二 日常

 入学式を終え、学園に知り合いも居なかった悠依。

 しかし、入学して2か月もすると友達も増え、すっかり馴染んでいた。


(相変わらずすごいなぁ。この混みよう)


 全生徒数が1000人を超える、この学園の朝の正門はいつも混む。

 そんな生徒達であふれかえっている正門の隙間を抜け、ホッとしている悠依の後ろに人影が見えた。


「わっ!」


 突然のことに目を丸くしている悠依を見て爆笑している生徒、その人こそが悠依の初めて出来た友達、桐生きりゅう梨緒りおだった。


「梨緒っ! やめてよー、びっくりしたぁ……」

「ごめんごめん、おはよ! 悠依」

「おはよ!」


 正門が混んでいるということはもちろん、校内も混みあっているということだ。悠依たちはまたも人ごみの中を掻き分け、階段を上り教室へと向かった。


「じゃあね、悠依」

「あ、うん。また帰りね~」


 クラスが違う梨緒とは一旦別れ、悠依は教室へと入った。


「おはよう」

「ゆーい! おはよ!」


 話しかけてきたのはそっくりな顔の2人、双子の柊木ひいらぎ姉弟だった。


「おはよう、柚子ゆずなつめ

「今日の授業変更聞いた?」

「えっ、なに? なんかあったっけ?」

「悠依悪魔とってないでしょ。やめなよ柚子、悠依を焦らせるの」

「だって~」

「忘れたのは柚子でしょ。僕言ってあげたのに……」


 棗の言葉で悠依の謎は解けた。


「あ、柚子テキスト忘れたの?」

「うるさいなぁ!」

「まあ落ち着きなよ。まだ始まったばっかだし」

「ほらお前ら、席につけよ~」


 ガラッという扉の音とともに入ってきたのは悠依たちの担任、溝萩みそはぎだった。生徒たちはバタバタと席についた。

 そうしてホームルームを終え、悠依たちの1日は始まっていった。


 この学園の授業には国語や数学などの『必修科目』の他に、自分の持つ力ごとに分かれ、制御の方法や正しい使い方を学ぶ『特殊科目』というのがある。

 例えば、陰陽師や巫女など和風の力は『芍薬しゃくやく』、悪魔や魔法師など洋風の力は『石榴ざくろ』、動物や獣系の力は『薔薇ばら』と言った具合にシンボルで分かれているのだ。

 もちろんこの学園には、非能力持ちリーフェンも多くいるため、『必修科目』が主であり、おまけとして『特殊科目』が行われている。



 そんな授業が終わり、昼休みに入った。


「悠依、行くよ~!」

「はいはい。ちょっと待ってー」


 1時間のお昼休みを悠依は梨緒とともに屋上で過ごす。

 梨緒はなぜか人から嫌われるタイプのようで、こそこそと聞こえてくる陰口たちから逃げるため、2人は屋上に行くのだ。


「悠依今日もお弁当?」

「そうだよ~! 今日はちょっと手抜きだけどね……!」


 屋上への扉を開けると、昨日とは違う光景が目に入った。


(誰……!?)


 誰かの寝顔。きれいな顔をしていたので女性かとも思ったが、よく見ると男性だった。


「どうする? この人、昨日いなかったよね……」

「私は別にどこでもいいよ?」

「じゃああっちの方で食べようか!」


 2人は寝ていた男性からは死角になって見えない場所で食べ始めた。


「結構普通の声で話したのに、起きないとはよっぽど眠かったんだね~」

「あぁ、さっきの人?」

「そうそう! 何かかっこよくなかった!?」


 梨緒はウキウキとした表情をしていた。


「そう? でもあの人どっかで見たことあるような気がするんだよねー……」

「知り合いなの!?」

「わかんない」


 そんな悠依の頭に何かが圧し掛かった。


(ちょっ、重い……)


「――誰?」

「あ、さっきの人だよ! 悠依!」

「さっきの……?」


 すると、その人物は悠依の頭に圧し掛かったまま、自己紹介を始めた。


「どうも、蒼麻そうまですー!」


(蒼麻、って……)


遥季はるき!?」

「おっと……。ったく、もうちょっと優しく立てよ」


 悠依が勢いよく振り返るとそこにいたのは、まさに幼馴染の遥季だった。幼馴染とは言っても悠依が引っ越してからは全く会っていなかったため、もう数十年会ってなかった。


「悠依、知り合い?」

「幼馴染! めっちゃ久しぶりだけど!」

「俺の存在に全然気付かねぇの。酷いよな~。こっちは入学式から見てたって言うのに」

「なんで?」

「お前、入学式のとき目立ってたからな、知らなかったのか?」


 キョトンとしている悠依に遥季は驚いた顔で聞いた。


「視線、感じなかったのか?」

「そう言われれば、めっちゃ見られてたかも……?」


 遥季は呆れ顔で説明しだした。


「相変わらず鈍いのな。入学前にオリエンテーションってのあっただろ? そこで新入生’sってグループ作られて、ミスコンってのをやったんだと。それでお前がグランプリってわけ」


「グランプリ!?」

「悠依すごいね! 400人いる1年生の中に女子何人いるのかわかんないけど、とりあえずすごい!」


(そりゃあ視線も集まるわ……)


 遥季の説明で悠依はすっかり納得していた。


「ってことなんで、きっと告白されるのは増えるんじゃねぇか?」

「えー……」

「なにその反応。――もしかしてお前未だに男嫌いか?」


 幼い頃の悠依は、引っ込み思案でいつも女の子とばかりいた。そこで遥季は唯一話せる男の子だったのだ。


「違うっ! くもないけど……」

「まあ何かあったら言えよ、相談乗ってやるから」

「うん!」


 そうして、遥季たちとは分かれ午後の授業も終え、時刻は放課後となった。

 放課後は校内が一気に騒がしくなる。真っ先に教室を出て行く者、部室へと向かう者、残って勉強していく者、など様々である。

 そんな中、悠依は梨緒と話しながら階段を下っていた。

 

「悠依~!」


(この声は……?)


 背後からの声に悠依はゆっくりと振り向いた。


「遥季……? どうしたの?」

「呼んだだけ~」


 悠依は開いた口が塞がらなかった。


(何しに来たの、この人……。はぁ、こんな感じだったっけ?)


「そう、行こ梨緒」

「嘘だって! 一緒に帰ろうかと思ってさ!」

「でも……」


 悠依は梨緒を一瞥した。


「いいよ? 帰りなー」

「本当? ごめんね! 今度なんかおごるから!」


 そうして悠依は遥季とともに帰ることになった。しかし、学園を出て少し歩いたとき、悠依はある事に気付いた。


「遥季って今どこに住んでるの? 昔のまま?」

「いや、1人暮らししてんだ」

「そうなんだ、今度遊びに行こうかなぁ?」

「いつでも来いよ、お前の家の隣だから」


 悠依は歩みを止め、目を丸くし、遥季を見た。


「えっ……!?」

「気付いてなかっただろ?」

「うん、えっ!? いつから……?」

「お前が引っ越して、少し後かな?」

「えー……! 言ってよ!」

「いや、別に言う必要ないかなぁと思って……」

「いや、あるでしょ!」


 そうこうしているうちに、マンションについた。


「ほら、着いたぞ。ここが俺の家!」

「知ってるよ!」


(ちょっ、本当に隣だし……)


 2人は本当に同じマンションの同じ階の隣同士だった。


「じゃあまた明日な~」

「……また明日ね!」


 悠依は複雑な気持ちのまま、遥季と分かれたのだった。

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