第17話 一人の寂しさ

ニコル「………なるほど、事情は分かりました」

ホライは自分が祠に行った時に起こったことと魔王が復活することをニコル、ヴィン、コールの3人に説明しました。

3人はホライの話を疑う事無く、真剣に聞いていました。

ヴィン「…よもやそんな事が起こっていたとはな…」

ホライ「し、信じてくれるの?こんな嘘みたいな話を…?」

コール「…魔王が復活するなんて縁起の悪い話なんか信じたくないけどよ…。お前が必死に話す姿やあのゼオって野郎を見てると嘘には聞こえないんだよな…」

ニコル「…本来根拠の無い仮説を信じるのは学者としてあるまじき行為ですが、この話ばかりは嘘だと言い切れない信憑性があります…」

魔王が復活すると聞いた3人は苦悶の表情を浮かべていました。

そんな3人の顔を見たホライは俯きながら口を開きました。

ホライ「あのさ、3人はこの話を聞かなかったことにしてもいいんだよ…?」

ヴィン「…何が言いたい」

ホライ「あいつも…ゼオも言っていたでしょ?命が惜しければこれ以上関わるなって。だから…」

ヴィン「…お前達はどうするつもりだ?このまま奴を追うつもりなのか?」

ヴィンは鋭い目をした顔をホライとロゼかまいる方角に向けました。

ホライ「…僕はゼオを追う。あいつをこれ以上野放しにしていられないよ」

ロゼ「同じく。私も魔王復活を阻止するためにホライと共に旅をするつもりだ」

ヴィンは2人から答えを聞くとため息をついて答え始めました。

ヴィン「…ホライ、お前は俺達に世界の命運をお前達に押し付けろとでも言いたいのか?」

ホライ「…!」

ヴィン「俺達はまだ出会ってからあまり時間は経っていないがここまで共に旅をして、共に強敵と戦い、共に苦難を乗り越えてきた。今更命が惜しいなら関わるな、という言葉で引き下がるわけないだろう」

ホライ「…ほ、本当に良いの?」

ヴィン「何度も言わせるな…世界が危機に瀕していると聞いて知らないふりをしていられるわけないだろう。それはニコルとコールも同じではないのか?」

ホライ「えっ!?」

ホライがニコルとコールのいる方に顔を向けると、苦悶の表情を浮かべていた二人の顔は真剣な顔になってホライを見つめていました。

ホライ「二人も…良いの?」

ニコル「ヴィンの言う通りです。それに僕は両親を助けてもらったという恩があります。僕の知識が魔王復活の阻止に役立つのならば、喜んで力を貸しますよ」

コール「なんかやけに話が大きくなっちまったな…。俺は女と宝を求めて旅をするトレジャーハンターなんだが…魔王が復活しちまったらそれどころじゃないしな。俺も付き合うぜ」

ホライ「本当!?」

ホライはそれを聞くと目に少し涙を浮かべて喜んでいました。

ホライ「ありがとうみんな!」

コール「へっ、そんなに喜ぶなって。当たり前のことだろ?」

ロゼ「ホライ、良い仲間を持ったな」

ホライ「えへへ」

ロゼに頭を撫でられたホライは落ちそうになった涙をふいて笑顔をロゼに向けました。


ヴィン「…さて、俺達は良いとして、あいつはどうするつもりなんだ?」

コール「え?まだ誰かいたのかよ?」

ホライ「…リーゼの事だね」

ホライのさっきまで浮かべていた笑顔が消えて不安な顔へと変わっていきました。

ロゼ「…リーゼもこの旅について行かせるつもりなのかい?」

ホライ「リーゼは元々姉さんを探す旅をしていたんだ。それで僕達について行けば姉さんに会えるかもしれないって思ってついてきたけど…。また今回のように攫われたり何か危険な目に会ったりしたら…」

