第7話 魔道兵器

ホライ「あーあ…やっと着いた…」

長い船旅を終えたホライは船着場に降りると大きく体を伸ばしてあくびをしていました。

ニコル「…皆さん、ここでゆっくりしていられません。早急にこの大陸で起こっている人さらいについての情報を集めましょう」

のんびりしているホライとは正反対に、ニコルは先を急いでいました。

ロゼ「…ああ、分かった」

ニコルが先頭に立って先へ進み、それに続いてホライ達も進んでいきました。

リーゼ「…何だかニコルさん、焦っているような…」

ホライ「…きっとお父さんとお母さんを早く助け出したいからかもしれない」

リーゼ「そうなんですね…」

リーゼはどんどん先へ進んでいくニコルの背中を見て、どこか心配そうな顔をしていました。


ロゼ「ニコル、急ぐのは良いがまずはどこから行くのか決めているのかい?」

ロゼがニコルを呼び止めるとニコルは一度立ち止まって、少し考えてから口を開きました。

ニコル「…ここに船着場があるということは近くに村か町があってもおかしくありません。まずは辺りを散策して…」

ロゼ「待ってくれニコル。そんな闇雲に探したところで無駄に時間を喰うだけだ。ここは一旦船着場にあった周辺の地図を見てどこへ行くか決めよう」

ニコル「…」

ロゼ「この4人の中で正しい答えを出して、私達を導くことが出来るのは君だけだ。そんな君が何も考えず急いでいたら私たちはどうすればいい?」

ニコル「そうでしたね…すみません…」

ロゼは先を急ぐニコルを落ち着かせて、改めてどこから回るか決めることにしました。


そんなロゼを見たホライはにっこり微笑みながらロゼを見ていました。

ホライ「ロゼ、かっこいいね」

ロゼ「はははっ、何を今更言っているんだい?私がかっこいいのは元からさ」

ホライ「それもそうだけど、焦ってるニコルを止めてたのが何だかいつもよりかっこよく見えてたんだ」

ロゼはホライにそう言われると少し照れながら、ホライの頭に手を乗せました。

ロゼ「私はこの中で一番年上だ。ああやって道に外れそうになった時に正すのも年上としての役割ってわけさ」

ロゼはそう言ってホライにウインクをしました。

ホライ「えへへ。かっこいい」


ニコル達は船着場にあった周辺の地図を見て、どこで情報を集めるか考えていました。

リーゼ「ここの近くには村がひとつあるだけですね…あとは南にあるトンネルを抜けないと行けないところしか…」

ニコル「…ひとまずはこの村に行ってみましょう。もしかすると長い旅になるかもしれないので…できればここで物資を調達したいところですが…」

ホライ「そこまで人さらいの手が及んでなければいいけどね…」

ホライ達は船着場から離れた村を目的地にし船着場をあとにしました。

ロゼに諭されたとはいえ、ニコルの両親を助けたいという気持ちは収まることはなく3人よりも少し早く歩いていました。

ホライ(ニコル…)


