十八 計画

「おい馬鹿、いつまで寝てるつもりだ」

「いたっ!」


 次の日、悠依は誰かに蹴られる所から始まった。


「ん……。架威? 遥季は?」

「陽翔についていったぞ」

「そっか」


 そのまま去っていった架威と入れ替わるように、薙癒が入ってきた。


「あ、起きた?」

「うん、薙癒おはよ」

「おはよう!」


 昨日、“敬語で話すのはやめる”と決めた2人の距離は一気に縮み、「今日はどこ行く~?」「どうしようか?」「買い物したいな~」「またー?」などとキャイキャイ女子トークをしている。


 するといつの間にか戻ってきていた、架威が着替えながら呟いた。


「どうでもいいが、早く決めてくれ」

「また街ブラブラしようかと思ってるんだー!」

「そうか」


 こうして天曳に着いて2日目、天曳旅行3日目は買い物と観光の1日となった。数時間後、オシャレなカフェや古着屋などをまわり、美味しいご飯を食べ、部屋に着いた悠依は、椅子に沈み込んだ。


「はぁ~。疲れたぁ」

「大丈夫? 悠依」


 薙癒は心配そうな顔をしてペットボトルの水を差し出した。


「うん、ありがと!」


 ふと見てみると、架威と薙癒の2人は息こそ切れているものの、悠依ほど疲れている印象は受けなかった。


「2人とも疲れないの?」

「俺達は基本遥季に使われるものだからな。言ってしまえば、俺達は人ではない。見た目は人間だがな。疲れはそんなにたまらない。怪我とか傷とかは関係なく反映されるがな」

「そうなんだ、なんか便利なのか分からないね」


 架威は不敵な笑みを浮かべた。


「別に、怪我しなければ良いだけの話だろ」


 “俺は怪我なんてしないからな”というような勝ち誇った顔をした架威の背後、引きつった笑みを浮かべる遥季の姿があった。


「へぇ? お前そんな風に思ってたのか。なんなら少しの傷でも数倍の痛みが反映されるように改良してやろうか?」

「うわ、遠慮しとくわ」

「遥季! おかえり!」


 遥季は架威のことなどなかったかのように、柔らかい笑みを浮かべ悠依の頭を撫でた。


「ただいま、悠依」

「どうだった? 陽翔さんの仕事」


 遥季は苦い顔をした。


「難しいな、まだ全然だよ」


 悠依が何て言おうか迷っていると、カラッという音を立て襖が開いた。


「そんなことないよ?」

「陽翔さん! おかえりなさい」

「ただいま、悠依ちゃん」


 陽翔は先程の遥季と同じように柔らかい笑みを浮かべ悠依の頭を撫でた。


「学園長も褒めてたよ。最初からこれだけ出来れば良い方だって」

「そうなんですか! すごいね、遥季」


 しかし、遥季は浮かない表情だった。


「でももっとちゃんとできるようにならないと。悠依のために」

「焦ると失敗するよ。あ、遥季、学園長がよければまた来て欲しいと言っていた。返事は星劉に帰るまで。考えておいて?」

「――わかった」

「それと、悠依ちゃん。僕明日休み貰ったから、みんなでドライブにでも行く?」

「本当ですか? じゃあ陽翔さんも一緒に回れるんですね! よかったです、渡せないかと思ったー!」


 陽翔は首を傾げた。


「渡す? 何を?」

「あ、そうですね! じゃあ今渡します!」


 悠依は自分のカバンから小さな袋を出した。


「はい、どうぞ!」

「ん? これは?」

「開けてみてください」


 陽翔が袋を開けると、そこにはブレスレットのようなものが入っていた。


「これはブレスレット?」

「あ、いえ。ブレスレットにも見えますけど、アンクレットというものです。足首につけるものらしくて……、私たちとお揃いなんです。陽翔さん、仕事してるからアクセサリーとかダメかなって思って。だからあまり目立たなそうなアンクレットにしてみたんですが……」


(やっぱりお仕事してる人にアクセサリーは違ったかな……?)


 悠依は不安げな表情で陽翔を見上げた。


「可愛いね。ありがとう! 明日からつけるよ」

「ありがとうございます!」

「お礼を言うのは僕の方だよ。ありがとう」


 食事を終え、悠依たち5人は明日の予定を立てていた。


「明日、どうする?」

「兄貴がいるなら、せっかくだし遠出したいよな?」

「うーん、でもせっかくのお休みだし、疲れないですか?」


 悠依は、チラッと陽翔の様子をうかがった。


「ん? 僕は大丈夫だよ。行きたいところとかないのかい?」

「海!」


 陽翔の問いに、遥季が真っ先に答えた。


「海か、いいな」


 架威も同調した。


「じゃあ海にする?」

「海……?」

「どうしよう……」


 陽翔の言葉に、薙癒と悠依は浮かない表情だった。


「なんか、2人とも浮かない表情だけど、海嫌いだった?」


 陽翔は心配そうに悠依を見た。


「あ、いや! そういうわけじゃないんですけど、海行くなら水着とか……買わなきゃなぁって、思って。海はむしろ行きたいので、大賛成です!」

「そっか、じゃあ明日は水着とか買ってから海に行こうか。僕らも持ってきてないし、どっちみち買わなきゃいけないしね?」

「はい!」

「あ、兄貴。夜はバーベキューしようぜ!」


突然の遥季の言葉に、陽翔は困惑しているようだった。


「バーベキューなぁ。あ、じゃあキャンプするか?」

「キャンプいいな! しようぜ!」

「いいですね! ――あ、でも、陽翔さんお時間大丈夫ですか? キャンプすると、帰る時間が遅くなりますよね……?」

「大丈夫だよ、月末までは僕も夏休みなんだ。だから、悠依ちゃんたちが学校行き始めるくらいに、僕も仕事が始まる感じかな?」

「そうなんですね! よかったです!」

「そうと決まれば、明日は忙しいね。キャンプ用品と水着を買いに行かなきゃだからね」

「そうですねー!」

「どこに行くとかは僕が調べておくよ。とりあえず、明日は7時に朝ごはんだから、寝坊しないようにね?」


 そう言い残し、陽翔は自室に戻っていった。


(キャンプかぁ! いつぶりだろう……? 楽しみだなぁ)


 そうして悠依も眠りについたのだった。

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