第43話 迷宮攻略⑤(※カディスSIDE)

 第9層へ降り立ち、二手に分かれて半日ほどが経った。俺の索敵範囲は5キロに及ぶ。今のところ、パーティの生存を脅かすような危険な魔物はいないようだ。俺はこの規格外の能力により、諜報部への道が開けた。だが、この“彷徨い人”の集団にいると自分が優ってるとは思えない。特に、上司グレイナーのお気に入り、アキラ・ウサミ。

 王女殿下に発見され、手厚い保護を受けている彼は一番初めに王都に現れた“彷徨い人”だ。発見されたのはタムラが早かったが、移動に時間がかかり、到着した時はすでに一週間が過ぎていた。その間に、アキラが現れた。

 アキラは次々とスキルを体得し、魔法も全属性扱える。武術や剣技に至っては1カ月もしないうちに騎士団レベルまで使えるようになっていた。特に、気配察知や魔力感知に秀でている。何も知らない状態で、ハイディングしていた俺とグレイナーを見破った。そんなスキル持ちは国に10人もいない。さすがは勇者候補、というところだ。それに加え、奴は勇者にはなれないと公言している。どこにそんな思慮深い人間がいるのだ。

 俺は“彷徨い人”の全員のスキルをみたが、隠蔽したのは奴くらいだった。なのに天狗にならない。不思議だった。あの、炎の魔法をひけらかすくらいの馬鹿もいるんだが。どう見ても平凡すぎるスキルに隠蔽されていた。使える魔法がのっておらずスキルもなかった。人に見せられないスキルのオンパレードではないかと俺はみている。持っているスキルを奴は話さないが魔法の方は最初についていた教師が使える魔法はすべて使えるのではないかと思っている。それくらい、魔法を使いこなしていた。ほぼ無詠唱で。就いた教師は優秀だったが、それにしても他の“彷徨い人”より数段上の魔法適正を持っていた。

 さらに魔眼。どんな魔眼かは明かしてないが、相当に規格外だろうというのは王女殿下やグレイナーの見解だ。

 そして肝心なことだが奴は努力を惜しまない。ストイックすぎるほどだ。普段の言動はお調子者と名高い俺に匹敵するくらいなのだが、ここに現れてからこっち奴が訓練を休んでいる姿をほぼ見たことがない。

 他の“彷徨い人”は週に1日くらいは訓練を休んでいる。特にタムラよりあとに現れた初めの10人は訓練を嫌がってろくに戦えない。攻撃魔法を使える者だけが我儘を通し、他を見下していた。

 アキラはそれを憂いていたが、口を出すことまではしなかった。王女殿下もどうにもできないことだった。“彷徨い人”に強制はできない。彼らがこの世界を見かねて手を貸してくれるまでお願いに留めておかなければならないからだ。やるもやらないも彼ら次第。

 まあ、あとから来た10人には強制してしまったようだが。

 それが功を奏したのか、アキラが面倒を見ている10人は勤勉だった。アキラの能力の凄まじさに多分彼らも気づいてはいるようだからだ。

 前半組とアキラが名付けた5人を預かり、第10層へ下りるために道を探している。見通しの悪さが足を止める。思ったより進みが遅い。


「先生、そろそろ休みましょうよう~」

 彼らは俺を先生、アキラをラビちゃん先輩と呼ぶ。このパーティーのムードメーカーはハジメ。いつも率先して行動を示す。

「よし、昼にしよう。」

 手放しで喜ぶ連中を安全と思われる場所まで誘導し、一時の休みとなった。

 アキラの率いたパーティには王女殿下が合流している。少し危険だが、必ずアキラが護るだろう。バーダットに向かった連中には騎士15人が付いているがこちらの護衛は俺一人。そもそも地力が違ってしまっている。アキラが鍛えに鍛えた彼らは騎士の部隊長に匹敵する実力はある。冒険者で言うところのCランク以上だ。ここのところの連携のよさや判断のよさは経験によるものだろう。


「虫ばっかりはきついわ~」

「確かに気持ち悪い~」

 第9層は昆虫型の魔物と植物型の魔物が出現する層のようだ。このダンジョンはできてから日が浅く、潜るパーティーも“彷徨い人”のみだ。調査した冒険者以外このダンジョンには入っていない。その分、危険があるが、目立たないように訓練するにはちょうどいい。“邪王”の復活には魔物の暴走が付きものだ。立ち向かう力を手に入れて欲しい。


 ここに入って攻略をするようになって2カ月になる。彼らのレベルもかなり上がった。アキラに関しては先んじて魔物討伐をしているためその倍はあるだろう。

「よし、休憩は終わりだ。行くぞ。」

 俺は出発しようと声をかける。彼らは素直に立ちあがって周囲を警戒する。斥候役の少女が先んじて消える。彼女は罠を感知すると警告をする役目がある。このダンジョンに入ってから随分と磨かれたスキルだ。そうしてしばらく歩くと、ダンジョン内の空気が緊張しているように感じられた。何か妙だ。


「先生、何か…」

 彼らも気づいたようだ。索敵を広げる。魔物は感知内にはいない。なのに、この緊張感。何かが起きているのだろうか?

「よし、ラビのパーティと合流する。行こう。」

 斥候の少女に見つけてもらうよう頼んで2時間ほど過ぎたころだった。

 慌てた様子の後半組と合流ができた。


 アキラと王女殿下はいなかった。


「戻ってこないの。索敵してもいないの。どこに行ったのかわからないの!」

 彼らのパーティの索敵役はアキラだったが地図は亜由美、という少女が担っていた。彼ら全員で、索敵を手分けしたが向かった方角からは何もなかったということだ。

 アキラに関してはこちらを見つけることができないはずはなく、合流して来れない状況にあるのは間違いがない。王女殿下も心配だ。

 なんてこった。

 撤退するほかはない。ここで“彷徨い人”を危険に晒すことはできない。俺は即座に判断し、第10層を早々に攻略し、地上に戻ることを決めた。来た道を戻るより倒してしまったほうが早いという判断だ。


 第10層に下りる道はそれからほどなくして見つかり、蟷螂の魔物が階層主だった。魔法が通りにくく、物理も堅い表皮に攻撃が余り通らず苦戦をしたが、関節部分が弱いことがわかると無事倒すことができた。奥にある転移陣で地上に戻り、報告をした。

 王女殿下の失踪に城中が大騒ぎになったのは言うまでもない。

 王女殿下の側近のフリネリアは動揺していたが、すぐに立ち直り捜索隊を編成、ダンジョンへ向かわせた。10階層までのどこにも、彼らの姿はなかった。

 1日経ち2日経っても、何の手がかりも見つけられなかった。


 絶望的な空気が、王城を支配した。


(アキラ、こんなところでくたばるタマじゃないだろう。早く戻ってこい)


 そして、バーダットに向かった組にも、事件は起こったのだった。

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