第10話弟の真実

「おい、ジーン。どうして、協力する」

 ラシルは、前を歩くジーンに尋ねた。

 犬の群れを率いていたジーンだが、今はセナのための解熱剤を探しに近くのキャンプまで共に歩いている。

 それが、ラシルには腑に落ちない。

 ジーンは、セナが実子ではないと言った。たとえ実子であろうとも、実子であると確信することはないと言い切ったのである。なのに、ジーンはセナのために解熱剤を探そうとしていた。

「あの子は、まだ小さい。小さい子を助けるために行動するのに、なにか問題があるのか?」

 ジーンの言葉は、まっとうであった。

 道徳があり、美徳があった。だが、ラシルは顔をしかめる。

「俺は……おまえのそういうところが嫌いだ」

 ラシルならば、自分の身内以外が苦しんでいても放っておく。勝手に死んでも良心は痛まないし、何かの利益がなければ助けたくないと思う。つまるところ、ラシルにとっての人助けとは商売なのである。

「ラシル、どうして助けてもらうのに不満げなの?」

 エイプリルも首を傾げていた。

 彼女のその様子に、ラシルはため息をついた。

「犬っていうのは、正しいことが好きなのかね。俺には理解できない」

「ラシル、勘違いするな」

 ジーンは、声を低くした。

 その雰囲気に、ラシルははっとする。天敵の気配がした。猫が苦手とした、動物の気配。すなわち、犬の気配だ。

「俺達は、群れをなくした。俺達以外の群れに入れてもらうか、新しい仲間を会得して全く新しい群れを作るかの二択なんだ。どっちにするべくかを確かめにいくんだ。解熱剤はついでだ」

 どうやら、ジーンは近くにある犬の群れが自分たちに相応しいのかを見極めたいらしい。相応しいならば、仲間になる。相応しくないのならば、新しい仲間を募って新たな群れを作る。

「そう言えば、安心するんだろう」

 ジーンの言葉に、セナは鼻をならした。

 彼の言葉は、気に入らなかった。自分が、下に見られているような気がする。犬にしてみれば、猫など一噛みで殺せる存在なのだろう。その力関係ゆえに、ジーンはラシルを見下しているような気がするのだ。

「俺は、他人の欲望が見えないのが苦手なんだ。そういう言い方をするな」

 しばらく歩くと、嗅ぎなれない犬たちの臭いがした。

 犬のキャンプが、近づいてきたのだ。

「さて、どうする。真正面から行くのか?」

 ラシルは、エイプリルたちに尋ねた。犬がいなければ、ラシルは犬のキャンプに忍び込んで目当てのものだけ盗んできたことだろう。

「当然よ。というか、ラシル。あなた、泥棒する気だったの?」

 エイプリルの言葉に、ラシルは肩をすくめて見せた。

 昔からの知り合いのジーンがいる群れではないのだ。いきなりやってきた猫の話を聞いてくれる奇特な犬などいるはずがない。そんなラシルの考えに、エイプリルはあきれたようであった。

