一話

人生って、儚いもんだよなぁ。


「うん、俺は確かに死んだ」

『そうだねぇー。全速力のトラックに轢かれちゃったんだもんねー』

「骨もバキバキ、内臓ぶしゃー状態だったよな」

『そうだねぇー。ほぼ即死だしねー』


……まず突っ込ませてほしい。

あんた誰!?


『僕ー? 僕はねー、カミサマだよー』


カミサマ? あ、この人もしかしてイタい人?


『ちょっとー、失礼だなー』


俺、もしかして口に出してた?


『出してないよー。僕はねー、カミサマだから、なーんでも出来るんだよー』


へー。喋らなくて良いから楽だな。


『ええ、喋ってよぉー』


……なんだこのマイペースな自称カミサマは。

見た目的には、俺よりちょっと年上に見える。

ムカつくポイントその一。こいつ、クソイケメンだわ!

イケメン爆ぜろ! ついでにリア充!


『そんなこと言ったってー、君だって生前はそれなりの容姿だったし、彼女もいただろー?』

「生前な! それ生前の話な!? 今関係無いし、俺死んでるし!」


グスグスと鼻を鳴らし始めた俺を見兼ねたのか、自称カミサマの青年はおろおろと俺を抱き締めた。


「……女の子がいい」

『我儘だね!? いいよ、わかったよ! 女の子ね』


カミサマが突然、煙に包まれた。


「ごほっ! 何じゃぁ!?」


驚きすぎて口調変になったな。

しかし次の瞬間、俺はもっと驚くことになる。


「え、柔らか…って、えーっ!?」


さっきまでぺったんこだった胸が、膨らみを帯びている!

え、なにこれ。どういうことですか!

モノホン?


『本物本物。君の要望を叶えてあげたのだよー? 感謝したまえー!』


確かに、胸だけじゃなくて全体的に女の子になってる。

絶世の美女って感じだな!


「カミサマって、女? 男?」

『神様にってより…僕に性別は無いよー? でも、ずっと男の方の体だったし、男寄りかなぁー』


まぁ、一人称が「僕」だしな。

って、そんなことはどうでも良い!


「なぁ、ここって所謂、転生の間的なやつ?」


俺はこの、白いだけで何もない空間を見渡しながら聞いた。


『君が思っているのとほぼ一緒だよー。選ばれた魂しかここに来れないんだー。あ、選ばれた魂は、不慮の事故とかに遭いやすくなるんだけど…』

「へー。じゃあ俺、たまたま偶然選ばれちゃって、死んじゃった訳だ」


なんて数奇な運命の持ち主なのでしょう…って、いらねーよ!

そんな運命いらねーよ!

享年十八とか、どんだけぇー!?


…いかんいかん。あの人の決まり文句が出ちゃった。


「なぁカミサマ。俺、順風満帆な人生歩む予定だったのー。苦労して勉強して大学受かって、彼女もいて、住処も決まって、全部順調だったのー!」


異世界転生とかいらないから、俺を現世に戻してくれよ!


またも俺に泣き縋られたカミサマは、困ったように眉を八の字にした。

…可愛いな。


『しょ、正直、ここまで拒まれるとはー…。大抵の人はー、けっこー喜んで旅立ってくれたんだけどー…』

「そりゃ現世がよっぽど不遇だったか、よっぽど未練が無い奴だ!」


俺はそこまで不遇じゃなかったし、未練たっらたらなんだよ!


『ごめんねー…? 俺も、生き返らせてあげることは出来ないんだ…』


ですよねー。いや、良いんです。

死にましたもんね、俺。

もう仕方ないっすよね!


「……はぁー、悩んでても仕方がない。んで、俺の転生先…とやらは、何処なんだ?」


そう問いかけると、カミサマの顔があからさまにパッと輝いた。

そんなに転生させたかったのかよ。


『君の転生先はねー、アストレイっていう星だよぉー。地球と似てるけどー、所謂、魔法ってやつがあるんだーっ!』

「ほへー。カミサマ、魔法興味あんの?」

『そりゃもう! バンバンばしゅーって、撃ちまくってみたいよねーっ!』


は、はぁ…さいですか。


ちょっと引いているのが伝わったのか、カミサマは咳払いをして興奮を鎮め、俺をみた。


『そこで君は赤ん坊になるんだけど…何か要望はある? あ、君の意識はちゃんと引き継がれる筈さー』

「え、赤ん坊!? やだやだやだ! 赤ちゃんプレイとかマジで無理! 二日で鬱になって死ぬと思う!」


そんなんで喜ぶ変態さんじゃないから、俺。性癖は至ってノーマルだから。


『ん、わかったー。君の意識は、自我の目覚めと共に浮上していく設定でー…おーけー?』

「おーけー」


うん、最初からそう言ってくれよ…。


『赤ちゃんプレイ希望の人がいるからさぁー』

「転生の間に来る奴は変態が多いのか!?」


どんな奴だよ、全く…。


『じゃあ、他はー? やっぱりお馴染みの、ちーと?』


ちーと、の言い方が可愛い。

イケメンは嫌いだが、可愛いは正義だ!


「他と言われてもなぁ…あ、チートはいらんぞ!」

『ええ、どうしてーっ!? 敵をスパーンって倒したくないのぉ!?』

「いやまず、スパーンって倒さなきゃいけない敵がいるのか!?」

『魔物たんがうじゃうじゃだよー』

……えーっ!!?


「やだやだやだ! リアルRPGの世界とか無理! 日本に帰してぇ!」


俺平和主義者! ヤンチャしてた時期もあったけど、魔物相手に戦うとか無理だから! 俺チキンだから!


『落ち着いてー! 君のお望み通り、安心安全地帯に転生させてあげるからー!』

「当たり前だろ! 誰が好き好んで危険地帯に住もうとするか!」

『いやー、いるんですよー、そんなクレイジーな方々がー。第一、ちーとを望まなかったのは君くらいだよー?』


皆そんなに敵を倒したいのか。

というより、俺はそんなリアルRPGの世界で生き残れるのか?


俺はささやかで平凡な日常を送りたいだけなんだぞ!?

カミサマの話を聞きながら、俺の心は、異世界への期待––などではなく、不安で一杯でした。

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