第11話
「ごめんねー。だいぶ待たせちゃった?」
職員室前の廊下で窓を開け、外を眺めるミュゲに声をかける。
「そんなことないですよ、試験の返却よりは待ってないです」
無邪気な顔で彼女は目の前にいる自身の担任、モンタナにそう答えた。彼女は何も言わずミュゲに苦笑いを返すと、職員室へ入るよう促した。
先ほどまで腰掛けていたソファに戻ると、彼女は話を始めた。
「結論を言うと、彼らは今朝の校内新聞の内容が気に入らなくてミュゲを狙ったらしい」
「はぁ……そんな気はしてました」
「最後までミュゲが手出し『できなかったから』とか言ってたんだけど、本当?」
「本当だと思います?」
ミュゲの返答にモンタナは「だよねぇ」とつぶやき、手に持っていた書類に書き取っていく。
「それで、あの者たちは少しぐらい反省してたんですか?」
優しさを感じさせない声色でミュゲは再び問い返す。
「黙秘したいところだけど、反省の色はなし。自分たちがやったことも悪いとすら思ってない感じね。少なくとも、魔法による意図的な攻撃は校則で禁じられてるから、課外活動への参加停止、一ヶ月の寮滞在が命令された」
「人の翼を愚弄した件については?」
「やっぱり、一番怒ってるのはそこだよね」
「ライラを巻き込んだことも十分に怒ってますよ」
彼女はそう答え、隣に座る友人の手を握る。
「その件については、校則違反ではあるんだけど……あまり厳しくもできないから。厳重注意とレポートの提出でおしまい」
彼女の答えにミュゲは納得のいかない顔をする。
「……父には報告します。生徒の詳細を教えていただくことはできますか」
「だめ」
「どうしてです? この翼は正しく両親から授かったもの。それは、我らが王にも認められています。これを愚弄するとは王家に石を投げたも同然ではないですか」
「それはそうなんだけどね、でもそれは貴方達貴族の言い分でしょう? それを認めてしまうと、学校としては私刑や貴族達の横暴を許すことに繋がるから、相手が名乗らなかった以上、個人情報は教えられない」
モンタナは淡々と彼女にそう告げる。
「もう一つ、聞きたいことがあるのだけれど」
「なんですか」
あからさまに不機嫌になった様子で彼女は答える。
「最後に使った風と氷の魔法、攻撃の意図はなかったのよね?」
心の奥そこまで覗き込まれそうな漆黒の瞳に二人は息を飲む。
「ないです。ただ、少しだけ話を聞こうかなって」
「悪意は?」
「ありません」
「ライラはどう感じた?」
水色と黄色がグラデーションになった瞳でモンタナを見据え口を開く。
「悪意も、傷つけようと言う意図もないように感じられました」
二人の返答にモンタナはホッと一息つき、「お疲れ様」と返すと自身のデスクに戻っていった。
西南地区第3番街の路地裏。整備の行き届いていない不揃いな石畳が並ぶその場所。人の出入りのない建物。いくらか魔法でごまかされた入り口。
「へぇ……そんなことが」
カウンター越しに店主らしき男が答える。
「ああ、面白いだろ?」
「確かに面白いが、先週聞いた話の方が興味深いなぁ」
ニタニタと口角を上げた笑みを浮かべながら、男は言葉を返す。
「……しかたない。これならどうだ?」
灰混じりの黒髪の男は話を続けた。男が一言二言紡ぐたびにカウンターから覗くスキンヘッドの男は、相槌を繰り返していた。
「……まあ、こんなところだ」
「そうか。それはそれは、いいことを聞いた。その辺りのものどれでも一つ割引してやる」
「チッ……相変わらずケチなおっさんだな」
「どこの誰かもワカンねぇお前の話を聞いてやってんだ、素直に受け取っとけ」
そう答えると、黒髪の男はカウンターにブローチを一つ置いた。
「へぇ……」
目をぎらつかせ、男は会計を済ませ、一枚のカードを受け取る。
「……助かる」
そう言うと黒髪の男は店を後にした。
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