第7話「ディープ・ネード」

ナツミちゃんからのメッセージ:今回は奈須敏樹さんの脚本回よ!




 ………夏といえば君は何を連想する?


 かき氷、アイス、なんなら熱いカレー。

 祭りの花火や田舎の夜の虫達。

 汗水垂らす若者の試合やオタクの祭典もいいだろう。


 でもやっぱり、俺の一番は……


「「プールキターーー!!」」


 そう、水着がひしめく夏の海とプールである!!!


 第7話 「ディープ・ネード」


「おい何してんだ?先行ってるぞ〜〜?」

「ああ、後から行くからそれで」

 クロトはそう言って、プールに走って行く友人達を見て溜息をついた。

「まさか昨日の独り言が伏線だったとは……人生とは分からんもんだ」

 腕の異界刻印を見てまたクロトは溜息をついた。


 こうなったきっかけはというと、昨日かかってきたトオルからの電話だった。


「……え? カイがプールに来いだって?」

「そう、明日の11時にセントラルスクエアプールに3人で来てくれってさ、また何か物騒なことがあるのだろうかね、ワクワクしてきたぜえ……」


「はいはい厨二乙、まあ何かあるのは間違いないだろうな……でもあいつと俺とお前と沖田のオッサンだけなのはなんか嫌だな」

「まあ男くせえしな、クラスの奴らでも誘って話の時だけ二人で抜けようぜ」


 ……というトオルの提案に乗ったのだが、クロト的にはこれが大正解だった。


「クロトっちー! まだなの〜!」

「ちょっ、ちょっと待って……あったあった日焼け止め今塗るから!」

「おおえらい! お肌のタラブル、いやトラブルはオトコノコでも警戒してナンボだもんね!」


 クロトに呼びかける声の主は、猪狩ラアヤ。クロトのクラスメイトであり中学からの同級生、少し天然美少女なクロトのマドンナである。

 彼女の水着姿が見れただけでもクロトはもう大満足であった。


「おっし、塗り終わった! 今行くよ!」


 クロトはウッキウキで駆け出した。この後に起こる惨劇を、まだ知らずに。


 まあ、ヒロイン&モブと8時半から11時まで遊ぶシーンは沢山あるがそこはDCディレクターズカット版で補ってほしい。本題に入る。


「おっと、11時だ。おーい、別の約束があるからちょっと抜けるわ」

「わった! おっひるはこっちで食べてるね!!」


 ラアヤの返答を聞いて二人は集合場所に走っていった。


「水着姿のラーちゃんから離れるのは残念ですなあ? クロトクン??」

「うるせえ、その口インクで塞ぐぞ」


 そして、集合場所のウォータースライダーの前に来た二人が見たものは、


「キャー! 肩にキズがあるダンディなオジサマよ!」

「あっ、あのっ! 連絡先交換しても良いですか!?」

「おっさんズラブよ!! カチドキよ!!」


「いや、私は……」

「ウッソォ一人称私!? 結婚して!」


 ……沖田シゲミツが人生初のモテ期を迎えていた光景だった。人生50年、まだまだ捨てたもんじゃない。ちなみにタレントの沖田シゲミツであることはバレていない。二年間も孤独な戦いを続けた結果、なんかイケオジな貫禄がついて、かつてのシゲミツではなくなったのだ。つまりニュー・シゲミツなのだ。


「……なあ墨染」

「……何」

「刻印さ、肩じゃなくて顔にしとけばよかったな」

「同感」


 二人は鬼の目つきをしていた。モテる奴が憎いのは親を殺した奴が憎いのと同じぐらい当然の心理であるからだった。


 二人がヒソヒソとシゲミツ襲撃計画を立てていると、突然更衣室の扉が開く音がした。


「どけ、おなご達よ」


 そしてそこに、奴は突然現れた。


 犯罪級の良い顔面、適度に割れた腹筋、ピッチピチのもっこり股間のセクシーブリーフ、

『水も滴るいい男』の具現化した存在が現れた。


 そう、カイである。


「すまない、遅くなった。沖田コイツは俺のツレだ。行くぞ」

「あ、ああ……」


 さながらモーセのように女子たちが道をあけていき、二人の元にやってくる。


「ほら、目は洗ったか? あと準備体操も忘れるなよ、こんな所でイカ化出来ないからな」


「「ハイ……」」


 イケメン過ぎると嫉妬もクソもなくなると学んだ二人だった。


「いや〜しかし助かったよ。まさか刻印を隠せる機能付きの日焼け止めクリームを持ってるとはな」

 クロトは先程のクリームについて感想を述べた。ちなみに持ってきたのはトオルである。


「知り合いに奇天烈な発明家がいてさ、この前の銃もソイツ製なんだよ」

「ほえ〜すごいっすねそのマッドサイエンティストさん」


「会ったことのない奴をマッド呼ばわりはどうかと思うぞ……」

 シゲミツが嗜めるように言った。

「初対面の俺ををいきなり殺そうとしてきた人が言うな」


 流れるプールでゆらゆら流されながらすっかり仲間みたいなノリで話している3人ははたから見ればおじさんと友達2人にしか見えなかった。


「で、わざわざ俺たちをプールに呼んだ理由をそろそろ聞かせろよ」

「そうだよ、まさか交流を深めるためとか言わないよな?」


 クロトとトオルはしびれを切らしてとうとうプールサイドに座っていたカイに聞いてきた。


「ああ、実はこのプールには――ゲボッ!?」


 信じられないことが起こった。


 シリアスな顔で重大な話を離そうとしたカイが、話をしながらプールに入った途端、即波に流されて溺れたのだ。そして数メートル流された挙句、水の中に消えた。


「カイィ――――――!?」


 二人が慌てて駆けつけるとカイはプールの底に埋もれ、大量のガキンチョどもに踏まれていた。顔に生気はない。慌ててクロトとトオルはカイをプールから引っ張り上げて頬を叩いた。


「泳げないならこんな深くて流れるプール浮き輪なしで入るなよ!」


「……ふふ、相手にとって不利な情報は晒さない、主義で、ね……」


「いや相手はプールだから!」


 ◆


「まったく……スポドリ買ってくるから休んでな」

 クロトはとりあえず二人にカイの看病を頼み、プールサイドの自販機と売店で昼ご飯の買い物をしていた。そして、全員分の食料とジュースを買って戻ろうとしたその時。

 風が、吹いた。

 クロトが降り向くと、そこには。


「おつり、忘れてましたよ」

 微笑んだ女神がいた。


「――――」

 彼はこの日学んだ。

 人は、人知を超えた美しいものの前には、無力なのだと。

 ……まあこの女神は、墨染ビャクヤなのだが。


「あ……いや、俺にはラアヤが……」

「どうかしましたか?」

「いや、何でもないです! ありがとうございました!」

 クロトは素早くお釣りを受け取って逃げるようにその場を去った。


「……やっぱり気分悪いわ、直接見たらそうでもないと思ったけど」

「まあ、そうでしょうね。兄でも弟でもない、でもどうしようもなく奇妙な縁があるんだもの」

「……相変わらず高い所と騒がしい所が好きなのね、ナツミ」

 ビャクヤは、話しかけた木の上に座る美女を睨みつけた。名は、ナツミというらしい。


「まあまあ、そう睨まないの、白い水着に冷たい顔は似合わないわよ?」

 ビャクヤはそれを聞くと、もう用はないとばかりに歩きだしていた。

「ちょっとー? もう帰るのー?」

「もう種は仕込んだもの。私、騒がしいのは嫌いなの」


「ふー、ほら昼ご飯買ってきたぞー」

「サンキュー墨染。ほら、神崎もこれ飲んで元気出せ」

 そう言ってトオルがスポーツドリンクをカイに渡そうとした――


「……っ、来る! しまった、俺が迂闊だった!」

「は? 一体どうした――」

 その時だった。


 波が舞った。


 人も舞った。


 ……もう一つ、舞った。


「サ、サメだぁ――――――――――!!」

 そう、波乗りプールから突然サメが出現したのだ。これにはサメ映画もビックリ!


 そして、そのサメは!


 一匹目、ケロベロスサメ! 三つの頭と犬並みの嗅覚を持つぞ!

 二匹目、ツイ廃サメ! 無差別にクソリプとアカウント凍結を繰り返すぞ!

 三匹目、アルバト〇スサメ! 使い回されたCG素材のような体で姿を見せずに餌を捕食するぞ!


「全部サメでもなんでもねえ化け物じゃねえかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 クロトは魂の叫びをあげた。


ナツミちゃんからのメッセージその2:

《速報》ついに本編登場だよ〜〜!! みんな応援、よろしくっ!

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