「私たちが話をしてくる。ラシルは後ろにいて」

 エイプリルにそういわれ、ラシルは大人しく引っ込んでおく。平和的にいくのならば、たしかにエイプリルの案が一番だ。

「じゃあ、俺は後ろで見てる。がんばってくれよ、犬っころたち」

 ラシルがふざけると、エイプリルは「わん!」と吼えた。それだけで、ラシルの尻尾がぴんの立つ。びっくりしたのであった。

「いきなり、吼えるな!」

「だったら、犬ころと呼ばないことね!!」

「おい、静かにしろ」

 ジーンの怒号。

 それと同時に、悲鳴が響いた。

 聞いたことのない悲鳴であった。だが、それが聞こえてきた方向はラシルたちが目指していた犬のキャンプのほうだった。

「何かに襲われているのか。まさか……人間!」

 ラシルは身構える。

「いいえ、人の臭いはしないわ!!ラシル、ジーン!!」

 エイプリルが、走った。

 彼女は、助けようとしている。救えなかった自分のキャンプの代わりに、今襲われているキャンプを助けようと走った。

「考えなしに突っ込むな!」

 ラシルは木に登り、上から犬たちのキャンプを見下ろせる場所を探した。確かに人間の臭いはせず、人間が武器として好んで使う銃器の音もしない。

「あれは……まさか」

 ラシルは、呆然とした。

 犬のキャンプを襲っているのは、犬である。

 見覚えのある犬だ。

 セナを攫い、ゾンビに殺されたはずの若い犬だった。

「あいつ、どうして生きてるんだ」 

 ラシルは、震えていた。

 まさか人間のように、死体となって蘇ったというのだろうか。今動き回り、キャンプの犬たちを殺している若き獣は――ゾンビなのだろうか。

 怖かった。

 自分が死んだら、ゾンビなるかもしれないという可能性がたまらなく怖かった。

「ラシル!!」

 エイプリルが、自分を呼ぶ。

 その声で、ラシルは正気に戻った。キャンプの住民たちを殺す犬は、殺した者たちに興味を示していない。ゾンビならば、食するために殺すはずである。

 なら、あの犬はゾンビではない。

「くそ……あいつ、気絶していただけだったのか」

 ラシルは、ゾンビと共に橋に落ちた若い犬は死んだと思い込んでいた。だが、あのときの犬は気絶していただけだったのだ。ラシルが、勝手に死んだと思っていただけ。

「ゾンビに食われなかったのかよ」

 ラシルは、思い出して舌打ちする。

 ゾンビたちは、原因不明の発熱を起こした。そして、ばたばたと倒れていったではないか。あの若い犬も、きっとそれで命拾いをしたのだ。

 ジーンが、吼える。

 それは、遠吠えだった。キャンプの群れを上げますような遠吠えに、若い獣が足を止める。ぎろり、と飢えた瞳をしてきょろきょろとあたりを探し回った。そしてキャンプから興味をなくしたかのように、森の中に消えた。

 ラシルは、緊張した。

 若い犬をキャンプから引き離すことはできたが、恐らくはジーンの遠吠えで近くに何者かが潜んでいることは知れたであろう。

 今のは、ジーンのミスだ。

 巻き込まれないうちに逃げようか、とラシルが腰を上げたときであった。

「そこにいたのか……」

 若い犬が、うなった。

 次の瞬間には、若い犬の姿がラシルの目の前にあった。ラシルは木に登っていた。なのに、犬は猫のように高い跳躍を見せたのであった。

 ラシルの目にうつる、黒い大きな姿。

 そして、胸元には銀色のドッグタグが揺れていた。そこに刻まれた文字が、ラシルの目の中に飛び込む。

 ラシルは、息を呑んだ。

 そのドッグタグには――シリルの名前があった。

 一瞬しか見えなかったが、見間違えるものか。母親の名前の欄に、弟の名前があった。それが示すところ、つまりはこの獣は弟の子なのである。

 ラシルの肩が、引き裂かれる。

 鋭い爪――猫の特徴。

「そうか――……犬の特徴が表に出すぎていて気がつかなかったが、おまえは猫の血も引いているのか」

 血があふれ出る肩の傷を、ラシルは抑える。

 ラシルは若い獣から逃げながら、一瞬だけ目を瞑る。

 セナは、シリルの子ではなかった。

 目の前にいる、荒れ狂う獣こそがシリルの子なのだ。

「おまえ、名前はなんていうんだ」

 ラシルは、逃げながらもそれを問うた。

「俺の名前は、イーサン」

 姿に似合わず、優美な名前だった。

「お前達が盗んだものを返してもらいにきた」

「ああ、そうか」

 ラシルは、若い獣を観察していた。

 ラシルがいた木の上まで、一気に飛び上がった跳躍。それは、一見するものがある。だが、あきらかに彼は木の上での戦い方に慣れてはいなかった。おそらく、爪を自分の意思で尖らせることができないのだろう。

