第7話
ウィスクムは無言でベロニカを呼び寄せる。
「どう言うつもりだ?」
足元が凍り、ベロニカは飛ぶことも許されずそこに立ち尽くす。
「すみません……口が滑りました」
頭を下げることも膝を折ることも許されず。ただ求められた言葉に答えていく。
「ほう。では何故お前が知っている。お前に尋ねたのは『最近やり取りをしたかどうか』だけだが? それともご学友からの噂か?」
言葉が魔法に変わり彼女の羽を凍らせていく。
「答えられないと?」
言葉を発しない彼女にウィスクムは視線をさらに鋭くする。
「い、いえ……先日所用で母校に伺った際に、えっと……」
恐怖か緊張か強張った喉からは、辿々しい言葉が溢れてくるだけであった。
「それで?」
「伺った際に……えっとその時に……」
「今言い訳を考えているのか?」
彼の鋭いその視線にベロニカは体の内側まで凍りつくようなそんな感覚を覚える。
「違います!」
思いがけず出た大声にウィスクムは喉を鳴らし、続きを促す。
「伺った時に、直接聞いたのです。……違います、違います! 向こうが勝手に私に話してきたんです」
「それは誰だ?」
ベロニカは緩んだ殺気に体温が戻ってくるのを感じていた。
「確か事務員の人だったと思います。見たことない顔でしたから名前はわからないのですが……」
彼女の返答に彼は舌打ちをし、解放する。
「……あれは、好奇心の塊で自覚なく危険に突っ込んでいく。次はないぞ」
ベロニカはウィスクムの言葉に頷き、部屋を後にした。彼女は羽の間がわずかに氷付いていることを感じる。食堂室から離れ適当な空き部屋に入り、自身の翼に意識を集中させた。
「ティエトゥ」
小さくそうつぶやき、羽の隙間を暖かな雫を走らせる。細かい氷が溶けて行くのを感じ、ほっと小さく息を吐く。それでもまだ、体は凍てついたまま。彼女は暖をとるため部屋を出、ミュゲの私室の隣に配置された彼女の自室へと早足で戻った。
ベロニカが去った後。人払いをした部屋に一人残ったウィスクムは彼女の立っていた足元の絨毯を見やる。想像以上にしっかりと氷固まったそれに触れる。指先でなぞった場所がボロボロと崩れていく。
「あいつには、ブランシュに逆らおうという意思はない。脅威になることもないはずだ。従順であろうとなかろうと、当主の署名入りの登録証がある限り問題はない……だが、口が軽すぎる」
扉まで続く霜柱を丁寧に溶かしながら彼は呟いた。
「考えねばな。あいつの能力ならどこでもやれるが……もう少し目の届く範囲においておくか」
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