第9章ー2 星野暗躍・門倉暗闇・真田強靭・児玉強運

 リニアモーターカーに乗車している内は、想定通り何もなかった。

 迷彩服姿のコスプレ野郎達は大人しく乗車していて、オレ達が降車した新岡山駅でも座ったままだった。どうやらオレ達とは無関係らしい。

 変な恰好していたぐらいで・・・少し過敏になりすぎてんのか?

 油断するよりはマシだろうがな。

「さあ、行こうぜ、孝一君。在来線を利用するここからが本番だ」

「自分の出番はまだ先じゃん」

「盾役にはなる。だけどな、絶対はないんだぜ。周囲に気を配って、いざとなったら避けるか亀になるか自分で判断するんだ」

「りょーーーかいだよ」

 孝一君は気のない返事をした。

 人工知能の攻略法を考えているのだろうな。世界のため、仕方ないから肉壁になってやるぜ。

 真田は周囲を警戒しつつ、リニアモーターカーのホームから地上へと、2人はゆっくりと歩を進める。エレベーターは閉じ込められる危険があるので使用しない。在来線のある地上の駅構内に近づけば近づくほど、店舗数が増え賑やかになってきた。

「男同士で命がけの旅行とは冴えないじゃん。だから、お土産ぐらい買って帰る。早めに停止させて、店舗が開いてる時刻までには戻りたいんだよね」

「事件が解決したら、オレは有休でもとって旅行でもするかな」

「一緒に旅行してくれる相手いんの?」

「友達ぐらいいるぜ」

「女性で?」

「なぜ女性?」

「命がけじゃなくなったとしても男同士だと・・・やっぱり、あまり冴えないじゃん」

「そんなこともないんだぜ。ラフティングにキャニオニン、ケイビング、それとジップラインやロッククライミング。こういうアクティビティは男同士の方が盛り上がるんだぜ。そして夜は疲れを温泉で流し、美味い料理に地酒で気分転換する。今から愉しみだぜ」

「ふーーーん」

 孝一は何やら不機嫌そうな声音で返事をし、不満げな表情を浮かべている。

 まだ高校生だし・・・気の合う友人と面白そうな場所へと赴き、様々なアクティビティを体験するという経験がないんだろうな。

 思考の隙を突くかのようなタイミングで、天井の点検口の蓋が落下する。

 咄嗟にオレは両腕を頭上で交差させ防御する。1.5メートル四方の板状の蓋の端に両腕が当たり、反対端が背中に激突した。インナー・ダイプロのおかげで衝撃は感じたが、全く痛みはないぜ。痣にもなっていないだろう。

 隣を歩いていた孝一君も無傷だった。

 ただ防御したとかでなく、身長差でオレの方が早く蓋にぶつかっただけだが・・・。

 振り向いてから屈み込み、通路に落ちた蓋を確認する。

 蓋の3ヶ所にステンレス製のアイプレートがしっかりと固定してあり、そこに天井ん点検口から伸びているワイヤーのフックが引っ掛かっていた。

 人工知能が、どうにかして落としたのだろう。

 油断は禁物だぜ

 店員や乗客が何事かと集まりだしたので、孝一君を促して足早にその場を後にする。100パーセント被害者だが、今は時間が惜しい。駅員とか警察官に足止めを喰らう訳にはいかないのだ。

 その後も、どうやって実行しているのか分からないが、あの手この手からめ手と攻撃を受けた。

 さっきは少し先の天井に設置されているスプリンクラーから水が出たので通路の脇に寄ったら、タイミングよく自動販売機の扉が開きオレは正面から衝突した。

 今は漸く在来線のホームに辿り着いた。

「ここなら大丈夫だろうぜ」

 どんな物が凶器となるか予想つかないため、周辺に何もない場所を求めた。その結果、2人は在来線乗換ホーム中央付近で立っていた。

「お任せしますよ。自分は何処でも大丈夫そうなんで・・・」

 そう、孝一君の台詞通りだった。

 さっきからの攻撃は全部オレに当たり、孝一君には当たっていない。

 オレが孝一君を護った結果であったり、孝一君が反応して防御した結果からなる発言なら、安心もきるのだが・・・。どう振り返って思い出してみても、孝一君は偶然に攻撃を受けてないだけなのだ。

 頼むから油断しないでくれよな。

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