第5話

 記憶に痛みが走り、我に帰る。どうやら火の消えた煙草を俺は吸い続けていたらしい。携帯灰皿を取り出そうと胸や尻に手をあてるが見つからない。ああ、椅子にかけたジャケットに入れてあるんだった。仕方なく、橋の近くにある排水口まで近づいて吸い殻を投げ落とした。否、俺は排水口とは呼んだが、実際にこの先は下水管ではなく、そのまま川に流れ落ちる。つまり、元から川に放り込んでいるのと同じなのだ。はじめからそうすればいい。わかっていながら俺はその行動から逃げたのだ。

「私は自然を汚そうとしたわけではありません。道徳を踏み外したつもりもありません」

 誰への言い訳だ?紛れもない自分自身へ。橋の上から浮かんでは沈むその白い罪を眺める。そうだ、俺はそういう奴なのだ。下流に背を向け、二本目の煙草に火をつける。天を仰ぐとなんだか監視されているような気がして、そして一時停止した記憶が再開された。

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