第5話 初のボス戦
いかにもボスのいそうなその部屋は、通路よりも明るかった。
光る石が松明のように壁に掲げられていて、それが強い光を放っている。
中では三体のスケルトンが待ち構えていた。
今までのスケルトンとは違い、それぞれひとつだけ武具を身につけている。近い順に盾・剣・弓を持っていて、体の色も新品のように白い。
敵ながらバランスのとれた編成だ。そう思った時、スケルトンたちが僕へ向かって一歩踏み出し、その後ろにいた彼女の姿が見えた。
「ピセル!」
ピセルはぐったりとした様子でも壁にたれかかっていた。
僕の声にも反応しないので駆け寄ろうとすると、スケルトンたちが立ちふさがった。
「邪魔するな
僕の言葉を笑うように、スケルトンたちは顎の骨をカタカタ鳴らした。それぞれが手に持つ武具を構えて近づいてくる。
いちばん近くにいたのは盾持ちのスケルトン。盾を体の前に構えてどんどん迫ってくる。
「どけ!」
杖で殴りつけるが、盾で簡単に防がれてしまった。
盾は鈍い音を立てるが、ひるむ様子もない。
むしろ押し返されて、僕の方が少し下がってしまった。
「このっ!どけっ!どけったら!どけよ!」
何度もなんども杖を振るが、その全てを受け止められる。
そのたびに僕は後ろへ下り、ついには入り口の扉まで押し返されてしまった。
まずい。
杖を振り上げた時に、弱気がもたげて、手が止まる。
このままでは身動きが取れなくなる。盾持ちの後ろには剣持ちと弓持ちがいるし、スタミナが尽きたらなぶり殺しにされてしまうだろう。
動きを止めたのは一秒もなかったはずだが、今までと違うことにも気がついた。
盾持ちのスケルトンも動きが止まっている。
今までずっと頭を狙っていたから、盾を顔の前に掲げている。
もしかして、盾で自分の視線を遮っているから動けない?
盾に杖が当たる衝撃を待って、それから前進してこようとしているのか?つまり、杖が当たるまでこのままだとか?
そうだとしたら、ちょっと試してみよう。
体をひねって力をためる。こいつが厄介なのは、盾を持っているからだ。なら、盾を無くしてしまえば楽になるはず。
「くらえ!」
相変わらず盾を構えたままのスケルトンへ、バッティングのごとく杖を振り抜いた。
それは狙い通り盾を持つ手に当たり、手の骨ごと盾を吹き飛ばした。
やった、上手くいった!
そう思った瞬間、気がついた。
盾持ちだったスケルトンのすぐ後ろに、もう一体別のスケルトンがいる。持っているのは金属製の剣。
挟みうちされないように、直線に重なるように逃げていたのは僕だけど、くっつきそうなくらい近づくとは思ってなかった。
剣持ちが剣を振りあげる。そして盾持ちだったスケルトンの頭を吹き飛ばした。
盾持ちの体は、糸が切れた操り人形のように床に倒れた。
剣持ちのスケルトンが僕を見る。ただの空虚な穴のはずなのに、
助けてくれたわけではないのは、確定的に明らかだった。
盾持ちと戦って分かったけれど、こいつらは今までの雑魚スケルトンとは一味違う。杖の一振りで骨が壊れることもないし、それどころか受け止める力がある。しかも武器を持っているのだ、普通に戦うと、かなり苦戦しそうだ。
そう、苦戦はするだろうが、負けるつもりはない。
剣持ちから距離をとって、杖を構えなおす。思いっきり殴れば、骨が外れることはさっきわかった。
一撃二撃では倒せなくても、何十発も殴れば倒せるだろう。
そう思った時、キリキリという張り詰めた音がかすかに聞こえた。そちらを見れば、弓持ちのスケルトンが僕へ向けて弓を引いているのが見えた。
「やっば!」
慌てて横を向いて走りだす。
直後に風切り音が、僕がいた場所を通り過ぎた。
死ぬ!これ一撃でももらったら動けなくなって、次かその次あたりで死ぬ。
予定変更。剣より弓を先に倒しておくべきだ。
弓持ちを中心に、円を描くように走る。
弓持ちが矢をつがえ、引き絞り、狙ってから矢を放つ。
動いていなければ頭に当たったかもしれないけれど、走っていれば当たらない。
置き射ちするような知能もないみたいだ。
矢が外れたことを確認してから、弓持ちへと急角度で方向転換。また矢をつがえて引き絞り始めたところで、横方向への走りにもどる。
矢をよけてから走れば、次に矢をつがえる前に近づける。これを繰り返せば、安全に弓持ちにたどり着ける。
はずなんだけど、そう上手くはいかないよなあ。
ため息をつきたくなるのをこらえて、進行方向を見る。
そこでは、剣持のスケルトンが待ち構えていた。
ちらりと横を見れば、弓持ちのスケルトンが矢を引き絞っている。
今まで二回ほど射られたが、矢を放つタイミングはたぶん同じだった。
だから今回も同じタイミングになるだろうと祈りながら、スピードを落とす。
剣持ちと接触したら、足を止めることになる。そしたら横から射られて終わりだ。だから弓持ちから離れることになるけど、剣持ちの外側を回るように走ってタイミングを計る。
頭の中でのカウントダウン。3・2・1、今だ!
全力で床を蹴り、剣持ちへと特攻する。振り上げられた剣へ向けて、杖を掲げて走る。
弓持ちが放った矢が、音と風を置き去りにして僕のすぐ後ろを通りすぎる。
上手く矢を躱せた!でも安心している暇はない。
正面から振り下ろされる剣をよく見て、それに杖を合わせる。鈍い音を立てて、剣と杖がぶつかる。硬い木でできた杖は、金属製の剣をしっかりと受け止めた。
こっちも上手くいった!
そう思っえたのは一秒にも満たなかった。
受けとめればなんとかなると思っていたが、甘かった。剣持ちがさらに力を込めてきて、そのままどんどん押されている。
くそっ、こんなに力の差があるとは完全に予想外だ。勝てなくても、つば競り合いくらいにはなると思っていたのに。
僕はけっこう全力だったのに、剣持ちはまだ余裕があるようだ。体勢を崩した僕に、さらに圧をかけてくる。
「マジ、やば!」
圧力に負けて膝をついた僕へ、剣持が剣をふたたび振りかぶった。
剣が振り下ろされる。それを転がってよける。
剣は頭の横の地面に当たり、硬い音をたてた。
また剣が振り上げられ、振り下ろされる。
さらに転がってよける。
また剣が振り上げられ、振り下ろされる。
さらに転がってよける。
よけてもよけても追ってくる。ダメだ、このままではジリ貧だ。それに目も回ってきた。
このままでは殺される。どうするどうする、どうすればいい?
回っているうちに、地面に落ちてた石で背中がグリッてなった。
痛みでつい跳ね起きる。アザになってるかもしれない。回復したいが、でもこんなことで貴重な薬を使うわけにはいかないし。
ん、回復薬?
「閃いた!」
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