第9話 魔眼
冒険者とギルドについて窓口で説明をしてもらった。
冒険者とは戦闘技術等を頼みにし、冒険者ギルドに所属し、依頼を受けて金銭を得るものの総称である。
国家に左右されず、世界広域で活動が許され、入出国に恩恵がある。
戦争に参加義務はないが“魔物の
迷宮を主に活動するもの、護衛を主に生業とする者、市井の雑用を主にこなすもの等内容は多岐にわたる。
仕事にあぶれたものの受け皿でもある。
基本的に自己責任でギルドは何にも関知しない。
ただし、ギルドの名誉や活動理念にもとる者、犯罪行為が明白なものに関しては裁きの執行権を持ちうる。
冒険者にはランクがあり、依頼料もランクに応じて高くなる。上からS、A、B、C、D、E、Fだ。
誰でもFから始まり、実績に応じて上にあがっていく。この辺はテンプレな感じだな。
依頼もランク付けがされていて、ランクに応じた依頼しか受けられない。
素材採集依頼は採ってきてから受けてもいい。
登録は誰でもできるが犯罪歴がある者は受け付けられない。
登録証ギルドカードにはセキュリティがかかっていて偽造はできない。
魔力登録をするため他人には扱えない。
カードには決済機能がある。依頼料が高額な場合はカードに入れてもらうことが多いそうだ。
銀行の代わりに預かってもらうことができる。この世界に銀行があるかは不明だけど。
デビットカードみたいなものだよな…と思ったのは仕方ないことだろう。
手に持ったギルドカードを見つめる。
「いやあ、ちょっと夢がかなったわ…」
ため息をついて嬉しそうに俺は言った。
「夢、ですか冒険者になること?」
アーリアの言葉に頷く。
「異世界にしかないところだからなあ。ちょっと憧れてた。」
異世界転生、チート、冒険者で成りあがり。
厨二病満載の必殺技。この年じゃ、恥ずかしいけど、オタクの夢だよな。
それを実現したくて、ゲームを作った。その夢に“水峰勇”の力を借りた。
そして今俺はその世界に酷似しているこの異世界にいる。
カードをしまってギルドを出た。テンプレな絡みはなく俺達は街の広場に出た。
陽がかなり傾いていた。
広場から見る情景はただただ綺麗だった。家路を急ぐ人々が多く、広場自体に人はまばらだった。
オレンジ色の夕日は俺の世界よりも鮮やかでアーリアを彩っていた。
「綺麗だな…」
思わず漏らした呟きにアーリアが頷く。
「綺麗ですね。水に反射してキラキラしてる。」
中央の噴水に夕日が反射している。その様に見惚れるアーリアの顔も夕日色に染まっていた。
「そろそろ戻らないとまずいな。急ごう。」
この世界は夜になると真っ暗になる。灯りが貴重だからだ。
大都市では街灯も少しは稼働しているけれど、そんなに明るくはない。
基本的に人々の生活は日の出とともに始まり日の入りとともに終わるのだ。
アーリアを促し、来る時に使った、車止めに停めてあった馬車に乗り込んで、王城へと戻った。
翌朝、訓練に訪れたフリネリアが俺に会うなり言った。
「昨日はお楽しみだったそうだな。」
思わず剣を落としたよ、俺は!
「ちょっと待ってくれよ。それじゃあ、なんかしたみたいじゃないか?」
剣を拾い上げて抗議する。
「しただろう?アーリア王女殿下はイチコロだったようだぞ?」
イチコロって死語じゃないか?
そう言いながら打ち合いを始めた。
このところ魔力を眼に流したまま、打ち合いをするようにした。剣の軌跡が一瞬早く視える。
「したって…ああ、髪飾りをプレゼントしたことですか…ねッ…?」
あぶねえ、首狙ってきたぞ、首。
フリネリアの剣は重みがある。なので俺だと力負けするから受け流す様にして衝撃を軽減するのだが、思わず真正面で受け止めてしまった。
てーっ、腕が痺れる。しかも押してきてるじゃねぇか。
「アーリア様は昨夜は浮かれすぎててなかなか寝付かれなかった様子だったぞ。い・ろ・お・と・こッ」
思いっきり吹き飛ばされる。俺は倒れ込んで咳をする。その上にフリネリアがのしかかり、首筋に剣を当てた。
「まだまだだな。貴様、あと100回は死んでもらう。」
「イエーッスマム~」
俺、死亡確定。
まあ、喜んでもらえたならいいんだけどな。
俺はずたぼろになった身体を引きずって(時々フリネリアはSの女王様だと思う時がある)シャワ―を浴びてから魔法の授業へと向かった。
マルティナの教師の期限が迫っている。マルティナ以上の魔法の師匠はいないと思うから残念だ。その学院へ俺は通いたくなった。ただほとんどは高校生くらいだと聞いて無理だと思ったけどな。
「マルティナ。俺の眼なんだけどさ…色変わってるかな?」
きょとんとした顔でマルティナが俺を覗き込む。
魔力を眼に流す。
「特にはないけれど、少し魔力を感じるわね?」
そうだよな。俺は常にマルティナの魔法を見ている時、解析がしたくて魔力を流し続けていた。それで変わっていればマルティナが気づくはずなのだ。
「いや、昨日眼の色が変わってるって言われて…どうしてなのか知りたかったんだけど、自分の眼の色はわからないからどうしたもんかって。」
マルティナは少し考えるような顔をして俺に問いかけた。
「その時、何かしていたの?」
俺はその時付与魔法を発動していたなと思い当たった。
「ああ、そう言えば…」
俺はマルティナのしているネックレスに眼を向けた。
「それ、貸してもらっていい?」
マルティナが、ネックレスを外してくれた。紫色の魔石がいくつも繋げてあった。魔法は付与されておらず、無垢のままだ。
紫色の魔石は混合の属性、雷だ。あるいは火と水。どちらもいける。小さな魔石を選んで魔法をストック、付与する。
付与する魔法は昨日と同じ、水属性の盾。キーはマルティナの危機。
魔力を眼に流して魔法陣を石に描く。
「…!…」
マルティナが息を飲む音が聞こえた。
付与が終わりネックレスをマルティナに返す。
「この石に守護の魔法を刻んだ。昨日こうしてたら言われたんだよ。」
マルティナが石を見た。あ、鑑定の魔法使うのか?
俺は眼に魔力を流したままだから”鑑定”の魔法がコピーできた。ラッキー。
欲しかったんだよな。
「…こんなこと、どんな腕のいい付与魔法士でも出来ないわ…」
え?
「無詠唱なんて、あり得ないの…だって魔法陣を刻むというのは力ある言葉を封じ込めて魔法を保存することなのよ。」
ええ??魔法はイメージじゃないの?
「魔法は無詠唱でも発動するけど、術者が使う場合なのよ。無機物に付与する魔法がなんとなくで発動はしないの。」
「ええ?でも魔法はイメージで魔法陣描いて事象を起こしてるよね?魔法陣の存在しない魔法はないでしょ…」
マルティナがきょとんとしている。あれ?魔法陣、見えてないのか?
「“光球”…これも中に魔法陣、あるじゃん?…無詠唱でも、詠唱破棄でもいいけど、頭の中で考えたイメージって魔法陣描くことだって思ってたけど…そもそも無詠唱だって頭の中で詠唱してる人いるでしょ?」
マルティナが考え込む。そして俺を見つめる。俺の浮かべた光球が二人の頭上にある。
「あなたの眼…魔眼ね?」
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