第18話
「筆記以外は悪くないですよ。そこに書いてたんじゃないんですか」
机の上に置かれた開封済みの封筒を指差しそう言った。
「残念ながら何も。これが入っていただけです」
そう言って彼はカード型の通行証を彼女の前に差し出す。家紋がエンボス加工された一枚のカードには確かに彼の名前が記入されていた。
「……そうですか」
そう言って彼女はかばんから取り出した一枚の答案用紙を差し出す。通行書とともに自身の方へ押しやられたそれをまじまじと見つめ返す。
「……は?」
そう呟き、アルゼアは黙り込む。静寂が室内に漂う。
「この日、たまたま熱が出てたとかではなく?」
「違います」
「じゃあ、解答欄を間違えたけど書き直せなかったからとか……」
「……別にそう言うわけじゃありません」
「そ、それじゃあ、反抗期とか……」
「違います。というか、そんなに信じられないですか? それともバカにしてます?」
アルゼアの質問にミュゲがイライラとした様子で答える。
「そもそも、最初にこのあいだぶつかった時に、人の答案まじまじと見てませんでした?」
「名前と点数しか見てないよ。白の家が追試って珍しいなと思ってね」
「やっぱりバカにしてますよね?」
「あはは、まさかそんな。ご令嬢にそんな……はははは」
アルゼアは何もない空間に向かって、態とらしい笑いを投げた。
「生徒会長様、それが素ですよね」
「なんのことでしょう?」
「はぁ……別にいいですけど。私も適当に気楽にやるので」
「勉強できないのに?」
「試験が苦手なだけです」
「へぇ」
「なんですかその目は。疑ってます?」
「君自身よりも、周りの評価をだね」
ミュゲは何も問い返すことなくアルゼアの目をしばらく見つめ、笑い出した。
「あはは。その悪意もうちょっと隠したほうがいいですよ」
「バカにしているのか?」
「まさか。生徒会長様の真似をしただけですよ。……あぁ、でもそうですね。私の実力を疑われてるのも遺憾ですし、試してみます?」
ミュゲは挑発するようにそう言う。
「いや、今はやめておこう。2週間もあればそれぐらいわかる」
「へぇ。さすが生徒会長様」
「生徒会長だからね」
二人は乾いた笑いを交わす。
「アル、本当、何回も言ってるけど、新聞部に餌をあげないでってば。今度は何したんだ、よ……って例のご令嬢じゃないですか」
アベリアはそう言いながら扉を開け入ってくる。
「あら……?」
ミュゲは彼の翼と髪の色を見てすこし考え込む。
「なかなか来ないと思ったら、新聞部に捕まってたのか……照明がつけられなくて困っていたんだ」
「それでこんな暗いままなのか。」
そう言うと、アベリアは光を天井のシャンデリアに軽く投げる。光が当たった部分を中心に部屋中の照明器具に飛び移っていく。アベリアの赤い短髪と水色の羽があらわになった。
「ああ、やっぱり。分家が黒から子を招いたって聞いてたけど、この学園の生徒だったのね」
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