第8話 王都観光

 天使がいた。


「~~~♪」

 フード付きの外套を着て浮かれたように人ごみの中を歩いている少女。

 綺麗な金髪はフードの中に隠れているが整った顔を緩ませ、頬を上気させて嬉しそうに鼻歌を歌っている姿は、物凄く可愛かった。

 気配を断って護衛がいる。それにホッと胸をなでおろしつつ俺はアーリアの隣を歩く。

 俺も目立つ髪と眼の色なのでお揃いのフード付きの外套を着ている。

 俺は兄と妹が田舎から都会へ観光にやってきた設定の気分だ。

 まあ、俺もこの街を歩くのは初めてだからちょっと浮かれ気分になる。


 ただ、アーリアに何かあったら困るので索敵はしている。

 俺の固有の能力かもしれないが、”地図”を自動的に頭の中に描くことができる。

 これは眼に見える範囲ではあるが、”索敵”スキルと合わせるとナビを見ながら進んでいるような気になる。目の前の景色と頭の中のナビ画像が二重写しになる感じだ。

 魔力探知とかソナーとかできたら見えないところもマークできるかもしれないが今は身の回り程度だ。でも、一度作った地図は消えないからその内この王都の地理を把握することもできるだろうと思う。この能力に気づいたのは偶然だ。宿舎の中を眼に魔力を流したまま歩いていたら見取り図のようなものが頭に浮かんだ。あれっと思ってそこに意識を向けたら、見えるようになった。それだけだ。

 この能力、チートっぽいよなあ。まあ、この能力の事は誰にも言ってないけれど。


 そして人も地図上に描くことができる。あれだ、ポインターみたいな点に色が付いている。ゲームみたいな能力だ。今は認識している人物しか描けないが、悪意ある敵が近付いてきたら自動的に現れるといいなと思う。ちなみにアーリアはピンクだ。可愛い色がいいと思ったらそうなった。

 敵は多分赤だろうな。

 今、俺達は露店を冷やかしている。珍しいもの怪しいもの、食料品、骨董品。魔道具や武具、何でもある。


「アキラ様、これ可愛いですよ?」

 装飾品などがメインの露天の前で立ち止まって水色の石の付いた髪飾りを俺に見せる。

 アーリアの髪に映えそうだ。

 水属性の魔石、と頭に浮かぶ。台座は銀だ。それなりにいいもののようで、俺はそれを手に取る。

「似合いそうだね。」

 そう言ってフードに隠れた髪にあててみる。

「どうですか?」

 遠慮がちな声に俺は笑った。


「すごく可愛いよ?」

 そう言ってそれを買った。少しまけてもらった。水属性の魔石から力を感じる。

 そうだ。せっかくだから守護の魔法でも刻んでおくか。

 いろんな魔法を見続けていたらいつのまにか補助魔法や支援魔法も覚えていた。

 錬金術系統も使えるようになっていた。


「…アキラ、様?」


 魔力を眼に込めて付与魔法をストックする。

 刻む魔法は水属性の盾、回復魔法、状態異常回復、の三つ。髪飾りの3つの魔石にそれぞれ刻む。

 起動キーはアーリアの危機、だ。

 一つ一つ刻んでいく。俺は基本無詠唱だ。魔石に刻まれた魔法陣を確認する。

 いい出来だ。


「眼が、金色に…」


 終わった。アーリアの呟きにそちらを見る。

「眼?」

 俺が先ほどの呟きに首を傾げているとアーリアが俺の顔をまじまじと見た。

 訝しげに眉を寄せてから首を振った。

「い、いえ何でもありません。」

 そういうアーリアにそれを差し出した。


「プレゼント。おこずかいは国もちだから、なんとなくあれだけど、その内俺が自分で稼いで、もっといいのをあげるよ。今日の記念で、出来れば普段つけていてくれると嬉しいかな?」

