第4話
下校の時間になり、椅子を引きずる音で教室は騒がしくなる。僕たちだけは席を立たず、ロッカーに向かう彼女を横目で追った。彼女はランドセルを手にするとその場で立ち止まった。背中越しで表情は見えない。いつもなら動作という動作もなく教室から姿を消す彼女に対して異変を感じた者は、彼女の視線の先を辿るや否や硬直し、何人かの女子は小さく悲鳴をあげた。彼女を中心に静寂が波紋のように拡がり、時間は五分か十分か。永遠とさえ思えた。誰かが「先生呼んでくる!」と言った瞬間、動き出したのは彼女自身だった。引き戸を音をたてることもなく開き、教室を後にした。
誰も言葉を掛けられず、誰も追いかけることも出来なかった。
「宇宙人のやつ、泣きも怒りもしなかったな。つまんねえの」
共犯者の誰かがそう言うと、クラス中からは冷ややかな視線が注がれた。僕たちの犯行であることはその時の動揺を見れば明らかだった。そして僕は居ても立ってもいられず、その時に放った言葉が今でも忘れることが出来ない。
「そもそも緑色のランドセルだなんて生意気じゃないか。みんなと違うことをしていいわけないだろ、転校生なんだから」
僕は一体なにを期待していたのだろう。振りかざした刃は空を切り、かまいたちのようになって自分を傷つけた。こんなときにでさえ、自分を守りたくて、彼女に罪を見つけようとした。
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