第8話 好奇の目と悪巧み
校門をくぐれば、彼女は好奇の視線に晒される。
「ほら、あの子が……」
「でも……」
「あの……らしいよ」
あちこちから聞こえる噂話。彼女の出自から、家のこと、有る事無い事好き勝手に囁きあっている。ミュゲはそれに少しの居心地の悪さを感じながら、教室を目指す。廊下ですれ違う者たちはあからさまに目を背け、彼女が通り過ぎれば噂話を再開する。彼女の学年のクラスルームのある階層では、いくらかそれは減る。だが、彼女が話題の的になっていることには変わりがなかった。
「おはよう」
彼女は若干疲れた様子で、クラスルームに入る。
「ミュゲ!!! 一体何したの?!」
いの一番に彼女の元に飛んできたのは、ライラだった。入り口からミュゲの声が聞こえるや否や、彼女は談笑をやめ、彼女の元に飛びよったのだ。
「な、なんのこと? 私もしかして、ついにお父様から見放されたとか?」
ミュゲは親友のその様子にしどろもどろになりながら、昨晩の父親の様子を思い出し答える。
「違う違う! これ見て!」
そう言ってライラはミュゲの目の前に一枚の校内新聞を突き出す。
「……『麗しの生徒会長様に恋人か?』何、この下卑た見出し。これがどうかしたの?」
「見出しは相変わらずひどいけど、そうじゃなくって、ここ! この写真!」
そう言ってライラは校内新聞の左下に配置された写真を指差す。それは、昨日職員室からの帰り道、生徒会長とぶつかった時の写真であった。
「何これ」
「聞きたいのはこっちだって」
ある者はノートに向かいながら、またある者は雑談をしながら、彼女らの会話に聞き耳を立てる。ミュゲはその気配に気を配りながら彼女の質問に答える。
「その写真は」
「その写真は?」
「昨日、うっかり生徒会長様とぶつかっちゃって、その時の」
彼女の言葉に室内に張り詰めていた緊張感が消える。
「はぁ……そんなことだろうとは思った」
ライラの安堵とは裏腹に、ミュゲは彼女の手から奪ったその記事を読む。
『お相手はあのブランシュのご令嬢?!
定例部会前にロビーで手を取り合うお二人の姿を目撃。
頰を染め、見つめ合うお二人の姿は絵画のように美しかった。
生徒会は「何もいうことはない」とのコメント。我々新聞部は引き続きこの真相究明に尽力したい』
「……酷いね」
ミュゲはその瞳を細め、冷たく言い放つ。彼女の無意識の魔法に抗えず、手元の校内新聞は崩れ、床に落ち粉々になる。同窓生は彼女から目をそらし、知らぬふりをする。手元からこぼれた紙を光のない瞳で見つめる。
「ミュゲ、とりあえず落ち着いて。言い訳なら私も一緒に考えるから」
ライラはそう言いながら彼女の手を握る。魔法で少し体温の下がったそこへライラの体温が伝わった。ライラのその言葉に、ミュゲは約束だからと笑って言う。二人は決められた席へと座る。ミュゲは学年の中では一際目立つ。大きな純白の翼はもちろん、淡い色味をまとったその容姿も成績も、家柄も。名家の子らが多く通うこのスコラで彼女に取り入ろうとする者ももちろんいる。が、いくら筆記試験が悪くとも御三家の末娘。『余計な火種を生まないように』と幼い頃から言われ育てられた彼女は多くの生徒との交流は広く浅くを徹底していた。それを繰り返すこと二年目。彼女は色眼鏡で見られることはなくなった。代わりに仲の良い友達もほとんどいないが。
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