しばらく歩いて、ようやく目的地である村に辿り着いた一行。

しかしその村には人一人姿が見えない無人の村でした。

ニコル「…」

ロゼ「遅かったか…」

リーゼ「な、なんてこと…」

人の生活音すら聞こえず、吹き抜ける風が大きく聞こえるほど静まり返った村を見た一行は驚きを隠せませんでした。

ニコル「…どうやらこの村に来ても無駄だったようですね。南のトンネルを抜けて、その先にある町で情報を集めましょう」

ニコルは足早に村を去ろうとしました。

ホライ達もニコルに続いて村を出ようとした時、ホライがこちらをじっと見つめる子供を見つけました。

「…!」

ホライ「あっ!待ってみんな!人がいる!」

ニコル「えっ!?」

その子供は見つかったことに気がつくと、そそくさと逃げていきました。

ロゼ「何だあれは…追ってみよう!」

ホライ達は逃げていく子供を追って村を駆け回りました。


リーゼ「ま、待って!私達は悪い人ではありません!」

リーゼがそう言っても子供は逃げ続け、村のはずれの方まで逃げ込んでいきました。

ホライ達は子供を追いかけていると、突然銃の発砲音が鳴り響きホライの足元に弾丸が飛んでいきました。

ホライ「うわあっ!?」

リーゼ「きゃああ!」

ホライが弾丸が飛んできた方向を見るとこちらに向けて片手銃を構えた青年が立っており、その後ろにはホライ達が追っていた子供がその青年の背に隠れていました。


「何者だお前達は…?この村に何の用だ?」

ホライ「わっ!待って!僕達は怪しい人じゃないよ!ただここで起こってる人さらい事件の情報を探してここに立ち寄っただけだよ!」

「人さらい…?何故お前達が人さらいを知っているんだ?」

ロゼ「…?君も知っているのかい?」

ホライ「…まずあんたは誰なの?」

「互いに質問しあっては埒が明かないな…。まずはお前達が何故ここにいて、何故人さらいについて知っているのか教えてくれないか?」


ホライ達は不本意ながらもその青年に自分達の知っていることを話しました。

港町で人さらいであったこと、ここでも人さらいが起こっていると聞いたことなど全てを話しました。

ホライ達が話終えると青年は構えていた銃を収めて、少し考え始めました。

「…なるほど、それなら俺の知っていることと合点が合うな…」

ニコル「…さて、今度はこちらから質問をします。あなたは誰なのですか?なぜ人さらいが起こった村に子供と一緒にいるのですか?」

ニコルその青年に焦り気味に詰め寄りました。

そんなニコルを青年は突き放し、淡々と質問に答えていきました。

「…俺の名はヴィン。とある組織の任務で人さらいが起こっている大陸の調査を進めている」

ホライ「組織?任務?」

ヴィン「その事はあまり表に言うことは出来ない。だがお前達と敵対するような組織ではないから安心しろ」

ニコル「…調査、と言いましたよね?あなたは人さらいについて何か情報を持っているのですか?」

ヴィン「ああ、さらわれた人々が捕まっている場所、人をさらった目的などの情報は手に入れている」

ニコルはヴィンの答えに誰よりも早く反応し、その情報を得ようとヴィンに食らいつくように迫っていきました。


ニコル「その情報を教えてください!今すぐにでもさらわれた人達を助け出さねばなりません!」

ヴィン「…そう急かさずとも教えてやる」

ニコルとは正反対にもの動じぬ態度でヴィンはその場にいた全員に自分の情報を説明しました。

ヴィン「まずさらわれた人々が捕らわれている場所…ここから北西の方角に位置する遺跡だ」

ホライ「遺跡…?なんでまたそんな所に?」

ヴィン「ああ、その理由は人々をさらった目的にある」

ヴィンは再び自分の情報を説明しました。


ヴィン「その遺跡には古代の魔道士たちが魔力で作り上げたいわゆる【魔道兵器】について記された記録と、魔道士たちがその地に遺した魔法の力が眠っている場所だ」

リーゼ「ま、魔道兵器…!?」

リーゼはその名を聞いて震え上がりました。

ホライ「リーゼ、何か知ってるの?」

リーゼ「は、はい…その昔魔王がこの世界を支配していた時代に魔道士たちが魔王に対抗しようとして造り上げた兵器です…」

ロゼ「魔王に対抗するために造り上げた兵器の記録…まさか人をさらった目的は…」

ロゼは人さらいの裏に隠された陰謀を察し、恐る恐るヴィンの方を見つめました。

ヴィン「察しの通り、やつらはさらった人々を酷使して魔道兵器を復活させるつもりだ」

ホライ「え…!?魔王に対抗するために造った兵器なんでしょ!?そんなものが復活したら…」

ヴィン「…もはや立ち向かう手段は無いに等しい」


世界を揺るがそうとする陰謀を前にその場にいた全員が凍りつきました。

ヴィン「俺もこの事実を知った時は遺跡に向かおうとした、だが村に残った子供たちが気がかりでな…」

ホライ「そうだったんだ…でも安心して、僕達が代わりに村の人達を助けて魔道兵器の復活を阻止してくるよ!」

ホライ達はヴィンに子供たちを任せて、さらわれた人々が捕らわれている遺跡へ急いで向かおうとしました。

そんなホライ達を止めるかのようにリーゼが突然立ち止まりました。

ホライ「リーゼ…?どうしたの?」

リーゼ「あの…ここは私が残ります!」

ホライ「えっ!?」

リーゼ「わ、私がヴィンさんの代わりに子供たちのお世話をします!」

リーゼの突然の提案にホライ達は驚き、リーゼに詰め寄りました。

ホライ「リーゼ!?なんで急に…」

リーゼ「だって…魔道兵器が眠る遺跡に行くんでしょ…?そんな危険な所に行ったら私…ホライ君達の足でまといになっちゃうんじゃないかな…」

リーゼは少し下を向きながらか細く話しました。

ホライ「大丈夫だって!ちゃんと僕達が守るから…」

ヴィン「そこの女性の言う通りだな」

いつの間にかヴィンがホライ達のそばまで来ており、リーゼの話を全て聞いていたようです。


ヴィン「敵がどんな奴かは分からないが、魔道兵器を復活させようとしているならそれ相応の魔力は持ち合わせているはずだ。そんな危険な所に連れて行ってもその女性の言う通り足でまといになりかねないな」

ホライ「…」

ロゼ「ホライ、ここは一刻を争う。今はこんな所で悩んでいる場合ではないんだ」

ホライ「…うん、分かったよ。リーゼ、子供たちをお願いね…」

リーゼ「うん」

ホライはヴィンとロゼの話を聞き入れ、ヴィンを仲間に加えてリーゼをこの村に残すことにしました。


リーゼ「皆さん頑張ってください!私はここで皆さんが帰ってくるのを信じて待っています!」

ホライ「うん、必ず戻ってくるから!」


こうしてヴィンを仲間に加えた一行は、魔道兵器の復活を阻止するため魔道士たちの遺跡へと向かっていったのでした。

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