ロゼ「…確かに、これからの旅はあまりにも危険すぎる…。このままリーゼをついて行かせてもいいものか…」

ニコル「…2人とも、ここで悩んでいるよりも早くリーゼの元へ行きましょう。私達が考えるよりも事情を説明して本人の意見を聞くのが早いはずです」

ホライ「そっか…それじゃあリーゼの所に早く行こう」

ニコルにそう言われたホライは仲間を連れてリーゼが捕えられている奥の部屋へと入っていきました。


リーゼ「…さっきまで向こうの部屋で大きな音がしていたけどなんだったのかな…。シノイっていう女の子も戻ってこないし…あの黒服の人も…。何かあったのかな…」

リーゼは牢屋越しに向こうの部屋への入口を見ていましたが、特に変わった様子はありませんでした。

リーゼ「………え?だ、誰か来る?」

リーゼは再び入口に顔を向けて耳を澄ますと、こちらに向かってくる足音が聞こえてきました。

リーゼ「あの女の子?それとも黒服の人?…違う、足音が…一人だけじゃない…?まさか…!」

「リーゼ!どこにいるの!」

リーゼ「…!」

リーゼの目線の先には、見覚えのある人達の姿がありました。

リーゼ「ホライ君!ロゼさん!ニコルさん!ヴィンさん!」

ホライ「リーゼ!!」

リーゼを見つけたホライ達は大急ぎでリーゼが入っている牢屋へと向かっていきました。

ホライ「待ってて、この牢屋を開けるから」

コール「お、それなら俺に任せな。リーゼちゃん、ちょっとその扉から離れてな」

ホライが扉をこじ開けようと手にかけると、コールがホライをのけて扉の前に立ちました。

コール「いくぜ………おらよっ!!」

コールは魔力で両腕を覆い、強化した腕で牢屋の扉を勢いよくこじ開けました。

コール「ざっとこんなもんよ。どうだいリーゼちゃん、俺の力に惚れちまったか…」

リーゼ「ホライ君!」

リーゼはカッコつけているコールの横を通りすぎ、真っ先にホライの元へ向かいました。

コール「ありゃ?」

ホライ「うわわっ、どうしたのリーゼ?」

リーゼ「ありがとう…私、ずっとこのままだと思ってて…うう…」

ホライ「ちょっと…急に泣かないでよ。それに助けに来たのは僕だけじゃないよ」

リーゼ「あっ!ご、ごめんなさい!!」

リーゼは顔を上げて、ロゼ達がいる方を向いて深々と頭を下げました。

リーゼ「こんな私を助けてくださって、本当に本当にありがとうございます…!ロゼさんにニコルさんにヴィンさんに…えーっと…」

コール「俺はコール、牢屋の扉を開けたのに思いっきりスルーされた男だ」

リーゼ「えっ!?ご、ごごごごめんなさい!!」

ヴィン「根に持つな」

自己紹介するコールの目はどこか悲しげな雰囲気を醸し出していました。

ホライ「リーゼ、この人はコールって言う人でリーゼ探しを手伝ってくれたんだ。コールがいなかったらリーゼを見つけられなかったよ」

リーゼ「そうだったのですね…。さっきは無視をしてしまってごめんなさい!」

コール「まあ…気づいてくれたんだったら良いけどさ。それにしても君がリーゼちゃんか。ホライ達から話は聞いてたけどなかなかのかわい子ちゃんだな!」

リーゼ「…!あ、ありがとうございます…」

リーゼはコールから目線をそらし、顔を赤くしていました。

コール「…これで彼氏持ちじゃなけりゃ俺がもらったんだけどな」

ホライ「え?何か言ったコール?」

コール「へっ、なんでもねえよ」

ロゼ「………」

ニコル(…ロゼから一瞬嫌な空気が流れたような…)


