第11話 南の地へ

ニコル「…?傷が…癒えてる…?」

ホライ「ニコル!良かった、無事だったんだね!」

ニコル「ホライ…?」

ニコルが辺りを見渡すとカルテの姿をはなく、すっかり回復したホライとロゼとヴィンだけがその場にいました。

ニコル「奴は…!?カルテはどこに…!?」

ロゼ「安心してくれ、カルテはホライが助け出したらしい」

ニコル「助け出す…?」

事情を知らないニコルにホライは今まであったことを話しました。

ニコル「カルテに…そんな事が…」

ヴィン「これでは…どっちが悪か分からないがな…」

ホライ「まあまあ、どっちが悪か正義かなんて関係ないよ。みんなを助けられたから、それでいいじゃないかな」

ロゼ「ふふっ…ホライの言う通りだな…」

ニコル「…そうですね。彼女も道を間違えていなければ…」

ニコルは今まで憎んでいたカルテに同情する自分に少し違和感を感じていました。

ヴィン「さて、ここで長話をしている場合ではないだろう?」

ニコル「そ、そうだ!ここに捕らわれている人達を助け出さねば!」

ニコル達は大広間を後にして、人々が魔道兵器を作らされている労働所まで行きました。


ホライ達が捕らわれた人達がいる労働所の扉を開くと、そこに捕らわれていた人達が一斉に扉の方に首を向け、何かされると思い怯える人や震える人、怒りの表情で睨みつける人もいました。

ホライ「みんな!怖がらないで!僕達がみんなを助けに来たよ!」

「えっ…!?も、もうあの女はいないのか?」

ホライ「うん、もういないよ。皆もう自由だよ!」

ホライからその言葉を聞いた人々は歓喜して、脱出することを忘れて喜んでいました。

「やったー!村に帰れるぞー!」

「諦めなくて良かった…」

「村で待ってるあの子達に会えるのね!」

人々が喜びを分かち合う中、ニコルは辺りを見渡して自分の両親を探していました。

ニコルが遠くに目をやると、抱き合って喜んでいる男女の姿を見つけました。

ニコル「…!!父上!母上!」

母「えっ…!?」

父「ニコル…!?ニコルなのか!?」

ニコルは大急ぎで両親の元へ駆け寄りました。

ニコル「良かった…生きていて…本当に良かった…」

父「ニコル…?まさかお前が助けに来てくれたのか…?」

ニコル「いえ…、僕だけではありません」

ニコルがホライ達の方を見ようとするとホライ達が既にニコルの側に来ていました。

ホライ「ニコル、良かったね!お父さんとお母さんに会えて!」

母「まあ…この子達がニコルのお友達…?」

ニコル「はい、この人達がいなければここまで来れませんでした」

父「そうだったのか…。君たちのおかげで多くの人々が救われた。本当に…ありがとう…君たちは私たちの英雄だ…!」

母「ニコル…あなたも頑張ったわね…」

ニコル「…は、はい!」

ホライ(えへへ…英雄か…。まずは英雄からかな?)


