十二 連休

 今日は連休前の最後の日。明日から学園は開校記念日とゴールデンウィークが重なった14連休に入る。

 悠依は早起きして制服に着替え、朝ごはんを食べていた。そして片付けをしているとき、当たり前のように呼び鈴が鳴る。


「おはよ。遥季」

「はよ、もう大丈夫か?」

「うん。もう全然違和感ないよ!」

「そっか、よかった」


 そんな遥季の後ろから薙癒と架威が顔をのぞかせた。


「おはよう、悠依ちゃん」

「おはようございます、薙癒さん」

「はよ、悠依。――今度は狐の耳と尻尾が生えたんだって? 忙しいな、お前」


 架威は嘲るように笑った。


「架威! もう、好きで生やしてるわけじゃないのに!」

「まぁまぁ、落ち着いて、悠依ちゃん。狐でも鎌鼬でも悠依ちゃんは可愛いからいいの」

「――そういうものか?」

「そうよ!」

「あの、2人とも、そろそろ行かなきゃ遅刻……? 遥季?」

「しー……こいつらはいいから先行こうぜ?」

「え!? でも……」


 遥季は悠依の言うことを聞かず手をとって走り出した。


「は、遥季、手離して?」

「は? いいじゃん。このまま行こうぜ?」

「い、いや。このままはちょっと……」

「何で? ……わかった。悠依、お前昔より男の事怖がってるだろ」

「え! いや、別に……」

「なら、なんでこっち見ない?」

「いや特に意味はないけど……」


 悠依が答えると遥季はすっと顔を近づけてきた。


「ほら、覗き込んだら顔背けるし」

「……だって怖いものは怖いもん」

「俺も怖いのか?」

「――す、少し」

「そっか。じゃあ慣れないと……ってことでこのままな!」

「え!?」


 そんな話をしながら学園につき、遥季と悠依は各自教室に向かった。


(酷い目にあった……)


 悠依が階段を上っていると後ろから「悠依!」と呼ぶ声が聞こえた。


「架威?」


 架威は息を切らし走ってきた。


「おまえなぁ、なぜ俺と薙癒を放っていくんだ?」

「ごめんね? 遥季が無理やり……」

「あいつか。まぁ今回は遥季だからいいが、攫われたとかなったら困るから1人ではあまり出歩くなよ?」

「はーい」

「なんだよその返事」


 架威は珍しく優しい笑みを浮かべた。


「あー! 架威、今笑った!」

「なんだよ」

「だって架威なかなか笑わないんだもん!」


 架威は照れたように逸らした。


「いいから、教室行くぞ!」

「あれ? 架威照れてる?」

「うるさい!」



 連休初日の翌日、悠依は柚子とともに街に出ていた。悠依は棗とはあの出来事以来一度も会っていない。聞いてみれば、柚子も棗とは会っていないらしい。


「それで悠依~? 遥季くんとはどうなのよ~」

「え、どうって?」

「どうって? じゃないよ! めっちゃ良い雰囲気じゃん?」

「えー。そんなことないよ? 遥季はただの幼馴染だし。今はちょっと色々お世話になってるけど……」

「色々? 色々って何~」

「い、色々は色々だよ!」

「ふ~ん。でも好きなんでしょ?」

「……う、うん」

「いいなー、青春だね~」

「柚子は? 誰かいないの?」

「いないんだよね~、今はまだ、棗のことがね……」

「そうだよね……柚子は知ってたの?」

「そりゃあね。姉弟だもん。知ってた。でも最近、悠依に危害を加えたころから、何か……、何かが違うの」

「何か?」

「うん。――何が? ってきかれたら困るけど、態度っていうか、纏っているオーラが……」

「オーラ……」

「うん。今までは諜報とかの仕事のときだけ冷たい感じのオーラだったのが、最近は仕事とかがないときでもそんな感じで。棗って感じのオーラがなくなってきたように思えて」

「そっか……」

「まぁ、そんなことを言ってもどうにもならないし、今はもう帰ってきたら迎えるだけだよ。無事でいるならそれで良いし」


 そんな柚子の話を聞き、この日は別れた。悠依が帰宅するとちょうど呼び鈴が鳴った。


「はーい? あ、陽翔さん!」

「やあ、悠依ちゃん。連休に入ったんだって? 遥季に聞いたよ」

「はい! 陽翔さんはいつ帰ってきたんですか?」

「ついさっきだよ、最終の便でね」

「そうなんですか。今回はどこに行って来たんですか?」

「今回は天織あめおりにね。  はい、これお土産。」

「あ、ありがとうございます!」


 天織あめおりとは星霜とは同じ大陸に位置する国のことである。 

 遥季の兄、陽翔は学園の要請で度々他国に行く。何をしているのかは悠依も知らないが、“学園の偉い人の助手”をしているらしい。


「僕が向こうにいる間、色々大変だったんだって? 遥季にきいたよ」

「はい。でも、何で狙われるのか分かったし、父も生きていることが分かりました!」

「そうか、亡くなったって聞かされてたんだっけ?」

「はい」

「――そうだ! 悠依ちゃん。温泉に行かない?」

「温泉ですか?」


 悠依は全く想像していなかった誘いに、目を丸くした。


「そう、温泉。今回の仕事上手くいったからってお礼に宿泊券貰ったんだ。だから遥季と悠依ちゃん、それと式神の2人連れて。どうかな?」

「いいですね! 行きたいです!」

「良かった、じゃあ詳しいことはまた明日、朝10時に遥季の家で説明するから」

「はい」

「それじゃあまた明日ね」

「はい、また明日!」



「よし、作れる!」


 翌日、悠依はお菓子を作っていた。昨日の陽翔の話を聞いたあと、“遥季の家に行くなら今までのお礼も兼ねて何か持ってきたいな”と思った悠依は、早起きして材料を探したのだ。


「ちょっと、作りすぎたかも……?」


 そう呟いた悠依の前にはクッキー30個、ベイクドチーズケーキとアップルパイが1ホールずつ並んでいた。


 遥季の家に行くのは10時、現在時刻は9時30分。考えている時間もない、と思った悠依はとりあえずクッキーを持っていくことにした。

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