ホライ「ねえ、リーゼ。ここにいる間何か変なことされなかった?」

リーゼ「ううん、何もされなかった。ずっとこの牢屋に入れられたままだったよ」

ヴィン「…何もされなかったのか?尚更ゼオの目的が気になってくるな…。ん?」

ヴィンはリーゼが握っていた見覚えのない白い杖に目をつけました。

ヴィン「リーゼ、その手に持っている杖はなんだ?」

リーゼ「え?この杖ですか?」

ロゼ「おや?その杖は私達と別れる前は持っていなかったはず…」

リーゼ「この杖は…その…なんと言えばいいのでしょうか…」

リーゼはその場にいた全員に、ここで捕まっている時にローブを羽織った人が現れてこの杖をリーゼに渡してきた事を説明しました。

ホライ「その杖を渡してきた人に見覚えはないの?」

リーゼ「ううん、顔をフードで隠していたから顔も見えなかったの」

コール「そんなヤツが渡してきた杖なんてなんか怪しくないか?下手に使わない方が…」

コールはリーゼの持っていた杖を振りかざしたり回してみたりしてみましたが何かが起こることはなく、ただ時間が過ぎていくだけでした。

ロゼ「…その人はその杖について何か言っていなかったかい?」

リーゼ「あっ…確か【心を力に変える】って言っていたような…」

ホライ「心を力に…?」

ニコル「…!コール、リーゼにその杖を渡してください」

コール「え?あ、おう…」

ヴィン「…何か知っているのか?」

ニコル「…私の予想が正しければですが。リーゼ、その杖を握って強く念じてください」

リーゼ「は、はい」

リーゼはニコルに言われた通り杖を握り目を閉じて念じ始めました。

ホライ「…何も起こらないよ?」

ニコル「ならば今度はただ念じるだけでなく自分の魔力をその杖に送り込むように念じてください」

リーゼ「はい…」

リーゼがその杖を握り魔力を放出しながらもう一度強く念じ始めました。

ホライ「…あっ!杖が!」

ロゼ「いや、杖に埋め込まれている宝石が…淡く光っている…?」

リーゼ「な、何が起こっているのですか…?」

ニコル「リーゼ、そのまま念じていてください」

リーゼ「あっ、はい!」

リーゼが念じれば念じるほど杖から放たれる輝きは強くなり、辺り一面を包み込むほど大きくなりました。

コール「な、なんてでかい光だ…。目を開けるのがやっとだぜ…」

ヴィン「…ニコル、これは…」

ニコル「…はい、私の予想は間違っていなかったようです」

ホライ「え?これから何が起こる…うわあっ!?」

大きな光はさらに大きく眩く輝き始め、あっという間にリーゼ達を包み込み、部屋一面に広がっていきました。


リーゼ「………あれ?」

しばらくして光は収まり、杖は何も反応しなくなりました。

リーゼ「な…何か起きましたか?私には何も起きてないように見えますが…」

ホライ「あ」

ロゼ「ん?」

ニコル「…」

ヴィン「ほう…」

コール「お」

リーゼ「え?え?何かあったのですか…?」

ホライ「リーゼ、下…」

リーゼ「へ?」

リーゼが自分の足元を見ると、そこには雪だるまに小さな手足が生えポカーンとした顔の白い生き物がポツンと立っていました。

リーゼ「えっ…!?こ、この子は…?」

白い生き物「………」

白い生き物はしばらく辺りをきょろきょろ見回して目の前にいるホライ達の顔を見ていました。

ホライ「何…これ?」

白い生き物「あれーいないなー」

コール「い、いない?」

白い生き物「どこにいったのかなー」

白い生き物はまたきょろきょろ見回した後、何故かその場をくるくると回り始め、自分の後ろにいたリーゼの存在に気が付きました。

白い生き物「わーみつけたー」

リーゼ「へ…?きゃっ!?」

白い生き物は突然リーゼの胸元に飛び込み、小さな体で抱きついてきました。

リーゼ「ど、どうしたの急に!?」

白い生き物「わーいおねえちゃんがぼくのごしゅじんさまだー」

リーゼ「ご、ごしゅじんさま?」

白い生き物はリーゼの嬉しそうに周りを跳ねては足にひっついたり背中にしがみついたりしていました。

ニコル「…やはりそうでしたか」

リーゼ「二、ニコルさん?これってどういう意味なのですか?」

ニコル「リーゼ、あなたが貰ったその杖は【魔道幻士】と呼ばれる魔道士達が使っていた杖です」

リーゼ「魔道…幻士?」