ホライ達は捕らわれた人達を連れ出してまずは村に住んでいた人を帰してリーゼと合流するために村へと向かいました。

村に戻ると村は再会を喜ぶ大人と子供の歓喜の声で溢れかえりました。

しかしリーゼの姿がどこにも見当たりませんでした。

ホライ「リーゼ?リーゼ!どこにいるのー!」

ロゼ「おかしいな…いったいどこに行ったんだ…?」

子供「あ…お兄ちゃん…」

リーゼを探すホライ達の前に村で親の帰りを待っていた子供が現れました。

ヴィン「…?どうかしたのか?」

子供「あの…ここにいたお姉ちゃんなんだけど…」

ホライ「え!?何か知ってるの!?」

子供「えっとね…突然ここにやって来た人がお姉ちゃんを連れてっちゃったんだ…」

ホライ「!?」

ホライ達は突然の出来事に戦慄して、その場から動けませんでした。

ホライ「だ、誰に!?誰に連れてかれたの!?教えて!」

ロゼ「ホ、ホライ!落ち着くんだ!」

子供「わわっ!く、黒い服を着て…おっきな包丁を持った人が…」

ホライ「!!」

ホライは子供が言っていた男に見覚えがありました。

まだ旅を始める前に祠で出会った黒衣の男を思い出し、ホライはあの時味わった恐怖を思い出して震えていました。

ロゼ「ホライ…?何かあったのか…?」

ホライ「…知ってる…。多分その男を見たことがある…」

ヴィン「何…?」

ホライは恐怖に怯えながら黒衣の男について他の3人に話しました。

ホライ「早くリーゼを助けないと…!ねえ、その男がどこに行ったのか分からない!?」

子供「あの…あっち…」

子供は南の方角に指を指しました。

ロゼ「あっちの方か…ホライ…行くつもりなのか…?」

ホライ「当たり前だよ!あんな奴に捕まったら…リーゼの身が危ない!!絶対に助けないと…!!」

ホライは焦った顔でロゼに答えました。

そんなホライを見たロゼはホライの頭にそっと手を置きました。

ロゼ「やはりそうか…。ならば私も君についていこう」

ホライ「ついてきてくれるの、ロゼ!?」

ロゼ「君の行くところならどこへでも…だろ?」

ホライ「…ありがとう!ロゼ!」

ホライはロゼに礼を言うと後ろにいたヴィンの方に振り返りました。

ホライ「ヴィンはどうするの?」

ヴィン「…私はもう任務を終えた身だから、すぐにでも組織に戻ろうと思っている」

ホライ「そっか…じゃあここでお別れ?」

ヴィン「…いや、そういう訳にはいかない…。最初に提案したのはリーゼとは言え、あいつをここで待たせようと言ったのは私だからな…。責任は取らなければいけない」

ホライ「じゃあヴィンも…?」

ヴィン「ああ、ついていかせてもらう」

ホライ「ありがとう!ヴィン!」

ホライはヴィンの手を両手で握って跳ねて喜びました。

ヴィン「感謝の念は分かったから落ち着け」


ホライ「ニコルは…お父さんとお母さんを助けたからここでお別れだね」

ニコル「はい…。私に聞きたいことがあったみたいですが…それは良いのですか?」

ホライ「うん、リーゼを助けてからまた港町に行ってじっくり聞くことにするよ」

ニコル「…そうですか。分かりました、その時は何でも聞いてください。あなた達の力になります」

ホライ「うん。それじゃあ元気でね、ニコル!」

ニコル「はい、あなた達には本当にお世話になりました。どうかご無事で」

ホライはニコルと別れると、ロゼとヴィンを連れて村を出て南へと向かいました。

ホライはニコルの姿が見えなくなるまで手を振り、ニコルも手を振るホライに応えてずっと手を振っていました。

ニコル「…父上、母上。港町へ戻りましょう」

母「…いいの?」

ニコル「…?」

父「ついていかなくて良いのかい?」

ニコル「え…?」

母「あの子達…まだ旅を続けるみたいだったけど…あなたはついていかなくても良かったの?」

ニコルはそう言われて俯いて少し考えました。

ニコル「私がついていっては足でまといになるだけです…。今回の戦いだって…私はホライ達の力になれませんでした」

父「そんな事は無い。ニコル、あの子達の戦いはこれから厳しくなるはずだ。その戦いに、お前の知識も必要になるはずだ…」

ニコル「父上…ですが…」

父「私達が心配だと言うのかい?安心してくれ、今度は私が母さんを守るよ。だからニコルはあの子達の力になってあげなさい」

母「お母さん達の事は気にしなくていいわ…。ニコル、心配しないで行ってきなさい」

ニコル「父上…母上…」

ニコルは押し殺していたホライ達の力になりたいという気持ちを露わにして、俯いていた顔を上げて答えました。

ニコル「…分かりました。この知識、必ずやホライ達の役に立ててきます!」

父「ああ、頑張るんだぞ…!」

母「あなたとあの子達の無事を祈っているわ…」

ニコル「…では、行ってまいります」

ニコルは村を出たホライ達を追いかけて、急ぎ足で行ってしまいました。

父「いつも本ばかり読んでいたニコルに、あんなに元気な友達が出来たとはな…」

母「私達がいなくなって…色んな事を経験したのね…」

父「災い転じて福となす、か」

母「ふふふっ…」


ニコル「皆さん!待ってください!」

ホライ「あれっ!?ニコル!どうしたの!?」

ニコル「…やはり僕も…皆さんについていきます!」

ロゼ「…!?本当に言っているのかい…?」

ニコル「…本当です。私の知識、必ずやあなた達のために役立てます」

ホライ「ニコル…。分かった、それじゃあニコルも一緒に行こう!」

ニコル「はい、これからもよろしくお願いします」

こうしてニコルも加えたホライ達は、さらわれたリーゼを助け出すために南へと足を運ぶのでした。




一方その頃、さらわれたリーゼは黒衣の男にどこかも分からない場所に連れていかれていました。

黒衣の男「…ここで待っていろ」

リーゼ「きゃっ!」

黒衣の男はリーゼを牢に入れ、逃げられないように監禁しました。

リーゼ「わ、私に何をするつもりなのですか…!?」

黒衣の男「…言っただろう。お前は奴をおびき寄せるための餌だと…」

リーゼ「奴…?奴って…いったい…?」

黒衣の男はリーゼの質問に答えず、そのままその場を立ち去っていきました。

リーゼ「ま、待って!行かないで!」

リーゼは黒衣の男に置いていかれ、1人牢の中で寂しく助けを待っていました。

リーゼ「…私これからどうなっちゃうの…?誰か…誰か助けに来て…。ホライ君…」



黒衣の男「…そこにいるんだろう」

黒衣の男が長い廊下を歩いていると、背後から何かの気配を感じました。

黒衣の男「隠れているのは分かっている、早く出てこい」

「あははっ、バレちゃった?」

黒衣の男の背後には藍色のローブを羽織った青年が立っていました。

黒衣の男「何の用だ…?サイズ。貴様を呼んだ覚えはない」

サイズ「まあそう言わないでよ。こっちから用があって来たんだからさ」

サイズという名の青年はニコニコしていた顔をムスッとさせて黒衣の男に近づきました。

サイズ「ねー聞いてよー。僕が監視していたカルテって女の子、魔道兵器の開発やめちゃったみたいなんだよ。せっかく魔道兵器が完成したら奪ってやろうと思ってたのにさー。しかもその人を倒したのはなんと子供なんだって。ほんっと嫌になっちゃうよ」

黒衣の男「…そんな下らない話をするために来たのか?」

サイズ「下らないとは失礼な!…まあ、本題はこの話じゃないんだけどねー」

黒衣の男「さっさと話せ」

サイズ「もー怖い顔しないでってば。僕の発明品の話なんだけどさー」

黒衣の男「…貴様の下らない玩具など興味はない」

サイズ「まーまーまーまー!そう言わずについてきてよ!きっと君も驚くと思うよー?」

黒衣の男「…ふん、手短にな」

サイズ「それはどうかな?すっごい物だからすぐに終わらないかもだよ。だってあれさえあれば、あれを揃える必要はないんだからさ」

黒衣の男「…」

黒衣の男はそのままサイズと共にどこかへ消え去っていきました。

黒衣の男(…サイズの話していた魔道兵器の開発を阻止した子供…。…俺が気にかけるまでもないな…)

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