 猫の爪は、肉球に収納される。だから、いつでも爪は尖っており、丸くはならないのだ。その爪を生かして、猫は狩りや木登りをする。獣人であるラシルにも、その特徴は受け継がれている。生命線であり、武器である爪は、いつでも尖ったまま収納できる。だが、若い獣はその機能が不十分のようだ。

 もしも、彼がもっと猫の遺伝子を強く受け継いでいればラシルの肩の傷はもっと深かっただろう。だが、ラシルの肩の傷は浅い。

「お前は、ここでいなくなれ」

 ラシルは、冷たく言い放った。

 そして、急転換し――己の爪を自分が持てる全力の力で若い獣の胸を突いた。

「シリルの子供は、セナだけだ。今更、現れるな。偽者!!」

 シリルの前にもう一人の子供が現れれば、シリルが揺らぐ。

 それに、ラシルが見つけた資料には生き残った子供は女児とあったのだ。目の前にいる、男ではない。

 若い獣は、ラシルの腕をがっしりと掴んだ。ラシルの爪は、獣の胸をえぐっているのに痛みなど知らないとでもいうふうに。

「妹を帰せ!妹を帰せ!!」

 若い獣は、叫んだ。

「いもうと……」

 ラシルの力が、一瞬抜けた。

「俺には、もう妹しか残っていない。姉は死んだ!!」


 いま、かれはなんといったのだ。


 ラシルは、自分の耳がバカになったのだと思った。自分に都合のよいことしか聞こえない、バカな耳になったのだと思った。

「ラシル!!」

 エイプリルが、ラシルを助けようと駆けてくる。

 だが、ラシルには目の前に若い獣しか映らなかった。

「妹がいなくなったら、いなくなったりしたら……俺は一人だ」

 若い獣は、絶望を吐き出した。

 その気持ちが、痛いほどにラシルには分かった。怖いのだ。たった一人の家族がいなくなることを若い獣は、何よりも恐れているのだ。そして、この若い獣はセナの兄だったのである。

「返せ、俺の妹を返せ!!」

「だれが、返してやるか!!」

 ラシルは、若い獣を思いっきり蹴り上げた。

 真っ黒な毛並みは、セナによく似ていた。そして、色の薄い瞳はシリルに似ていた。二匹の獣の中間点のような彼は、ラシルより先に地面に落ちる。

「あれは、シリルのために必要なんだ……」

 ラシルは、そう言い放つ。

 シリルの子供は、全員が生きていたのだろうか。シリルが人間たちに死んだと聞かされて、勝手に死んだと思い込んでいただけなのか。

 子供はたった一人しか生き残っていない、と思っていただけなのか。

 でも、生きていた。

 この獣は、シリルの子なのかもしれない。

 それでも――この獣は飼いならせない。セナのようにはいかない。

 セナに近づければ、きっと奪われる。だから、ここで彼をどうにかしなければ。ラシルは、息を切らしながらもそう考えていた。

「ラシル、大丈夫!」

 エイプリルが、木から落ちてきたラシルたちに近づく。若い獣イーサンは、ラシルを押しのけて消えた。ラシルは追おうとしたが、さすがに自分の体力が持たないことに気がついた。

