな手ごたえを感じた。


スケルトンもろとも床に倒れ、そこから転がりながら距離をとる。そこで様子をうかがうが、弓持ちスケルトンが起き上がる様子はなかった。

慎重に近づいてみると、スケルトンの首の骨が見事に割れている。

暗い眼窩で僕を見ながらガタガタと顎を鳴らしているので、介錯のつもりで剣を叩きつけた。


部屋の中を見回せば、立っているのは僕一人。

弓持ちは今、塵になった。剣持ちはいつの間にか、塵になって消えていた。盾持ちは、飛ばされた骨がゆっくりと集まりつつある。

盾持ちの頭蓋骨まで歩いていき、それに剣を振り下ろす。頭蓋骨を砕けば、塵となって消えていった。


これでやっと終わった。


部屋の奥へ視線を向ければ、下着姿のピセルがそこにいた。

駆け寄って、そのむき出しの肩に触れる。

ちゃんと暖かい。


「ピセル、無事だった?スケルトンは全部倒したよ」

「ん、ん~?」


軽くゆさぶると、ピセルが目を開けた。

まだ頭がはっきりしてないのか、視線がぼんやりしている。


そういえば、今のピセルは色々とヤバイ。かわいい下着と黒サイハイというこの姿は、僕にはいささか刺激が強すぎる。

着ていたローブをあわてて脱いで、ピセルの体を隠した。


「あ、センパイご無事でしたか?」


まだ寝ぼけたような声で聞いてくる。


「それ、こっちのセリフだよ。どこにも怪我はない?」

「平気です、問題ないですよ。疲れたんでセンパイが来るまでちょっとだけ寝るつもりだったんですが、意外としっかり寝ちゃったみたいです」


この娘、意外と神経太いんだな。

僕だったら、いきなり骨に連れ去られたら震えてるしかできなかったと思う。


「そうだセンパイ、ここにいたはずのスケルトンたちはどこ行ったんですか?」

「あいつらなら、僕が倒したよ」

「え、ウソ?まさか」


ピセルは驚きながら、僕の手を握った。


「ここは魔物を倒してレベルを上げることで強くなる世界なんです。普通なら、レベルを持たない人がノーマルスケルトンを三体も同時に相手にして勝てるわけがないんですよ」

「レベル?世界?ピセルはここのことを知ってるの?」

「もちろんです。言ったでしょう?私はこのダンジョンを攻略することをお父様に命じられたのです」


そうだ、そういえばそうだった。

つまりピセルは本当に異世界の人間で、僕をここまで連れてきたってことなのか。ピセルはいったい何者なんだろう。

不思議に思って見つめていると、急になにかに気づいたようにモジモジしだした。


「センパイすいません。お話の途中ですが、今のままではちょっと問題があるので、その、後ろを向いてもらってていいですか?」

「ああ!ごめん気がつかなくて」


慌てて後ろを向く。

あ、そういえば僕はピセルの服を回収してたはずだ。


「ピセル、あのさあ……」

「ん、……しょっと」


なまめかしい声とともに、なんか、想像力をかきたてる音が聞こえた。

軽い布がこすれ、そして床に落ちる音。

そのせいで僕の心臓が、ちょっとやばいくらいドクドクいっている。


「ちょっ、ピセル、何をしてんの」

「あ、今ふりかえっちゃダメですよ。センパイのエッチ」

「もちろん見ないよ。でもその……」

「でもセンパイが見たいなら、……そうですね、あと10秒数えたらこっち見てもいいですよ」


「ななな何を言っているんだよピセル」10。


「僕は見たいだなんて言ってないじゃないか」9。


「そうだ、君の制服をスケルトンたちが持ってたんだ」8。


「いま出すからちょっと待っててよ」7。


袋に手を入れて制服を掴む。6。


「センパイは、着ている方がお好みですか?」5。


「いや、そんなことはない、かもしれないけど」4。


「ですよね。あとちょっとだけだから待っててクダサイ」3。


風を感じた。

それは背後、ピセルのいる方から吹いてきている。

急に風が強くなり、閉じた室内で吹き荒れるそれに、飛ばされないように耐える。

風はすぐに収まり、ボス部屋に静けさが戻った。


「もう、いいですよ」


ピセルの声が、すぐ後ろで聞こえた。

いったい何が起こったのか、それともこの後起こるのか。ドキドキしながらゆっくりと振り返る。

さっきまでピセルが立っていた足元には、ピンク色のブラとショーツ、そして黒のサイハイが落ちている。

そしてその上には……。


「どうですかセンパイ。何も着てない私はカワイイですか?」


薄っすら光る白いハトが、ポーズを決めて立っていた。

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