第15話 アーリアの冒険者活動プラスワン

 王都はミネス王国の中心に位置する。四方に街道が伸び、各都市へ繋がっている。

 バーダットがある方角は北。この世界にも迷宮ダンジョンがあり、各地に点在するが難易度の高い冒険者の集まる迷宮都市ダウは西にある。商業の盛んな都市メネは東にあり、穀倉地帯とも呼べる農業の盛んなデリンネス地方は南にある。その間に森や山があり、魔物や野生動物が暮らし、生活に必要な素材をもたらしてくれるという。鉱物も発掘されていてバーダットとダウの間に工業都市アミラールがある。ここは魔道具や武具などを作る工房が集まって出来た都市だと言われている。このほかに開拓村や知られてない小さな村は点在する。

 王都の側にある小さな森は比較的ランクの低い魔物が多く、成り立ての冒険者や狩人が経験を積むには最適な場所だという。

 王都から離れるほど、魔物は力を増すということだ。


 俺が初めて受けた“薬草”の採取。それが二人のクエスト。

 森の中の移動、注意する点、俺が受けた指導をそのままカディスが二人にやや柔らかめに教えていった。

「まさか、私がこんなことをするとは…いやはや。この世界の薬には興味あったとはいえ少々怖いですな。冒険者登録というのも、私よりは若者の方が向いていると思うんですがねえ」

 田村さんが休憩中に森の中を見ながら誰ともなく吐き出す。

「俺だって、思わないですよ。普通の大学生でしたからね。もやしでインドア。」

 笑いながら言った。

「ほう?もやしですか?立派な体格をしているようですが…」

 俺の方を見て首を傾げられながら呟かれる。

「この世界でのトレーニングの成果ですよ。」

 実際、筋肉はかなりついた。ムキムキでなく細マッチョクラスだが、腹筋は割れている。


 そこにアーリアが割り込んできた。

「大学生って?アキラ様は学生だったのですか?」

 キラキラした瞳で見られ、田村さんはそっと視線を外し、肩が笑っていた。

 いや、もう、なんというか。

 違うんだって!

「あれ?言ったことなかったっけ?向こうの世界の最高学府の一歩手前。ま、大学によってランクはあるけどね。専門は経済。理系と迷ったんだけどね。」

「アキラ様は数字に強いんですか?そういえば高い教養をもっていらっしゃるとは伺ってます。」

 え、なに?座学の教師の評価、それ!??

 カディスと田村さんが意気投合している。なに?なにこれ。

「あー、まあ。じゃないと大学に行けないんだ。俺の世界では誰でも知っているレベルだからね。」

 まあ、人は得手不得手があるけれど、方程式くらいは誰でも習う。

 そしてアーリアの質問攻めにあって、ぐったりした頃活動を再開。薬草の群生地を見つけ、採取完了。その途中二人はそれぞれ低レベルの魔物を倒している。


 意外にも田村さんは解体に平気な顔をしていた。

「外科医ですからね。人体の隅々まで知っていますよ。専門は消化器系ですがねえ。血を怖がっていたら手術はできません。こうして命を奪うことになるとは思いませんでしたが。」

 お腹切ったら出そうだ。派手に血が。う、俺の方が気持ち悪くなりそう。

 アーリアもこの世界の住人で、魔物を倒すのは当たり前、の感覚の人だった。

「これが実戦なんですね。なにもかも、本とは全く違います。」

 指導されるままに的確に仕留めていった。

 俺は二人の周りを警戒し、やや格上の魔物を仕留めていった。それでもEランクの依頼で出るような魔物ではあったが。


 そうして初心者とやや初心者を含む4人パーティは無事依頼を終えたのだった。

 夜、俺は気疲れか、早々にダウンし、アーリアの訪問はなかったのだった。


 田村さんはレベルが上がって身体が軽くなったと言っていた。他の“彷徨い人”はまだ訓練を始めたばかりで、実戦には程遠い。実は隠居する田村さんがこの中では一番戦闘技術が高かった。

 田村さんはこの集団にいる時は若い人たちを優先に訓練させ、自分は後に回った。

 彼らの認識はいずれここを出ていく人物という認識であったので、他の面子は週に一度いなくても気にしてないようだった。そして田村さんに俺があの集団にいないことがばれてしまった。

「実はカディスさんに教わりまして。王女様の側近だと。それで王女様をお連れして訓練をされているのだと納得していました。あの時、話したことは実はかなり私を前向きにさせてくれたんですよ。この訓練も感謝しています。」

 俺に頭を下げてくる田村さん。じいちゃんに頭を下げられてるようで居心地が悪い。

「あーもう、恥ずかしい。俺はたまたま、王女様に拾われた縁でそうなってるだけなんですよ。実際はオタクのもやし大学生です。」

 田村さんは年上の貫禄のある頬笑みを浮かべて、こういったのだ。

「街に下りる気持ちは変わりませんが手伝えることがありましたら是非言ってください。貴方の頼みは断りませんよ。」


 俺は週に一度の訓練の時、彼に出来る限りの魔法の使い方を教えていったのだった。


 彼らのいない時の俺はかなりの数の討伐依頼をこなし、対象の魔物のランクも高いものになっていった。この森では対処していない魔物はいなくなった。そこでカディスから遠征の話が来た。やや離れた危険度が増した地域での活動だ。

 期間は1週間を超えない遠征。週一度の4人パーティの合間に組むということだった。

 野営もこなせなければ一人前の冒険者とはいえないようだ。

 俺の今のスタイルは近接戦闘になっている。魔法を使うスキルもあげておきたいのだが、カディスのスタイルを教えてもらってそれが飲み込めて、素人から脱却したら組み込んでいけばいいかと思っている。集団に囲まれたら、使うかもしれないけど。


 俺が遠征に出ることになって、アーリアがしょんぼりと肩を落とした。

「仕方のないことですが、お話しできないのは少し寂しいです。お帰りを心待ちにしていますね。」

 大和撫子がいた!いや、もう、俺、王女ルートしかプレイしない!(自作だけど)

 あ、取り乱しました。

 背後の殺気が怖かったのでごく普通な対応を心掛けて、アーリアの名残り惜しそうな視線を受けてしまい、後ろ髪が引かれる思いをした。


 あ、そう言えばかなり伸びて邪魔になってるなあ。切るのも面倒だから結ぶか。

 俺は紐で後ろに一つでくくり、髪が邪魔にならないようにしたのだった。


 そして初の遠征に俺は出かけたのだった。

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