「今のって……」

 エイプリルも、しっかりとイーサンの顔を見たのであろう。

「セナを攫った犬よね」

 犬のエイプリルですら、イーサンを本物の犬だと勘違いしていた。実際は、彼は犬と猫のハイブリットである。

「血がついてるけど、大丈夫?」

「深くない。十分動ける」

 ラシルは、立ち上がる襲われたキャンプを見る。怪我人は多く出ているキャンプでは、とても薬を分けてくれとは言えない。

「手当て……手当てをしないと」

 エイプリルは助けを求めているキャンプの犬たちを遠巻きにみて、おろおろしていた。

「ここは、あいつらのキャンプだ。あいつらが、なんとかするだろ」

 ラシルは、ふらりと混乱するキャンプに近づこうとした。

 ジーンは、それを止める。

「何しようとしてる」

「……火事場泥棒だよ。言わせんな」

 この混乱ならば盗めるかもしれないという希望が、ラシルにはあった。だが、ジーンは首を振る。

「薬は、このキャンプにもこれから必要になる」

「俺達にも必要だ」

「セナが、だろ」

 ラシルは、ジーンの手を振り払った。

「何が言いたいんだ、おまえ」

 ラシルは、ジーンを睨んだ。

「……長生きしない、マザリモノの子供に薬はいらない」

 ジーンの言葉に、ラシルの目の前が怒りに染まった。

 ジーンはセナの父親である可能性がある、雄だった。その雄は、セナの父親ではない否定した。セナが人工授精でできたとすれば、それは理解できる心情である。だが、それでもセナの寿命を縮める言葉をラシルは許せなかった。

「とりけせ、今なら許してやる」

「ラシル。どうして、お前が怒る?お前も思っただろう。セナは、シリルの子供ではない可能性が高いって」

 そう思った、最初は。

 だが、似ていると思ってしまった。そう思ったら、もうダメだった。

 理性では、セナがシリルの実子ではない可能性が高いとは考えていた。けれども、一つ似ているところを見つけると止まらなくなった。

 ついには、何の確証もないのにセナをシリルの実子に違いないと思うようになってしまった。なんて、愚かなんだろうか。

「セナは、シリルの子だ。お前が否定しても、シリルの子だ。もう一度言うぞ、取り消せ」

 ラシルは、爪をちらつかせる。

 ジーンは、目を細める。

「あのキャンプにも子供達はいる。長くは生きられない子よりも、頑強な子供達に薬を優先するべきだ。今ある薬だって、もう手に入るか分からないのに」

 ジーンは、そう言った。

「お前、さっきはセナのために薬を探すのに理由はいらない的なことを言っていただろ。あれは、嘘だったのか?」

「状況が変わった。目指していたキャンプが襲われ、そこにいるセナよりも長生きできる有能が子供を助けなければならないと考えるのは当然だろう」

 ジーンは、自分の言葉に何も感じていないようだった。

 ラシルは、舌打ちをする。やはり、彼は昔から苦手だ。

 優等生のような性格だが、実のところ違うのだ。彼は、合理主義者なのだ。しかも、筋金入りのだ。シリルと親しくしていたのだって、シリルならば自分の子供を産める可能性があるから親しくしていただけなのだろう。

 だから、ラシルはジーンのことが嫌いだ。

「この間、人間の薬剤工場が落ちた。ゾンビに囲まれたせいだ」

 その言葉に、ラシルは呆然とした。

 このあたりで薬剤を作っていた工場は一つだけで、今までかろうじて動いていたという状態だった。しかし、工場といえるだけの薬剤の大量生産は行なっておらず、ほとんど手作り同然であった。

