第11話 スキルと“彷徨い人”②
“彷徨い人”は普通はこんなに出現しないそうだ。
現れても、1~3人。それがもう、10人を超える。
皆勇者になれる素質を持つ。
だから、邪王と戦えるように、皆に訓練をしているのだということだった。
向き不向きもあると思うんだけどねえ。どういう基準でこっちに寄越してるのかはわからないけど。
俺が呼ばれた背景は少しだけど、想像が付く。
この世界に似た世界観を持つゲームを創造したため。
あるいは、原案の水峰がこの世界の帰還者だったための、何かしらの役目を負わされている、とか。
王女に焦がれたから神様が憐れんで、とか…。
……。
まあ、それは置いておいて。実際、彼らは男女に別れて王城の騎士団と魔術師団の訓練所にて訓練を行っている。座学は合同で会議室や、戦術用の訓練用の教室だ。
宿舎は男は騎士団の寮、女は侍女たちの寮に住んでいるということだ。
俺は侍従や下位の文官の宿舎だから少し扱いが違うし、王女の部屋に近い部屋が宛がわれている。
今日は神官が来てスキルを見てくれるということだ。この世界、ステータスというよりは各人の才能や努力の結果を見るという意味合いだという。神官がその技能を使えるのには女神からの祝福だからだという。
ちなみに鑑定でもレベルが高いと見られるそうだ。隠す必要がある時は隠蔽というスキルを覚えるらしい。
俺の“分析”もある程度見えると思うんだが、気付かれるといけないので人には発揮したことはない。
ふと背後に気配を感じて振り向く。誰もいないように見えて、よく見ると存在を感じることができた。諜報部のカディスだった。
多分俺以外は気付かない。
『何でもない振りをした方がいいぞ。』
小声で俺にだけ聞こえるように言った。
『さーせん。俺の見張りですかね?』
『まあ、そんなもん。俺もついでに噂の“彷徨い人”見ておこうか、と思ってね。』
『ええ―それ職権乱用。』
軽口を言いあいながら俺は“彷徨い人”の今いる区画へと到着する。
『お願いがあるんですけど…俺のスキル表、もしあったら俺にか、フリネリアに渡して欲しいんだけど…』
言わんとする意味を察してくれたのか気配は消えた。
“彷徨い人”総勢8人は座学が行われている広めの教室を使い、一人一人、神官がスキルを見ていっているようだ。
俺は最後尾に紛れた。直前にいた人物は白髪頭の壮健な男性だった。
歓声が上がっていいスキルがあったのだろうかと思う。俺にとっては、そこは歓声を上げるところじゃないだろうと思うんだが。
フードをそっと取って何食わぬ顔で順番を待った。気配は遮断しているので、意識を向けられても、あれ、こんな奴いたかくらいの認識ですぐ忘れてくれるだろう。
「なんだかね。慣れないですねえ…」
ため息をつく様子に俺はなんとなく謝りたい気持ちになった。
どう見ても勇者になりえない人なんだけどと思い、ふっと目に魔力を込めてしまった。
田村光春
19××年生まれ
満60歳
元開業医
専門外科・内科
健康
・・・・
えっ…年代が…ずれている?っていうか見えるじゃないか。まずい。
見ちゃいけない情報が見える。
慌てて俺は魔力を消して、声をかけた。
「お疲れですか?椅子お持ちしましょうか?」
彼は俺の方を見て、あれ、という顔をした。疑問を持たれては困るので矢継ぎ早に声をかけた。
「慣れないですか?思わず聞こえてしまったもので。結構よくしてもらってる気はするんですが…」
彼は苦笑して首を振る。皺が目立ってきた温和な顔で俺を見た。
「いや、疲れてはいないよ。息子に家業を譲って、盆栽弄りでもしようと思った矢先に、神隠しにでもあったようなことになって驚いているだけだよ。今いるところが、まるで中世の洋画でも見ているようだと思ってね。」
俺は冗談にしようと軽く笑って見せた。今、スキルを見終わっているのは4人目。
「皆言ってるでしょう?ゲームやラノベのようだって。俺たちの世代はそれが流行りなんですよ。まさか、そんな世界に来ることになるなんて、思ってませんでしたけど。馴染みがない、田村さんには戸惑うことばかりでしょうけど、俺も戸惑ってますよ?」
と肩を竦めて見せた。彼はようやく笑った。どうやら緊張してたようだった。
「ああ、そういえば君くらいの子たちはワイワイと話してたねえ。よくわからないけど、チート?がどうとか。私はこの年で戦いに行くことはできそうもないのでお断りをしたんだけれどね。皆がやる気ではないけれど、ちょっと怖いねえ。」
その、”怖い”は何を指すのか。
「そうですよ。わからないことだらけで。ああ、訊いてもいいですか?息子さんに家業を継いでもらったって、農家とか、ですか?」
ふっと彼は笑った。息子さんの事でも思い出したのだろうか。
「いや、しがない地方の開業医だよ。昔は外科だったが、手先が鈍ってね。内科を専門にしてたんだが、やっと息子が一人前になって戻ってきてね。継いでくれるというから医院を譲ったんだよ。」
きっと優しい、いい先生だったのだろうなと思わせた。
「ああ、それで盆栽ですね。渋い趣味なんですね。お医者様だったらゴルフとかだと思いますよ。」
彼は肩を竦めて笑った。
「いや、さすがに身体が動かなくてね。医者の不養生かな?」
と腰を叩いて見せた。
「少し身体を動かしてみるといいんじゃないですか?この世界に来たら身体が丈夫になっているかもしれませんよ?そういえば街に下りるそうですね。お仕事はなされるんですか?」
また一人、進んだ。
「それがねえ。慣れない街だからね。何ができるかもわからないからね。」
と首を振る。
「お医者様だったんですから、この世界でもお医者様になってみたらいかがですか?ちょっと勝手が違うかもしれませんが。」
悪くないかもしれない。この人の経験はきっとこの世界にプラスになると思う。アーリアに提案してみよう。
「そうかね?魔法で何でも治してしまうんじゃないのかね?」
きっと魔法を見て驚いたんだろうな。俺も驚いた。
「そういった魔法を使える人は街では少ないようでしたよ?あ、話に聞いたところでは。」
だから、魔法学院というエリート学校があるのだと、マルティナは言った。魔族はまた事情が違うけれど、人間族では魔法を使えることはまれなことなのだ、と。
「そうかね。引退したが、人さまのお役にたつなら考えてみてもいいかもしれんなあ。」
この人に治癒魔法のスキルがあるといいなあ。絶対良い医者になる。
「そうですよ。何もしないのはつまらないじゃないですか。楽しまないと。」
次はこの人の番だ。
「いいスキルがあったらいいですね。」
衝立の中に入って行くのを見送って、教室のあちこちで、スキルの話をしている“彷徨い人”を意識に入れた。
さすがに若い男が多かった。勇者になるのはやはり男の方が多いのだろう。女の勇者はいたんだろうか?
しばらくして、田村さんが出てきた。
「なんだかねえ、魔法が使えるようなんだよ。治癒魔法に適性があるんじゃないかとね。聖とか、光だとか…?」
俺は思わず口角をあげた。
「そうですか。田村さんの天職は医者だったということですね。期待してます。あ、俺の番なので、また。」
軽く手を振って衝立の中へと入った。
教会から来た優しげな神官が迎えてくれた。
手前には大理石か何かでできた六角形のテーブルには、中央に丸く窪みがあり、水が張られていた。
水鏡だろう。
「どうぞ、あなたで最後でしょうか?」
優しげな神官の声に俺は頷き、対面の椅子に腰を下ろした。
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