四 救出と守護
(遅いな)
伊織に気を使い街をブラブラしていた遥季だったのだが、学園を出てからもう1時間は経とうとしていた。
(何の話か知らないが、そろそろ暗くなってきたし。今日は帰らせてもらおうか)
学園に戻った遥季が、玄関の扉を開け中に入るとそこに居たはずの2人はいなく、声も聞こえなかった。
(おかしいな。どこ行ったんだ?)
とりあえず遥季は2人を探すことにした。
学園内は暗く数メートル先の視界さえも怪しいほどだった。
そんな中遥季はなんとか裏階段に行き着いた。
そこで目に飛び込んできたのは、階段に座り込み、ぐったりとしている悠依の姿だった。
「悠依!!」
遥季は叫んだ声とは裏腹に冷静だった。
悠依を抱き起こし、首筋についた二つの小さな傷を見つけた遥季は何があったかの予想はついた。
しかし、何度悠依の名を呼んでも反応はない。
このままここに放置しておくのもどうかと思った遥季は学園を出て、悠依の家……ではなく自分の家へ向かった。
(どうする……。おそらく襲ったのは久遠伊織だろうけど、和の悠依に洋の血はまずい……。しかも伊織はそうとう上級の吸血鬼だ。――これは
家に着いた遥季はまず寝室に悠依を寝かせ、私服に着替え、陰陽師に関わる本などがおいてある仕事部屋に入り、おもむろに座り込んだかと思うとなにやら呪文らしきものを唱え始めた。
すると、遥季の目の前に女性が現れた。
「どうしました、
「突然悪かったな。頼みがある」
女性は寝室をチラッと見て言った。
「いえ、それで頼みとは、ふむ。……あちらの部屋に寝ている女の子ですか?」
「あぁ。
「“
「あぁ、先輩に吸血鬼がいてな。そいつに噛まれたんだと思う。おそらく上級の吸血鬼だ。穢れも相当だと思う。頼めるか?」
「もちろんです。わかりました。主」
そう言って寝室に向かった女性を見送った遥季は、もう一度今度は先程とは違う呪文らしきものを唱え始めた。
すると今度は男性が現れた。
「呼んだか? 遥季」
「あぁ、お前には警護をしてもらいたい」
「――あいつをか」
男性は寝室を一瞥し言った。
「ああ。頼めるか?」
「ふん。俺を誰だと思っている。……任せろ」
そう言うと男性も寝室へと向かった。
そしてこの日、悠依は目覚めることはなかった。
悠依が目覚めたのはあの事件から2日後だった。
幸い、あの日から3連休だったため学園は休みだった。
(ん……?)
悠依が目を覚ますと見知らぬベッドの上に寝ていて、目の前には見慣れぬ美少女が眠っていた。
(誰? ここは……?)
悠依が混乱しかけたとき、部屋の扉が開いた。そこに居たのは遥季だった。
「お? 悠依。目が覚めたのか! 良かった。ここ、痛くないか?」
遥季は自分の首筋を指差し言った。
「ここ? ……うん、大丈夫! ここは、遥季の家?」
「あぁ。俺の家だ。悠依の目の前にいるのが
「…ん? あ! 悠依ちゃん、起きたんですね!」
「薙癒がお前を看病してくれたんだ」
「そうなんですか? ありがとうございます!」
「あ! 言い忘れてたけど――」
「悠依ちゃんかわいい!!」
遥季の言葉よりも先に薙癒の声が響いた。
「悪い。先に言っておくべきだった。こいつスイッチ入ると一気に距離近くなるんだ……」
「え? え? ちょっ!」
薙癒に抱きつかれ、身動きが取れない状態の悠依が焦りながら遥季を見た。
(助けて~!)
「はぁ、しょうがねぇな。薙癒。離れろ」
「……わかりました」
すると、いきなり悠依の背後から「目が覚めたのか」という低い声が聞こえてきた。
ビクッとした悠依が後ろを振り返ると、無表情の美男子がベッドの横にちょこんと座っていた。
「あ。こいつは
遥季に紹介されペコッとする架威。
なんだか可愛く見えて悠依は思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
「なんでもないです」
咳払いをして、真面目な顔をした遥季が話し出した。
「――それで、悠依。お前を噛んだのは伊織で間違いないか?」
「……うん」
「なにがあったか、話せるか?」
遥季の言葉に答えるように、悠依はぽつりぽつりと話し始めた。
「うん。あのとき、遥季がいなくなった後、伊織先輩に裏階段に連れていかれて……。伊織先輩、遥季の血を狙ってるみたいで、距離を置けって言われて……。嫌だって言ったら、襲われたの……」
遥季は悠依の言葉を聞いて、驚いた。
(俺のせいか? 何で俺のことを……?)
「何で俺の血を……?」
「わかんないけど、伊織先輩は“陰陽の力を持つ人の血は美味しいから”って言ってたよ?」
(いや、たぶんそれだけが理由じゃない……。伊織はおそらく、あのことを知ってるんだ)
「――遥季?」
「ん……? どうした、悠依」
「怖い顔してたから……。ごめんね、迷惑かけちゃったね」
(俺のせいで悠依が狙われたなら、悠依は絶対に俺が守る……!)
「気にすんなって。とりあえず、今日は寝ろ? 明日の学校は行けそうだったらでいい」
「うん……。ありがとう」
「薙癒をそばにいさせるから、何かあったら言ってくれ」
「うん、おやすみ……」
悠依が静かに寝息を立てるのを確認して、架威と遥季は部屋を出た。
「遥季、あいつを襲った伊織ってやつ、まさかお前のこと、知っているんじゃないか?」
「――おそらくな。でも、なぜだ? どこからバレた」
「とりあえず、俺はあいつを守ればいいんだろ?」
「ああ、頼む。おそらく一回じゃ終わらないはずだ。何があっても悠依を失わないように、しっかり守ってくれ……!」
翌日、悠依は学園に行く準備をしつつお弁当兼朝ご飯を作っていた。ぐっすり寝たこともあり学校への心配など
そこに来客を知らせる呼び鈴が鳴った。
(誰だろ。遥季かな?)
そんなことを思いながら扉の穴から覗いた悠依。扉の前にいたのは予想外の人物だった。
「おはよ。悠依ちゃん」
「
そこに居たのは遥季の兄、
「ちょっと挨拶にね」
「挨拶……ですか?」
悠依がさらに言葉を続けようとしたとき、「兄貴!!」と遠くから叫ぶ遥季の声が聞こえてきた。
「あ、遥季」
「ごめんな、悠依。びっくりしたろ?」
「うん。どういうこと?」
「兄貴、こっちに引っ越してきたんだ。だからその挨拶に」
「あ! そうなんだ。お隣さんになるんですね! よろしくお願いします!」
「こちらこそ。これから毎日のように悠依ちゃんの家に来ると思うから」
「え……」
「冗談だよ?」
(冗談……って顔してないんだよなぁ)
「ほら兄貴、悠依困ってるから……!」
「ん? そうだね、本題に入ろうか」
「じゃあな悠依! またあとで!」
「あ、うん! またね~!」
(嵐みたいだったな、っとやばいっ! そろそろ出ないと遅刻だ~!)
こうして陽翔と遥季は去り、悠依は学園へと向かった。
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