 それでも、そこがここらの流通している薬剤を全て作っていたことに変わりはない。その工場が落ちたとなれば、今後薬を手に入れるのはもっと難しくなる。

 この世に、薬をまだ生産している工場は一つではないだろう。だが、このあたりでは落ちた工場の一つだけだった。

「あのキャンプはこれから移動するだろう。そのためにも、薬は必要だ」

「…・・・まるで、あいつらの仲間みたいな言い分だな」

 ラシルは、ジーンを睨む。

 ジーンは、答えた。

「これから、彼らの仲間になる」

 その言葉に、エイプリルは衝撃を受けたようだった。だが、犬は群れる生き物である。群れを失ったジーンたちが、新たな群れを欲するのは当然だった。

 それでも、ジーンは別のキャンプのリーダーであった。そのジーンがすぐに新しい群れの仲間となるのは、違う気がした。

「だから、薬が必要だ。一つでも多くの、一人でも多くの仲間を救うための」

「まだ、仲間じゃないだろ。セナは、シリルの娘だ!」

 ラシルは怒鳴った。

 見知らぬ者が何人死のうが、たった一人のきらめきには変えがたい。そのたった一つを守るためならば、全部を壊してもいい。昔は、そういう相手はシリル一人だけだった。

 なのに、今はもう一人増えてしまった。

「さっきの犬の子もドッグタグに書いてあったな」

 ジーンは、そう言った。

 彼には、見えていたのだ。ラシルと同じ、ドックタグが。母親の名前にシリルとかいてあった、銀色のきらめきが。

「あの子は否定して、正解かどうかも分からないセナを受け入れるのか」

「シリルのためだ」

「違うだろ」

 ジーンは、重々しく呟く。

 その言葉に、ラシルは一瞬だけ力が抜けた。

「おまえは、いつも自分のためだ。おまえのために準備されたものしか、見ない」

 ラシルはジーンに、何を言われているのか分からなかった。

 分からなかったが、怖いほどに否定されていることは分かった。

「俺がいつ、準備したものしか見なかったって……俺はいつでも現実を」

 見ていた、とラシルは続けようとした。

 しかし、次の瞬間には言葉を紡ぐことはできなくなっていた。

「シリルは、お前のために人間と交渉した。自分を交換材料にした」

 ジーンの言葉に、ラシルは言葉を失った。

「違う……俺の両親が」

「無関係だ」

 ジーンは、きっぱりと告げた。

 ラシルは、ずっとシリルが自分の両親に無理やり自分の身代わりにされたと思っていた。そうやって人間に捉えられて、子を孕んだのだと。だが、ジーンは違うといった。

「シリルは、望んでお前の身代わりになった。両親には、そう言うように約束させたんだ。お前が弟に守られたって、思わせないようにな。ラシル、お前はずっと守られていただけだ。だから、今度はあきらめることで誰かを守れ」

「そんなわけがあるか!」

 ラシルは、吼える。

 だが、ジーンは揺るがない。それで、ラシルは気がついた。

「シリルから聞いたのか?」

 ジーンは、シリルと仲が良かった。

 だから、どんな話を打ち明けられていたとしてもおかしくはない。

「シリルから、そう聞いたのか!!」

「そうだ。お前を傷つけないように、言った嘘だと聞いた。シリルに守られたなんて、お前は受け入れられないだろ」

 ジーンは、ラシルの隣をすり抜ける。

 その姿を、ラシルは止めることができなかった。

「エイプリル、来い」

 ジーンは、エイプリルに手を伸ばす。

 だが、エイプリルは首を振った。

「私は、シリルに借りがある。でも、ジーンはまだ私のキャンプのリーダーだ」

「どういうことだ?」

 ジーンの問いかけに、エイプリルははっきりと答える。

「あなたの群れを抜ける」

 エイプリルの決断は、ラシルを驚かせた。犬は群れを作る。そして、自分の意思で群れを抜けるというのはほとんどない。あるのは、追放ぐらいだ。

「抜けてどうする。襲われた群れに入っても、俺と合流するだけだぞ」

「シリルたちの群れに入る」

 今度は、ジーンが唖然とする。

 猫は群れないからだ。

 なにより、シリルとラシル、セナは群れている自覚がない。血縁が何となく集まって、身を守っている。ただ、それだけの集まりにエイプリルは加わるという。

「後悔するぞ」

 ジーンの言葉は、忠告であった。

 だが、エイプリルの決断は変わらない。

「将来後悔しても、今後悔するよりはいいの」

 それが、エイプリルの決断だった。

「そうか」

 ジーンは残念そうであった。

 そして、エイプリルの肩に手を置く。

「君は古い仲間だ。君は、せめて助けてられたらと思っていたが……」

 直後、ラシルの耳が壊れそうなほどの轟音が響き渡った。

 人間の扱う武器、銃である。その銃を何故か、ジーンが握っていた。

 エイプリルは、銃弾に倒れている。

「なんでだ……」

 あまりに予想外がおきすぎて、ラシルはその言葉をつむぎ出すことで精一杯だった。

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