 アーリアが嬉しそうな顔になる。

「た、大切にします!ありがとうございますっ」

 ギュッと髪飾りを抱き込む姿に俺は嬉しくて、そして照れた。


 デート、みたいだなあ、これ。


 それからまた歩きまわってお昼を食べてまた歩いた。

 王都は上層に行くほど富裕層になる。

 最下層は平民だ。その上は商人や役人、その上が下位貴族、位が上がっていって王族が住む王城になる。俺達は商業区(貴族の居住区の下の層)に来ていた。


 そして冒険者ギルドもあった。


「これが噂の冒険者ギルド…」

 思わず感慨にふけっているとアーリアがそんな俺を見る。


「何か、思い入れが?」

「ああ、向こうの世界では一部の奴に大人気だったからね。向こうにはないけど。」

 と思わず笑った。

 アーリアは意味がわからない顔して首を捻っていた。


「俺でも登録できるのかな?」

「あ、はいっ犯罪者でなければ誰でも登録できます。」

 俺はそれを聞いて勇者に選ばれなければ(選ばれないと思うけど)冒険者になって世界を旅するのもいいかもしれないと思った。

 向こうの世界に戻る手段がなければ生きるためにそうするしかない。

 アーリアに仕えるのもいいけれど、王宮は肩がこるし、いずれはどこかに嫁ぐだろう。

(寂しいけれど、まあ、俺はもう魔法使いだから一生彼女ができなくったっていいしな)

 あれ?自分でもよくわからない心境だ。


 ともかく、この世界で世話になっているアーリアには恩を返すし、元の世界に帰れるよう努力はする。

 その一方で最悪の場合、この世界に骨を埋める覚悟も、必要だと思っている。


「ちょっと、中みてもいいかな?」

「ええ、私も見たことはないので興味があります。行きましょう。」

 俺の手を握ってひっぱっていくアーリアにちょっと驚きつつ遅れないように小走りに歩いた。

 開けた扉の向こうは意外と静かだった。

 お茶時の15時。冒険者は今はお仕事に熱中している時間かもしれない。

 中は役所のようだった。掲示板があり、受付があり、何か書くものなどがある。

 今は冒険者はおらず、受け付けの窓口の奥で何やら忙しそうに書類と格闘している姿が見受けられた。

 奥に看板があり、買取所、解体所への矢印が示されていた。

 小説によくある酒場はここにはなく、食事のできるところは解体所と反対側の扉の奥のようだった。


 掲示板に張られている依頼書を見た。

 薬草の採集、魔物の討伐、探し物等。

 ああ、本当に冒険者ギルドなんだなあ、と地味に感慨にふけった。

 多分、この気持ちはオタクじゃないと感じないと思う。ほんと異世界を実感したよ。

 おのぼりさんのように中を見回して受付に行く。アーリアは隣についてきていた。


「あの、登録ってできますか?」

 受付に座っていたやや小柄な女性は顔をあげてにっこり笑った。

「はい、出来ますよ。この申込書に必要なことを書いてください。代書もできますよ?名前は通称でもかまいませんが二重登録はできません。隠したい事柄や、わからないところは空欄で構いません。登録料は銀貨2枚です。」

「わかりました。」

 通称ね。んー、いかにも異世界ってまずいかな。この世界は認知されてるけど、一般的な存在でもなさそうだしな。

 よし。

「アーリア様も登録するか?」

 名前の部分はアーリアにだけ聞こえる音量で話した。

「し、してみたいです。」

「リア、とかどう?」

 俺はそうだなあ…宇佐見だからうさ…うさぎ…ラビ?


 名前 ラビ

 年齢 19

 出身地 空白

 スキル 空白

 職業 空白

 こんなもんか?出身地は書いてもわからないだろうし。


「これで…」

 受付に用紙を差し出す。

「それでは、このカードに魔力を流して下さい。」

 銅色のカードに名前が浮かび上がった。

「これでこのカードはあなたのギルドカードになります。犯罪歴はないようですね。再登録には銀貨3枚かかりますのでなくさないようにお願いします。ラビさんは初めての登録なので最低ランクになります。依頼書に設定されたランクですが、自身のランクを超えての依頼の受託はできませんので気をつけてください。」

「ありがとうございます。」

 アーリアは俺の少しあとにギルドカードをもらって嬉しそうにしていた。


 名前 リア

 年齢 16

 出身地 ラ・ミネス

 スキル 空白

 職業 空白


 同じように登録を終え、俺達は冒険者になった。

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