ニコル「魔道幻士は魔力を様々なものに変化させたり新たな生命体を作り出したりすることを得意とした魔道士達です」

ホライ「えっ、そんな魔道士がいるんだ」

ヴィン「…今でこそ数は少なくなってきてるがな」

リーゼ「ニコルさん、この杖はその魔道幻士さん達が使っていた杖というわけですか?」

ニコル「はい。そして彼らは様々なものを魔力を作り上げ、ついには自身の心を正確に反映する生命体までも作り上げたのです」

ホライ「それが…この不思議な生き物なんだ」

全員がその白い生き物に視線を向ける中、注目の的となった白い生き物は何故注目されているのか分からずポカーンとした顔を傾げていました。

コール「…にしてもよ、こんな子供が10秒くらいで描いた落書きみたいなやつがリーゼちゃんの心を正確に反映した生命体なのかよ?」

リーゼ「ま、まあまあ…。きっと他の魔道幻士さん達もこの子そっくりの生き物が現れたはずですから…」

ニコル「いえ、生み出される生命体の姿は生み出した本人の性格や心情によって姿を変えるので人それぞれ違うはずです」

ホライ「…じゃあこいつはリーゼの内面を正確に具現化したものなんだ…」

ホライ達は憐れむような顔をしてリーゼを見つめていました。

コール「その杖壊れてるんじゃないのか…?リーゼちゃんの内面が具現化するなら女神のように美しい姿になってもおかしくないはずだぜ?」

リーゼ「み、皆さん!この子を見た目で判断してはいけません!この子だってきっとすごい特技の一つや二つぐらい持ち合わせ…にゃふん!?」

白い生き物はいつの間にかリーゼの頭まで登ってきており、リーゼの耳を口に入れて甘噛みをしていました。

白い生き物「なにこれーやわらかーい」

リーゼ「だ、だめ!それは食べ物じゃ…!あっ!帽子を持って行っちゃダメ!」

ニコル「…かつて魔道幻士達は心を具現化した生命体を従えて外敵から身を守っていたはずですが…」

ロゼ「…これは頼りにしていいのだろうか?」


ヴィン(…ホライ、いつになったら言うつもりだ?)

リーゼの心が生み出した白い生き物の話が続く中、ヴィンはホライにだけ聞こえるほど小さな声で話しかけてきました。

ホライ(…言いたいけど、いざとなると言いづらくて…)

ヴィン(…お前は何も事情を知らない奴を戦いに巻き込みたいのか?)

ホライ(…わかったよ…)

ホライは帽子を持っていった白い生き物をやっとの思いで捕まえたリーゼの目の前に立ち、真剣な顔でリーゼに話しかけました。

リーゼ「…ホ、ホライ君?どうしたの?」

ホライ「リーゼ、ちょっと大事な話があるんだけどさ…」

リーゼ「だ、大事な話…?」

リーゼは白い生き物を逃がさないように抱きながらホライの話に耳を傾けました。

ホライ「…リーゼは、このまま僕達について行くつもりでしょ?」

リーゼ「う、うん…。何か都合の悪いことがあったの?」

ホライ「…よく聞いててね」

ホライは自分達が旅をしている理由、そして今後の旅の事をリーゼに説明しました。

リーゼ「…つまり、これ以上私を危険な目に会わせたくないからホライ君達について行っちゃ行けないってこと…?」

ホライ「…僕はそう思ってるけど、リーゼに聞いてから決めようと思って…。どうする…?」

リーゼ「…そんなの、いや…」

ホライ「えっ…?」

リーゼ「また1人なるなんて…いや!」

そう言うリーゼの顔には一粒の涙が頬をつたっていました。

リーゼ「私…みんなの助けを待っている間とても寂しかった…。姉さんが突然旅に出ちゃって、一人ぼっちになった時と同じくらい寂しくなって…」

ロゼ「…」

リーゼ「お願いホライ君…!私も連れていって!みんなに迷惑はかけないし、自分の身は自分で守るから…!」

ホライ「…リーゼ、でも…」

ロゼ「ホライ、君らしくないよ」

ロゼは思い悩むホライの頭に優しく手を乗せながらリーゼに顔を向けました。

リーゼ「ロゼさん…?」

ロゼ「リーゼ…君の寂しさ、私にも痛いほど伝わるよ…。家族が突然いなくなる寂しさは本当に辛く苦しいものだとね…」

ホライ「…!」

ロゼは優しい微笑みを向けて話していましたが、どこか悲しそうな顔をしていました。

ロゼ「…ホライ、リーゼは君を頼りにしているんだ。君はその気持ちを無下にして、リーゼをこのまま一人にさせるつもりなのかい?君の目指す勇者はそんな事はできないはずだ」

