第12話 スキルと“彷徨い人”③
「手を水鏡の中に入れてください。」
言われるまま手を浸す。
神官が祈るように、何かの呪文を唱える。
(あ、これステータスオープン的な魔法だ…)
うっかり、眼に魔力を通してしまった。
魔法陣が水鏡に展開された。光っているそれは魔法の光。
ああ、これも覚えちゃったよ。神官になれるよ、俺。
そして水鏡に浮かび上がった文字。
俺のステータスだ。
神官には見せたくないんだけれど…どうなる?
眼に魔力を流したままで見ていた。
神官はスキルを紙に記し、俺にアドバイスをする。
スキルを見て、職業や伸ばす方向をアドバイスするのがスキルを見る神官の役目だとフリネリアが教えてくれた。ここで言う職業はスキルによって獲得できる職業だ。複数選べる場合もあるし、いつの間にやら獲得してる場合もあるという。職業は神官が授けることができるという。
俺は魔法に関しては才能がないらしい。
剣士か斥候に向いている。
魔力量は一般の大人よりあるとのこと。
隠蔽が効いたようだ。俺は礼を言って、席を立った。
衝立から出ると少し離れた場所に田村さんがいた。頭を下げて教室をさりげなく出た。
そこでマントをかぶって足早に自分の宿舎へと向かった。
ちょうど昼なので昼食をとり、いつもの訓練場所へと足を運んだ。
そこにはカディスが待っていた。
「フリネリアは王女殿下に付いている。今日は諜報向きの技術を教えてやる。」
その日は暗器、いわゆる隠し武器の活用方法、いかにさりげなくターゲットを殺すか、気配を隠すか、聞こえない言葉を読み取るか、情報の探り方などを教えてもらった。
「お前、ほんと普通じゃねえな。初見じゃできない芸当なんだが。」
一回見せると覚えていく俺にカディスが唸って言った言葉だった。
「そこは“彷徨い人”補正って奴かな。覚えはするけど、身体が動くようになるのは、やっぱり訓練しないとダメだろうね。」
投擲をしながら(的にナイフを投げる訓練)俺達は会話していた。それも訓練。他の事をしながら情報を渡せるようにするためだ。
…俺まだ諜報部に行くっていってないけどなあ。
でも多分俺には合っているかもしれない。自由に動ける立場であれば、アーリアの護衛をし、側近でいられ、俺の能力を生かし、他の“彷徨い人”にも関われる場所。
「そう言えば冒険者に登録したんだろう?まだ実践してないのか?確か、一定期間依頼を受けてないと再登録になるんじゃないか?」
短刀で打ち合いながらカディスが聞いてきた。あの日やっぱりカディスがくっついてきてたのか。
「そうか。もう一般常識は終わったし、魔法の訓練もマルティナがいなくなったら縮小になるだろうから、時間とれるように相談してみるよ。」
俺の首筋に短刀が当てられてその日の訓練は終了だった。
「本当は暗殺者は気付かれる前に命を狩るんだけどな。俺達は情報取得が本命だからそれはやらない。それは裏の仕事になるな。」
更に闇の部署があるんですか、そうですか…怖いな、国の闇って。
聞かなくてもいい情報をもらって紙を渡された。
「爺どもに渡る前に回収してきた。ついでにほかのメンツの情報も足しといた。これ、隠蔽かけただろう?」
にやりと笑ってウィンクして消えてった。俺って使えるだろうというアピールなのか、わからん。
とりあえずそれは誰にも見られないようにして部屋に置いてきた。
マルティナの訓練はあと1週間ほど。最後にちょっと開けたところで大きな魔法を見せてもらうことになっていた。
「師匠、“彷徨い人”の魔法訓練って何人付いてるんですか?魔法適性多いんでしょ?」
マルティナは首を傾げて考えていた。
「私はアキラの事しか頼まれてないから、あまり詳しくは聞いてないのよ。優秀な教師は各学院や学校に所属していて人手がそれでも足りないし、魔術師団に頼むとしても、魔術師団もいろいろ忙しいはずだし。そんなに割けないんじゃないかしら?」
俺はまさか一人しか教師が捕まえられず、いろいろなところで齟齬が出ることになるとはこの時点では知らなかった。
「まあ、でもお偉いさん主導なんだから下手打つことないでしょうねえ。」
希望観測的に言ったのであったが、これがフラグになるとは思わなかった。
「気になる?合流してもいいんじゃないかしら?」
ふふふと黒い笑みを漏らして覗き込んできた。近い、そして胸の谷間が丸見え。魔族はエロティックなドレスを着るというのがこの世界の常識なのか。顔が赤くなるのを自覚したが仕方がない。俺は健全な青少年だ。
「うーん、もう少し鍛えてもらってからかな。人数が多いってことは、訓練も小分けになるだろうしね。学校の授業みたいにね。」
俺が照れたので満足したのか少し身体を離したマルティナはにっこりと笑った。
「もう教えることってないかもしれないしね。アキラは。」
今は支援魔法を見せてもらっている。
俺は錬金魔法にも興味があるし、そっちは魔道具の工房で見せてもらおうかと思っている。
「まさか。俺はまだレベルも1ですよ。スキルは多少ありましたけど。」
マルティナが肩を竦める。
「あれは魔物を倒さないと上がらないけど、技術の熟練度とかは反映されないわよ。それだけじゃ、生き残れないの。」
新たな情報だ。確かに俺に出来ることは多いし、身体も鍛えてるけど、レベルが上がっていない。その謎が解けた。あまりに初歩的すぎて本にもならなかったのかもしれない。
あれだ、キーボード操作の基本とか意外と調べるのは難しいようなものかも。
さて、アーリアに会う前に情報の整理をするか。
アキラ・ウサミ
種族 人
レベル 1
HP/200
MP/200
職業 なし
スキル 気配遮断 剣術 体術 生活魔法
魔法属性 無属性
これが隠蔽された状態のスキル。
こっちが俺が見たスキル、だ。
アキラ・ウサミ
種族 人
レベル 1
HP/200
MP/200
STR/100
VIT/100
DEX/100
AGI/300
LUK/400
INT/600
職業 語り部
スキル 気配遮断 剣術 体術 生活魔法 鑑定
索敵 魔力感知 魔力制御 隠蔽
魔法属性 全属性
称号 勇者の卵 勇者の友人
固有スキル 言語理解 情報分析 奇術師 神眼 創造神の加護
という具合だ。
俺は頭が痛い。特に称号だ。【勇者の卵】は多分今回呼ばれた皆にあるはずだ。
その横、【勇者の友人】これが問題だ。その勇者って誰だ。俺の友人で勇者はいない。
そもそもこの世界に、友人はいない。なれそうな奴はいるが、この世界の人間だ。
ああ、でも一人だけ心当たりがある。
俺達の作ったゲーム、”アクアミネスの勇者”その原案者、”水峰勇”その人だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます