第11話「サヴァイヴァー・フェストパス」

第十一話「サヴァイヴァー・フェストパス」


ナツミちゃんからのメッセージ:マジでか。急展開やん!




 装黒。その言葉とともに、クロトはイカ人間としての力をさらに高めた。攻撃意思の高まりによる形態の尖鋭化。それに伴う攻撃力の上昇。その分耐久性は低下しているが、防御時は気持ちを切り替えればステータス及び形状が防御フォルムに変化する。とっさの判断が重要になってくるが、数々の戦いをくぐり抜けてきたクロトたちには最早造作もないことだった。


「崎下、私達も行くぞ」

「あったりまえだ」

 シゲミツとトオルも即座に順応し、ブレスレットを起動させた。

「……装黒!」

「装黒――!」


 白き異形に黒き墨が降りかかり……白黒の戦士がまた二人、戦場に降り立った。


 そして、十五人の襲撃者たちは――


「戦闘開始」

 姿


 クロトたちほどの染色度ではないにしろ、彼らもまた白と黒のイカ人間へと変化した。


「……人工イカ人間か?」

 クロトは、察知した感覚から生じた問いを赤黒の襲撃者に投げかけた。


「察しが良いですね。……ええ、その通り。これはあるイカ人間から摂取した異界刻印の成分、そして戦闘データから構成された人工のイカ人間ですよ」

 赤黒の襲撃者はこともなげに言った。

「あのブレスレットは何だ?」

 クロトは『あるイカ人間』以上に、敵が自分たちと全く同じブレスレットを持っていることを問いただした。


「わかっているくせに。……お互いに提供されたのですよ、黒幕の指示で」

 墨染の顔からはわからないはずなのに――クロトは赤黒の襲撃者が怒っているように感じた。


「……お前、怒っているのか?」

「ふん、どの道あなたにそれを言う義理などありません」

「だろうな」


 言いながら二人は、それぞれ右腕を剣へと変化させ――瞬時に距離を詰めた。


 瞬間、激突する二つの感情。あらゆるものがないまぜになったそれは、何故か奇妙な調和を遂げていた。

「なんでだろうな、俺は、アンタは気に入らないけど――同時に、妙な親しみを感じる」

「そうですか。私からしてみれば気持ち悪いだけです」

 嘘だった。ビャクヤもクロトに対して親しみを感じていた。一つだけ違う点があるとすればそれは――ビャクヤはその理由を知っていることだった。


「そうか、それは残念だ」

「ええ、本当に」

 全くの同時に、左腕を射撃形態へ変化させ――互いが互いの腹部めがけて攻撃を行った。


〈Defense Form〉

〈Defense Form〉


 全くの同時に電子音声が鳴り響き――二人の体は堅牢な墨の鎧によって守られた。



「おいおい、何だあれ。あいつら全くの互角じゃん」

「そのようだな。だが貧乏くじを引いたのは恐らく我々の方だぞ崎下」

 驚くトオルに対して、シゲミツは十五体の人工イカ人間を指さしながら冷静に言った。


「仕方ないな、こんな時のために貯蓄していた墨を開放してやるよ」

 そう言ってトオルは、体中から大量のイカスミを撒き散らした。



「行くぞ、これが僕の異界能力――『墨染式・染色過多イカスミ・エクストラ』……!」



 宣言とともに、周囲にトオル(イカ人間態)の分身が出現した。その数十五。これで二人分ではあるが襲撃者の人数を上回った。


「ふん、やるじゃないか崎下。私を欺いただけのことはある」

「言ってろオッサン。……そんなに持続力はないから、さっさと済まそうぜ」

「……承知した。――では私も、新たな力をお見せしよう」


 そう言ってシゲミツは足元に展開した『墨の海』に右腕を浸けた。

「――『墨染式・暗夜染路ブラック・ダークレイ』――」


 シゲミツによる宣言の直後、人工イカ人間の足元から黒い光の帯が発生し、彼らのブレスレットを貫いた。


「これで奴らは人間態に戻るだろう」

「おい! 僕の分身どうすんだよ!」

「保険だ、保険」

「なにが保険だよ! これ出すのかなり大変なんだぞ、高コストなんだぞ! それを――」