ロゼが悲しそうな顔をしている意味を知っていたのはホライただ一人だけでした。

ロゼに諭されたホライはリーゼの手を強く握りました。

ホライ「…そうだね。リーゼ、ごめんね…。そんな気持ちだった事を知らなかったとは言えまた一人にさせようとして…」

リーゼ「ホライ君…」

ホライ「僕に任せて。どんな危険な事があっても、必ずリーゼを守ってあげるから!」

リーゼがそう言うホライの顔を見ると、自分よりも年下であるホライの顔は逞しくそして頼りがいのある顔をしていました。

リーゼ「ありがとう、ホライ君…」

リーゼは零した涙を手で拭い笑顔をホライに向けました。

ロゼ「はははっ、リーゼを守るのは君だけじゃないだろう?」

ホライ「あっ、そっか。皆もリーゼの事を守ってくれるよね?」

コール「へっ、もちろんだろ?かわい子ちゃんを守るのは男として当然だぜ」

ニコル「断る理由はありません。僕達は仲間なのですから」

ヴィン「…俺がリーゼに留守を任せなければこんな事にはならなかったからな…。罪滅ぼしを兼ねてリーゼを守るとしよう」

ホライ「えへへっありがとう!」

リーゼ「ご迷惑をおかけしますが、今後ともよろしくお願いします!」

リーゼが深くお辞儀をすると、リーゼの足元を白い生き物がつんつんとつついていました。


リーゼ「あら…?どうかしたの?」

白い生き物「ぼくもまもるー」

リーゼ「えっ…?」

白い生き物「ぼくもおねーちゃんをまもるー」

白い生き物は丸いお腹をポンと叩いてのんびりとした口調で意気込んでいました。

リーゼ「…これからとーっても危険な事が起こるかもしれないの。それでも…いいの?」

白い生き物「うんーがんばるー」

リーゼ「…うん、ありがとうね」

リーゼは白い生き物の柔らかい頭に手を乗せて優しく撫でてあげました。

リーゼ「皆さん、この子も連れていっていいでしょうか…?」

ヴィン「…そいつはお前の心を写し出した生命体。連れていけば何かの役に立つかもしれないな」

コール「そうか…?俺には到底こいつが頼りになるとは思えないけどな…。まあリーゼちゃんがどうしても、って言うなら賛成するけどな」

ホライ「連れていってもいいんじゃないかな?リーゼを守るって言ってくれてるし、きっと頼りになるはずだよ」

リーゼ「ありがとうございます!これからもよろしくね。えーっと…君って、名前を持ってるかな?」

白い生き物「なまえー?ないよー」

ホライ「生まれたのはついさっきだから、持ってるわけないか」

ニコル「今後連れていくのならば、名前が無いと不便ですね。ここで付けてしまいましょう」

ホライ「皆、なんか良い名前ない?」

ホライが仲間たちに意見を求める中、ロゼが微笑みながら口を開きました。

ロゼ「美しく、そして心優しいリーゼの心から生まれた生命…。【ヴィーナス】と言うのはどうかな?」

リーゼ「ヴィ、ヴィーナス…?」

コール「こ、こいつにそんな壮大な名前をつけるのかよ?」

ロゼ「似合うか似合わないかで名付けるのは間違っているよ。さあ、今日から君はヴィーナスだよ、いいね?」

ロゼはリーゼが両腕で抱きかかえている白い生き物に顔を向けました。

白い生き物「なすー?なすたべたーい」

ロゼ「いやいや、なすじゃなくてヴィーナスだよ?」

白い生き物「いいなす?」

ヴィン「…本人はいまいち理解していないようだな」

ロゼ「うーん…喜んでくれると思ったけれど…」

ロゼが少し困っていると、リーゼが片方の腕で白い生き物を抱きながらもう片方の腕を小さく上げていました。

ホライ「リーゼ?何かあるの?」

リーゼ「実は私…この子を見た時から名前は決めていました…」

ホライ「そうなの?」

コール「うーん…ここは俺達がとやかく言うよりも生みの親のリーゼちゃんに決めてもらった方がいいな。リーゼちゃん、どんな名前なんだ?」

リーゼ「えーっと…【ホイップ】と言うのはどうでしょうか…?」

「「「「「ホイップ?」」」」」

その場にいた全員がリーゼの提案した名前を復唱し、しばらくシーンとした空気が漂いました。

リーゼ「この子、真っ白だから…ショートケーキに乗ってるホイップクリームに見えて…。ダメですか…?」

ヴィン「…俺達に委ねるよりも、まず本人に聞いてみるのが一番じゃないのか?」

リーゼ「そ、そうですね。…ねえ、ちょっといい?」

白い生き物「?」

リーゼ「君の名前なんだけど…【ホイップ】でいいかな?」

白い生き物はそのポカーンとした顔でしばらくリーゼを見つめていました。

ホライ(ダメかな…?)

白い生き物「ほいっぷーほいっぷがいいー

きょうからぼくはほいっぷだー」

白い生き物はリーゼの腕の中で小さい手を振りながら喜んでいました。

リーゼ「良かった…!気に入ってくれたみたいです!」

コール「お、しっくりきたみたいだな」

ロゼ「ふふっ、ヴィーナスも良いと思ったけれど、ホイップも可愛らしくて良い名前だね」

ホライ「良かったね、リーゼ!」

リーゼ「うん!これからもよろしくね、ホイップ君」

ホイップ「うんーよろしくねー」

白い生き物はホイップと名付けられリーゼに抱かれながら手をぴょこぴょこ動かしていました。











サイズ「…えっへっへっ~。こんなに材料が溜まっちゃった~。これだけ溜まれば世界征服も夢じゃない…いやいや、早とちりはいけないいけない。こんなんじゃまだアレを壊すことは出来ない…。もっと強大なものが無いと…。例えば…」

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