十三 旅行
9時50分、悠依は遥季の家の呼び鈴を鳴らした。
『はーい』
「あ、悠依です」
『悠依? ちょっと待ってて』
扉の向こうからパタパタと足音が聞こえた。
「おはよ。悠依」
「おはよう、遥季」
「兄貴まだ来てないんだ、少し待ってて?」
「うん。あ、遥季、これ」
「ん?」
「クッキー、いろいろお世話になったし、迷惑かけちゃったから。そのお礼に」
「マジ!? サンキュ! でも全然気にしなくていいぜ? 困ったときは俺が助けてやるから、これからも頼れよ?」
「ありがと。じゃあこれからも甘えさせてもらおうかな?」
「おう! 任せろ」
「遥季なんかには任せられないよ」
突然現れた陽翔は、遥季の頭目掛けて手刀を落とした。
「痛っ! 何すんだよ、兄貴!」
「陽翔さん!」
「やぁ、悠依ちゃん、昨日ぶりだね」
「“やぁ、悠依ちゃん、昨日ぶりだね”じゃねぇんだよ! いきなり何弟の頭殴ってんだ!」
「ま、まぁまぁ、落ち着いて。計画立てるんでしょ?」
「よし、じゃあ遥季、架威と薙癒だして」
「あいつらも参加するのか?」
「――――昨日言ったはずだけど?」
「そうだっけ?」
「いいから早くだして」
「――――架威! 薙癒!」
「なんです主」
「なんだ」
「これで全員そろったな」
陽翔の話によると、陽翔が貰ったのは天織にある
天曳に行くには飛行機で片道6時間掛かる。
「で、いつ行こうか」
「私はもう特に予定もないのでいつでも大丈夫ですよ?」
「俺も」
「じゃあ僕の予定を考慮すればいいのかな?」
「兄貴なんかあんの?」
「一応仕事がね。――ってことで、出発は3日後。4泊5日ね」
「4泊5日!?」
あまりの驚きに悠依・遥季・架威・薙癒の声がそろった。
「うん。あれ、言ってなかったっけ? 貰ったのは良いんだけど長いんだよね、期間が」
「本当に長いですね……」
「あと、僕、一応仕事もするから昼間は遥季中心に観光しててね」
「はぁ!?」
「なんかあったら僕に電話して良いからさ」
「……わかったよ」
結局、この日はみんな夜まで遥季の家で予定を立てていた。
そして2日後、悠依たちは陽翔の運転で空港に向かっていた。
「悠依」
「ん?」
「向こうの予定、考えようぜ!」
「そうだね! 陽翔さん、天曳って何があるんですか?」
「うーん、温泉をはじめとして観光地として有名だからいろいろあるよ?」
「そうなんですか! じゃあ、観光地回ってみる?」
「そうするか。 兄貴、仕事って何時まであんの? あとさ、天曳って交通手段何ある?」
「そうだな……、夜6時くらいには終わると思う。天曳はバス、路面電車、地下鉄、タクシーくらいかな。一般的には、地下鉄か路面電車を使うと思うよ?」
「そっか。じゃあ街回ってるか」
「そうだね! そうしようか」
予定が決まり、気が付くと悠依は眠りについていた。
「……い? ……依。悠依!」
「う……ん? 遥季?」
「着いたぞ」
「空港?」
「あぁ」
空港に着き、諸々手続きを終え、離陸したとき、悠依はまた眠りについていた。その後、天織に着陸し、そこから車でさらに2時間、悠依たちはやっと天曳の旅館に着いたのだった。
「……依ー。悠依!」
「ん、ぁ。遥季」
「着いたぞ。今日は旅館でまったりだからとりあえず起きろ。まだ眠かったら部屋で寝ていいから」
「うん」
遥季にさとされフラフラしながらと歩き出した悠依は、知らない間にチェックインを済ませていた陽翔のあとを追って部屋へと向かった。
部屋は思っていたよりも広く綺麗だった。
「おぉー!」
「結構広いな」
「そりゃあ4人部屋だからね。じゃあ遥季、僕部屋に荷物置いてまっすぐ仕事行ってくるから、夕飯までには戻るけどそれまでみんなのことよろしくな?」
「おう! いってら!」
「いってきます」
陽翔が仕事に行ってから10分後、遥季と薙癒は悠依の様子について話し合っていた。
「で、遥季。悠依ちゃんの様子はどうですか?」
「ここ着いてからずっと寝てるよ」
「妙ですね……」
「薙癒?」
「だってそう思いませんか? 家を出る時も星劉を出る時も元気だったのに……」
そんな考えこんでいる二人をよそに、ずっと悠依の横で様子を見ていた架威がつぶやいた。
「……なぁ。悠依の耳になんか生えて見えるのは俺の気のせいか?」
「え!?」
架威の声に、薙癒と遥季は悠依に駆け寄った。するとそこにはフサフサとした耳を生やしながら“すーすー”と寝息を立てる悠依の姿があった。
「ん……? あ、遥季? 架威に薙癒さんも。どうしたんですか?」
「どうしたんですかって……」
「お前、自分の頭に違和感ねぇの?」
「頭?」
起き上がり頭に手を伸ばす悠依。しかし、その姿にはもう一ヶ所おかしな場所があった。
「悠依、頭だけじゃなくお尻もだ」
「お尻?」
そういいながら頭とお尻を触る。
「な、なんかモフモフしてるんだけど!!」
「だよなぁ。 これは……狐か?」
「狐……?」
「あぁ、しかも白い。白狐か?」
「白狐……」
「架威、お前白狐の力あったっけ?」
「あるわけないだろ。しかも、これはおそらく現世の神の白狐だろう?」
「現世って……、そんな力どうやって……」
「あ! 悠依、お前の父さん、現世で生きてるって言ってたよな! その父さんって妖狐だったりしないか?」
「妖狐……? が、学園長に聞いてみる!」
2コールの後、応えた学園長の声は前に会ったときより疲れたような感じだった。
『はい?』
「あ、学園長! 神月です!」
『あぁ、悠依ちゃんか。 どうしたんだ? 突然、何か困ったことでもあったのかい?』
「あの、えっと。私の父って狐だったりしないかと……」
『幽羽さん?』
「はい!」
「――突然どうしたんだ? まあいい。確かに君の父親、幽羽さんは現世でいうところの“神様”だよ。狐のね」
「神様……」
『それで? そのことを聞いてきたってことは、耳でも生えたかい?』
「えっ!? な、何でこのことを!!」
『なんとなくだよ。気にすることはない。どうせ、蒼麻に誘われたのだろう? 行き先は確か……、天曳だったか? その地は観光で有名だが、社や祠も多い。その気にあてられたのだろう。帰ってくればすぐになおる。だが天曳にいる間は仕方がない、蒼麻に隠す方法と事情を話しておくから蒼麻に何とかしてもらうといい』
「はい! ありがとうございます!」
『いや、頼ってくれて嬉しかったよ。あんなことがあった後だからね。もう話してももらえないかと思っていたんだ。あの件は本当に申し訳なかった。これからも何かあったら連絡しなさい。力になれると思うから』
「はい! ありがとうございました!」
それから30分後、予定より早めに帰ってきた陽翔により、悠依は元に戻ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます