二話

『んー、それでー? 他には何か要望あるかなー?』

「あー、取り敢えず…安心安全地帯で、そこまで金に困ってなくて、家庭環境良さげなところに」


可愛い妹か、グラマラスなお姉さん欲しいなー。

あ、独り言だから気にしないでくれ。

でもさ、どうせなら華がある方がよくないか?

男ばっかとか、なんかなー…。


『ふむふむ。自分の見た目とかはー?』

「え、別に指定しないけど…。あー、オークみたいな顔面じゃなければ何でも良いですわ」


あんまり高望みし過ぎるのもよくないし。

平凡一番、平凡一番。


『君、欲が少ないねー』

「そうか?」

『少なくとも、ここにきた人の中では一番欲が無いよー』


そうか。欲深い奴が多いんだな、ここに来る奴は。

…なんかさっきからロクな話を聞かないな。


特殊性癖をお持ちの変態達に、ヒャッハー戦闘狂、そして欲深…なんなんだ一体。


『聞いてくれよー、この前の奴なんか、相当酷かったんだよー?』

「はぁ…」


何か手元の紙に書き込みながら、カミサマは不満げな声を出す。

あ、こりゃあれか。愚痴パターンか。


『冴えないデブオタくんだったんだけどねー…』


うわ、このカミサマ、デブオタって言っちゃったよ!

意外と口悪いなぁ…。


『本当のことだもーん。でねー、その人のお願い事がさぁ…、努力しなくても最強になれるちーと、超絶美形貴族への転生、モテモテはーれむ、えろ可愛い女の子の奴隷etc…だよー?』

「うわぁー…」


うん、モテなさそうな奴が考えることだよなぁ、全部。


「ま、まぁ…良かったんじゃねーの? そんだけのステータスがありゃー、今頃女の子達にモッテモテだろーよ」


俺がそう言うと、カミサマは馬鹿にしたように鼻で笑った。


『僕がそんなお願い、叶えてあげる訳ないでしょー? その人、別に君みたいに誰かを救ってー、みたいなんでもないしー?』

「あ、ふつーに死んだ感じ?」

『雨の日に、階段から足を滑らせて頭ぱっかーん!』


ぱっかーん、って…。そんな、かぐちゃん竹からぱっかーん! 的なノリで言われてもなぁ。


俺より哀れな末路に、ご愁傷様です。


『魂がこっちに来たから、仕方なーく相手してたんだけどぉ…傲慢で気に入らなかったからー、お願いを受け入れたフリして、容姿も才覚も、平均より下にしちゃったー!』

「わぁ、性格悪ーっ!」


もう一度、ご愁傷様です。


「そういえばカミサマ。転生させるってことは、向こうで何かやって欲しいことでもあったりするのか?」

『…賢いねー。だけど、やって欲しいことはまた、時期がきたら言うことにするよ。今はいーよ』


げー。あんま面倒なことは勘弁してよ。

何度も言うが、俺は平凡な日々を過ごしたいんだからな!


『もうすぐ旅立つ時間だけど、どーぉ? 何か聞いておきたいことはあるー?』


聞きたいことか…。

高校生カップルの安否は確認済みだし、向こうの世界のことは今聞く必要は無いし…やっぱ、これだな。


「地球にいる、俺の家族や…彼女はどうしてる?」


俺がそう質問した瞬間、カミサマの顔が強張った。


「……おい、カミサマ? まさか…」

『いや、元気だよー! 今は落ち込んでるけど、いつか立ち直れる筈さ…』

「そっか。それが聞けただけで、安心だ」


心置きなく…とまではいかないが、なんとか前を向いて、新しい世界は行けそうだ。


礼を言おうとカミサマに目を向けて…面食らった。

だってカミサマ、俺に土下座してたんだぜ?


『本当にごめんなさいーっ!』


え、何が?


そう問いかける前に、俺の体は透き通って消えてしまい、同時に意識も深い闇へと沈んでいってしまった––…。

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