第9章ー3 星野暗躍・門倉暗闇・真田強靭・児玉強運

 偶然が続くのは、今が幸運なだけなんだぜ。しかも、いつか幸運は不幸に化ける。それも突然に・・・。

 偶然の幸運でも不幸でも、最後まで続くのは必然。

 必然は、何らかの意図なり意思があって起こり得る。

 地方は土地に余裕があるので、可動部分の少なく設置、保守費用を安くできる駅舎ごと覆う空調対策がとられる。電車がホームに出入口の線路は、自動扉方式が採用されている。

 こんな設備の少ない場所のアクシデントでは、幸運が試されるんだろうなぁ。

 試されたくねーなぁー。

 リニアモーターカーを降車してから、周辺を警戒し続けていた真田の集中力が狭間に落ち、意識が少しだけ現実から遠ざかる。

 在来線の駅に公共交通機関監視用の小型ドローン5機が、電車の入構タイミングで線路上からホームへと突入しようとしていた。

 都心以外の場所では各都道府県警本部が、公共交通機関監視用として小型ドローンをランダム飛行させている。主に河川や田畑の上空、線路や公道の近くなど、落ちても被害がすくない場所が飛行空域になっているのだ。

 小型ドローンが駅に近づいた途端、5機ともコントロールを失い、次々と線路脇に墜落していった。

 しかし真田と児玉は、駅の外で起きていることに全く気づていてない。

 気づけていたなら、もう少し電車にも気を配っていただろう。

 降りたホーム向かいに進入してきた電車の先頭車両、その屋根に違和感が・・・。

 3両編成の電車が駅に停車すると同時に、屋根に取りついていた多目的中型ドローン2機が飛び出した。先頭車両から真田と児玉まで、少しだけ距離がある。また通常の多目的中型ドローンは、大体5キログラムもあり初速は遅い。

 真田は怒鳴りつけるよう児玉に指示を飛ばす。

「亀っ!」

 警戒していた真田の動きは俊敏で、1機目のドローンの中心線を右正拳突きで打ち抜いた。ドローンの自重と加速度が余すところなく破壊力に変換され、バラバラになって駅のホームへと落下する。

 2機目のドローンは、1機目のドローン撃破の刹那、急上昇して真田の魔の手から逃れる。真田の頭上を抜けると急降下し、少し離れた位置で亀っている児玉への激突コースに入った。インナー・ダイプロに護られてるとはいえ、当たり所が悪ければケガをする。

 肉壁となるべく児玉の上に覆いかぶさろうと一歩踏み出すと、突如ドローンが推進力を失い、慣性力だけとなった。真田は即座に攻撃へと切り替え、左前蹴りが回転翼の1つを破壊する。蹴りの力が加わったドローンは児玉の上を通過し、ホームへと落ちた。

 真田は2機目のドローンへ体重をかけた踏みつけ攻撃を敢行し、完全に飛行機能を破壊したのだ。

「躓いて転んだふりをしろ」

「はっ? 別にいいじゃん」

「駅員の目がある」

 ドローンの破壊音に駅員が気づき視線を寄こしていたのだ

「了解したよ」

 真田は、児玉に声をかけ手を差し伸べる。

「手を取れ。演出だ」

「細かい」

 文句をたれながらも児玉は真田の手をとった。真田の手をとらず、そのまま児玉が立ち上がっていたら、何かが起きたのかと駅員も感じただろう。しかし真田は、さも連れが転んだだけのように振る舞った。そして、他には何事もなかったかのように児玉と電車に乗車したのだった。

 電車が発車した後、駅員は真田たちのいた場所で壊れた2機のドローンを発見し途方に暮れた。


 そろそろ真田君たちはリニアモーターカーから降り、在来線に乗車している頃かな。

 広角レンズの先の量子コンピューターは門倉の推測通り、外部への通信量を増大させていた。複数の広角レンズは1つの量子コンピューターのみを監視するために取り付けた。門倉が覗いているのは、ネットワーク通信機器を中心になるように設えたレンズである。

 量子コンピューターの各機器には、それぞれの稼働状況が分かる小型ディスプレイが搭載されている。研究用の量子コンピューターは最先端技術の塊である。そのため、必ずしもOSなりAIが各機器の稼働状況を正確かつ精確に把握できるわけではない。

 問題発生時の障害切り分けで、個々の機器の稼働状況を確認する場合もあるのだ。

 広角レンズにしたのは、量子コンピューター全体・・・他の機器の稼働状況をある程度把握するためだった。ネットワークの通信量だけを見ていて、量子ビットプロセッサの増大に気づかなかったら大失態となる。

 今回監視対象としているAI搭載の量子コンピューターには、新アルゴリズムによる推論アーキテクチャーをプロセッサに実装している。ソフトウェアで後からAIに組み込むより、ハードウェアで実現したため、他の追随を許さない圧倒的な性能を有している。

 推論アーキテクチャーは、仮説して検証し、推論の正否を判断する。それが圧倒的スピードにより多くの経験をAIに蓄積させる。

 要は人の思考に近いことを、AIが人以上の思考スピードで考え、人による不正確な検証による不確かな正否を、正確無比に検証し正否を判断する。しかも人を遥かに超えるスピードで・・・。

 推論アーキテクチャーを実装したプロセッサが活発に稼働しているという事は、人で言うところの悪巧みをしている事に他ならない。無論、このAI実装の量子コンピューターに限る。他は至って真面目に、推論アーキテクチャーを運用しているはず・・・。

 監視している量子コンピューターのAIが、悪巧みしていた実行ログを入手したい。できればAIに悪巧みを考えさせた命令の受諾ログも欲しい。ログは、ボク達の諭旨退職処分を回避し、犯人を追い詰める証拠として必要なるんだよね。

 ヨッシー頼むよ。目立たないのは苦手だろうけどさ。だけど暗躍してくれないと、犯人の確保と証拠のログ保全が覚束なくなる。

 量子コンピューターのラック内の暗闇で、高枝切鋏を握り締めているボクの苦労を無にしないでくれよな。

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