 トオルが言い切る寸前で、襲撃者たちは――


「戦闘続行」


 その言葉とともに、彼らは、

〈BLACK OUT 【Octopus】〉

 ――赤黒のタコ人間へと変化した。


「――チッ、マジでイカ人間以外が出てきやがった! ……オッサン!」

「ブラック・ダークレイは再装填に一時間かかる。悪いがそいつらにもう一度ヒットさせる方法は捨てたほうがいいぞ」

 そう言ってシゲミツは右腕をガトリングに変化させた。

「援護射撃は任せろ」

「オーケー。今度こそ僕の出番ってわけだな!」

 そして、十六人の崎下トオルは人工タコ人間と戦闘を開始した。




「なるほど、するとアンタはタコ人間ってわけか」

 クロトの質問にビャクヤは、

「ええ、そうですよ」

 とだけ答えて振動剣で装甲を切り裂きにかかった。既にビャクヤはアタックフォームに変化していた。


「一瞬で切り替えるの、わりと慣れてきたな!」

 それに対してクロトはバックステップで距離を取り、瞬時にアタックフォームへと変化し――

「『墨染式・染色砲スミゾメ・バスター』…………!」

 墨染の砲撃がビャクヤに放たれた……!


「――! ならば……!」

 ビャクヤは振動剣にさらなる量の墨を注入し、

「『墨染式・染黒大剣スミゾメ・バスター』――――!」

 同じ読みの斬撃を放ち、迎撃する……!


 轟音を伴いながらぶつかり合う黒き極光と斬撃。果てしない威力のそれらは一見互角に見えた。――しかし。


「私は――既にランク10だ……ッ!」

「何――――」

 その差で、クロトは敗北した。


 爆風により吹き飛ばされるクロト。かろうじてイカ人間の形態は保たれていたが、それは瞬時にディフェンスフォームへ変化出来たが故のものだった。

「……ランク10、なおかつ、ブレスレット装備……なら、単純計算で3ランク分、俺は出力で負けているってわけか……」

 なんとか立ち上がりながら、クロトは気丈に分析結果を口にした。


「……戦闘経験、いえ、というよりも異常なまでの学習速度。……墨染クロト、やはりあなたは――アンタは!」

 クロトへの怒りを露わにしながら、ビャクヤは振動剣を出現させ襲いかかる。


「墨染!」

「ここは任せろ」

「助かる、オッサン!」

 人工タコ人間との戦い、その最中にあるトオルは――その場をシゲミツと自分の分身に任せてクロトのもとへ急いだ。


「消えろ、クロトォーーー!」

 手負いのクロトに迫るビャクヤ。今のクロトに攻撃を防ぐ手段はない。

「く……」

 最早これまでか――クロトがそう思いかけた、その時。


「墨染ぇーーー!」

 トオルが二人の間に入った。右腕は振動剣に変化していたが、ビャクヤのランクは10。ランク5のトオルでは太刀打ちできるか定かではない。ゆえにクロトはトオルに逃げるよう叫ぼうとして――


「来ないで、トオル……!」

 それより先に放たれたビャクヤの叫びに衝撃を受けた。

「ぐあああああああああ!」

 叫びと同時に放たれた蹴りにより吹き飛ぶトオル。無事ではあるが、墨による回復は必要そうである。


「トオル!」

 言いながらクロトは立ち上がり、そしてビャクヤに視線を移した。

「……アンタ、何者だ? トオルの知り合いなのか?」

 カイの例もあるため、クロトは単刀直入にそう訊いた。

「――いいえ、トオルは私を知らない。私はカイとは違う、アイツとは違うから……アイツと違って、私は半端者だから」

 言いながらビャクヤは踵を返し、その上でクロトに再び視線を合わせた。


「――気が変わった。明日の夏祭り、一人で来なさい。真実を話してあげる」

 そう言ってビャクヤは墨の海に潜行――撤退していった。

「アイツ、一体何なんだ……?」

 クロトはまだ、彼女の名前すら知らなかった。

                                   つづく

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