十一 解毒
遥季の部屋でくつろいでいた架威は、突然開いた扉に驚いていた。
「遥季? あ、悠依もか?」
「架威」
そう言った普段の遥季とは様子が違っていた。
「どうした?」
「悠依が、薬飲まされたみたいで、意識も薄れてきたし」
焦っている様子の遥季に、架威は少し考えた後に応えた。
「薬……か、どんな薬かにもよるが、麻痺系の薬ならあいつ、使えるんじゃね?」
眉間にしわを寄せた遥季が言った。
「あいつか……あんまり出したくないけどなぁ」
「そんなこと言ってる場合か? で、悠依が飲まされた薬は?」
「あぁ、感覚増進みたいなやつらしい」
「それならあいつの得意分野だ」
「なら呼ぶかぁ? ふぅ……」
遥季はため息をつきながら薙癒たちを呼び出したあの部屋に入った。そして、以前唱えた呪文とはまた違う呪文を唱え始めた。
すると今度遥季の前に現れたのは、男子とも女子とも判断しがたい中性的な容姿の金と黒のメッシュを入れたカラフルな髪の青年だった。
「はる、どうしたの? 珍しいね、はるが僕を召喚するなんて」
「
遥季が言うと、緋弥は大きな目をさらに丸くし首を傾げた。
「感覚系? うん、投薬も解毒も出来るよ~」
「そうか、解毒してほしいやつがいるんだ」
緋弥は先程とは反対の方向に首を傾げた。
「解毒かぁ……。投薬しなくて良いの?」
「じゃあ、解毒した後にでもビタミン剤でも投薬してやってくれ」
「りょーかい! ちなみにその子ははるの彼女?」
「まだ、彼女じゃない。が、大事なやつだ。助けてやってくれ」
「でも、感覚増進でしょ? ほっといても効果は切れるはずだけど?」
「あいつは普通の人間とはちょっと違うんだ。効果が切れずらく、効きやすい。やっかいなんだ」
「そういうことね。 じゃあちょっと行ってくる!」
そう言って緋弥は悠依の寝かされた部屋に向かった。
「ん。んん……はぁ……」
「この子か」
「ん……」
「よし」
緋弥は悠依の額に手をあて、と唱えた。
「
すると悠依の体から黒いものが出てきた。
「ん? これは……?」
ただならぬ雰囲気に遥季が部屋に入ってきた。
「どうした、緋弥」
「はる、この子って何の力持ってるの?」
「ん? 巫女だけど?」
「巫女? だからかなぁ」
「何かあったのか?」
「いや、はる見える? この黒いの」
「あぁ、これは?」
「うん。これ、力を持っていない相手に術をかけたら出るはずなんだけど……」
「とりあえずこの状態は大丈夫なのか?」
「うん。一応大丈夫、薬も解毒したし」
「そうか、じゃあここからは薙癒に頼むか」
「ごめんねー、さすがにここからは無理ぽいー」
「いや、助かった。ありがとな、緋弥」
「いいよ~。じゃあ戻るね!」
こうして緋弥は姿を消した。
「さて……、薙癒!」
「どうしました、主」
「これ、何か分かるか?」
「これは……邪気、ですかね」
「邪気? って確か目に見えないんじゃ……」
「普通はそうです。しかし、悠依ちゃんは巫女です。普通じゃないことが起こってもおかしくありません」
「―――どうにかできないのか?」
「そうですね……、私にはどうすることも。しかし、悠依ちゃんは巫女なので自分で邪気を浄化することが出来るはずです!」
「なら、様子を見るか」
「そうですね」
その日の深夜、悠依は目覚めた。
「ん。ん?」
(私、一体? でも体は楽だ)
悠依が自分の体をポンポンと確認し始めたときだった。
「ん?」
耳に違和感を感じた。お尻にもだ。触ってみると以前生えた鎌鼬の耳と尻尾とはまた違う、もふっとした感触の耳と尻尾が生えていた。
(何この耳と尻尾!)
触った感じ的には耳は三角、尻尾はふさふさしている。
(猫、っていうより犬……? ――とりあえず今日は寝よ。明日になったら消えてるはず)
そう願って悠依は再度眠りについた。
「ん……」
「悠依?目が覚めたのか?」
「ん……遥季? 私……。そうだ! 耳と尻尾!」
悠依が頭とお尻を確認すると、そこには何もなかった。
「よかった……消えたんだ」
「どうした? 何かあったのか?」
「うーん……鎌鼬とはなんか違ったんだよね。どっちかっていうと”狐”みたいな?」
「狐か」
「うん。寝ぼけてたし夢かもしれないけどね」
「そっか。まぁ一応そっちも調べとく。それはそうと悠依、身体大丈夫か?」
「身体……、うん! 大丈夫みたい!」
「そっか。――緋弥? いるか?」
遥季が呼ぶと、緋弥はピョンと現れた。
「なになにー? はる呼んだ?」
「こいつがお前の中の薬を解毒した緋弥ひや。薙癒や架威と同じ俺の式神だ」
「緋弥……ちゃん?」
「失礼だなぁ! 僕は男だよ!」
「あ、ごめんね! 緋弥くん」
「もう!」
緋弥は腰に手を当て、頬を膨らませた。
「謝らなくていいぞ、悠依。こいつ見た目マジで女だから」
「はるまでそう言う!」
「見たまま言っただけだ」
「ふふふ。仲良いんだね!」
「……可愛い」
ぼそっと呟いた緋弥の言葉を、遥季は聞き逃さなかった。
「緋弥……?」
「え! 何? はる、何も言ってないけど?」
「バカかお前。主に嘘ついても意味ねぇよ」
「ん? どうしたの? 遥季。緋弥くんも」
「あー、こいつがお前のこと……」
「あー! なんでもないよ! なんて呼べばいいのかなって聞いただけ!!」
焦った様子の緋弥に首を傾げ、悠依は答えた。
「普通でいいよ? 好きな風に呼んで?」
「じゃあゆうって呼ぶ!」
「うん!」
そして夜、遥季と悠依は二人でくつろいでいた。
「そういえば悠依。昨日、地下で何言われたんだ?」
「昨日……あ、学園長に言われたこと?」
「あぁ、実は昨日俺、学園長に教えられたんだ。“神月さん、地下にいるから早く助けてあげなさい”って」
遥季の言葉に悠依は目を丸くした。
「なんで学園長が……?」
「何か、調査しろって命じられたはいいが、その命令に違和感を感じてたみたいだった。だからって本当に政府の命かもしれないから自分が動くわけにもいかないし。そこに俺が悠依を探してるって聞いて電話してきたらしい」
「そっか。じゃあ、学園長に感謝だね!」
「あぁ。――で、何言われた?」
「話せば長いよ?」
「いいから。……話せ」
そう言った遥季は、大人びた、真剣な表情で悠依を見た。
「……私のお父さんが
「
「
「
「え?」
「ずっと考えてたんだ。何で悠依なのか、やっとわかった。
「そっか。だからか」
「このこと。誰かに言ったのか?」
「いや、言っていいのかわかんなかったから……」
「その方がいい。また狙われかねないからな」
「うん」
「まぁ、今日は休め。明日は修了式だ」
「あ、そっか! うん! おやすみ」
そう言って悠依は自分の部屋に戻り、眠りについた。
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