冒険者活動と鍛錬の日々

第14話 冒険の開始

 カディスが俺に最初に言ったことは装備を整えろ、ということ。

 斬れない武器で魔物に出会ったら死ぬしかない。

 急所を護る防具を必ず身に付けろ。

 魔力切れや怪我に対しても備えを怠るな。

 状態異常の対策をしろ。

 等々。

 カディスはB級冒険者だという。諜報部へ所属するようになってめったに冒険者として活動はしないが己のレベルを上げるため、討伐依頼を受けるのだという。

 これは、思わぬ収穫だ。

 依頼は別として、懇切丁寧にここまで指導してくれる冒険者はいない。(と思う)

 過保護なのか、“彷徨い人”待遇なのかはわからないが非常に助かる。

 だが、まあ、初日はいわゆる採取依頼からだ。

 とはいえ、生息場所は魔物がいる森の中だ。油断すれば魔物に襲われる。

 俺は戦ったことはない。どんな魔物が相手であれ、一歩間違えれば死ぬ可能性はゼロじゃない。

 魔法は使えるが、いきなり襲われたら間に合わず、剣も落としたら使えない。緊張に身体をこわばらせていたら動けない。

 だから、指導者がいるということは僥倖なのだ。


 定番の”薬草”採取の以来だ。5本で一束を5束。薬草の形はギルドで覚えてきた。

 とりあえず、マッピングと索敵はしている。俺はナイフを何本かとやや刀身の短めな片手剣を腰に付けたベルトに佩き、短剣を手に持って、森の中を群生地を探して彷徨っている。

 カディスは獣のつける印や糞のあと、縄張りの推測や、生態系など森について教えてくれ、食べられる物や毒のある物、虫などを懇切丁寧に指導してくれた。いつもの軽薄な感じは幾分なりを潜め、俺に細かく教え込んでいった。

 気配を隠す訓練だということで、俺は彼からいつも彼が行っている技“ハイディング”を教えてもらった。音を立てずに歩く訓練も合わせてしている。

 魔物や動物は音や匂いに敏感だ。更に魔物は魔力の感知にも秀でているものも多い。魔法しか効かなかったり、物理攻撃しか効かないものもいる。


「よっしゃ、これで最後っと。」

 最後の束を紐でくくってショルダーバックに入れた。というか背負い袋か。定番のアイテムボックスというのはなかった。

 カディスは俺が下を向いて採集している間付近を警戒してくれていた。



「よし、依頼は達成したな。訓練を始めるぞ。」

 え、採取の訓練してたんじゃなかったのか?

「王都の周りは危険度が低い。初心者には格好の鍛錬場所だ。」

 にやっと笑う表情は見たことのある表情だ。シゴキをするという前触れ!

「生き物を殺したことはあるのか?」


 俺は首を横に振った。それを見てカディスは少し真面目な表情で俺を見た。

「魔物を狩るということは生き物を殺す、ということだ。躊躇いは捨てたほうが生き残れるぞ。」



 そうして、俺は初めて血の流れる生き物を殺した。噴き出た鮮血を見て、身体が固まった。

 喉を掻き切れと言われてそうした。弱い魔物だったからすぐ絶命した。血の匂いが、濃密に漂って、俺は吐いた。手が震えて短剣を落とした。

 そんな俺の様子には構わずにカディスはその魔物を解体して、袋に入れた。


「…慣れるしか、ないぞ。」

 レベルを上げるには魔物を倒すしかない。

 つまり、強くなりたければこれに慣れていくしかないということだった。


 そういえば水峰がシナリオに初めて魔物を討伐した時の感想を書いていた。

 彼の言葉を借りるなら――。


『人間は慣れるのだと、心のどこかが麻痺していったのを感じながら、そう思った。』


 ――俺もいずれ、ためらいもなく魔物を殺すことに慣れるのだろうと、改めて思った。口の中の苦さに慣れるように。


 ひとしきり吐き出して、口の中を水で洗うとカディスの後ろについて歩き出した。


 結果、Eランク相当の魔物を5匹狩り(こっちはカディスがいたため、チームで受けたという扱いになった)、Fランク常時依頼“薬草採取”を達成し、銀貨2枚を手にした。


 そうして俺は朝の鍛錬は今までと同じ、朝食後は冒険者ギルドへ行き、依頼を受けて魔物との戦い方を指導してもらうということになった。

 自分で稼いだお金が貯まるようになった。一週間もすると俺はFからEに上がった。

 俺のレベルは10に上がった。魔力や身体能力が上がった感じだ。

 あれ以来俺はステータスの確認ができるようになったので、寝る前に確認していた。

 スキルにもレベルがあった。こっちは熟練度だと思う。


 “彷徨い人”はまだ増えていた。

 サラリーマン1人、男子大学生1人、女子高校生1人が更に加わった。

 総勢は11人。

 どうも訓練は上手くいってないようだった。フリネリアは女子組の面倒を見てるが俺に対するようには指導できない様子だった。

 訓練に積極的なのは若い男子組らしい。たまに田村さんの様子を見に行っているのだが、人数に対して指導者が足りてないと思われた。俺はほぼマンツーマンで教わっていたがこっちは集団に対して指導者が一人。

 特に魔法の指導は最悪で攻撃魔法が使える者優先だった。


 この集団に合流するのはまずいかもしれないと思いながら、俺は俺でカディスやたまにやってくるフリネリアに鍛えられた。

 魔法の訓練はマルティナに教わったことを反復練習する感じだ。威力調節や、使い勝手、自分の魔力の限界等を一つ一つ検証していった。

 いつの間にやら夏から涼しくなり、秋になった。そんな中、アーリアが突然こんなことを言い出した。

「私も冒険者として活動したいのです。」

 俺はカップを取り落としそうになった。

「アーリア様?危険ですよ。」

 アーリアは決意が固い強い瞳の色で俺を見た。

「アキラ様と一緒に冒険者がしたいのです。200年前の勇者の時、王女も一緒にパーティーに参加していたという記録があります。訓練は私もしていますが実戦が足りないと思うのです。これは譲りません。」

 背後にいる護衛の二人も、微妙な空気を醸し出していた。


 危険度MAXだと思う。が、しかし、結局、アーリアの希望が通った。

 週に1度俺とカディスのチームにアーリアが加わり、更に田村さんも一緒に連れていくことになった。

 田村さんも勇者の卵、俺が説得した。治癒魔法の錬度を高めるためと魔力と身体レベルの向上。

 彼には素晴らしい治癒魔道士になって欲しい。


 俺達は王都近くの森へ向かう。受けた依頼は薬草採取。

 田村さんとアーリア、二人にとっての冒険の始まりだ。

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