第6話 家族

港町にさらわれた町の人達を返したホライ達。

しかし向こうの大陸では奴隷として連れていかれた人達がまだ捕えられており、ニコルの両親もまだ捕まったままでした。

ホライ達は姉を探して旅をする魔道士のリーゼを仲間に加え、捕まった人達を助けるため向こうの大陸へと向かいました。


ホライ「ねえ、あと何分くらいで着くかな?」

ホライは船室で退屈そうに寝そべっていました。

ニコル「この船の速度から考えると、あと30分はかかるでしょう」

ホライ「えー30分もかかるのー?退屈だなー…」

ロゼ「そうただをこねないでくれ。さっきの戦いの疲れを癒すために今のうちに休んでおこう」

ホライ「帰りの船で十分疲れは取れたよ…」

ロゼ「ふふふっ、子供は元気だな」

寝そべったホライはそこら中を寝転がりまだかまだかと待ち続けました。

ホライ「あれ?そう言えばリーゼは?」

ホライは起き上がり部屋を見渡しましたが、リーゼは船室にはいませんでした。

ロゼ「リーゼなら、外で景色を見てくると言って甲板に行ったが…」

ホライ「そっかー…」

ホライは横にしていた体を起こし、外に出ようとしました。

ロゼ「待て、ホライ。どこに行くつもりだい?」

ホライ「え?リーゼと話をしようかなって思って…」

ロゼ「…そ、そうか」

ホライ(どうしたんだろ?まあいいや)

ホライは何故ロゼが自分を呼び止めたのか分からずにいましたが、すぐに船室から出ていきました。

ロゼ「…いや、さすがにまだ会ってから間もないからそこまで関係は進まないか…。いやここは念の為止めた方が良かったか…?」

ニコル(何をあんなに真剣に悩んでいるのでしょうか…気のせいか嫌な雰囲気が…)


ホライは海を眺めているリーゼを見つけ、そばに寄って話しかけました。

ホライ「何やってるの?」

リーゼ「あ、ホライさん…」

ホライ「【さん】は付けなくていいよ」

リーゼ「え?で、でも一度助けてもらった恩があるので…」

ホライ「まあまあそんな固い事言わないでさ。これから一緒に旅をしていくんだから、もっと気軽に行こうよ」

リーゼ「…」

そう言われたリーゼは少し躊躇いながら口を開きました。

リーゼ「じゃ、じゃあ…ホライ君って呼んでもいいかな…?」

ホライ「うん、よろしくね!」

リーゼ「えへへ…」

リーゼは恥ずかしがりながらもホライの笑顔につられて小さく笑いました。


ホライ「こうして見てみると、海の景色って綺麗だなー」

リーゼ「そうだね…とっても綺麗…」

リーゼがそう言うとホライは突然リーゼの顔を覗き込みました。

リーゼ「わ、私の顔に何か付いてるの…?」

ホライ「ううん、何だか寂しそうな顔してるなって。もしかして海に何か嫌な思い出でもあるの?」

リーゼ「ち、違うの。こうして海を見てると、姉さんと船に乗った時を思い出しちゃって…」

ホライ「姉さんって、行方不明の?」

リーゼ「うん」

リーゼは海の更に遠くを見ながら自分の姉の話をホライにしました。

リーゼ「私がまだちっちゃかった頃に、よく姉さんと一緒に船に乗って遠くまでお買い物をしに行ったの」

ホライ「うんうん」

リーゼ「私が迷子にならないように姉さんが手を繋いでくれたり、姉さんと一緒に飛んできたカモメさんにご飯をあげたり、重たい買い物袋を姉さんと協力して運んだり、とにかく船には姉さんとの思い出がいっぱいあるの」

そう語るリーゼの顔は思い出を懐かしみつつもどこか寂しそうな顔をしていました。


ホライ「そうなんだ。何だか羨ましいなー」

リーゼ「羨ましい?」

ホライ「うん、兄さんや姉さんがいたら、そんな楽しそうな思い出ができるんだって思って羨ましくなってきたよ」

リーゼ「じゃあ、ホライ君は一人っ子なんだ…」

ホライ「うーん分からないや」

リーゼ「分からない?」

ホライがそう答えると、今度はリーゼがホライの顔を覗き込みました。

ホライ「実はさ、僕孤児なんだ」

リーゼ「え!?」

ホライ「まあ正確には記憶喪失の孤児なんだけどね」

リーゼ「き、記憶喪失!?」

ホライ「うん、4歳の頃に故郷の近くにある森に捨てられてたんだ。偶然通りかかったロゼが拾ってくれたけど、覚えてたのは名前だけで親の名前も顔もどこから来たかも分からないし、第一に家族が生きてるかも分からないんだ」

リーゼ「…」

ホライが喋る度にリーゼは罪悪感に駆られ、頭を徐々に下げていきました。

リーゼ「…ごめんね。なんだか、辛いこと思い出させちゃって…」

ホライ「気にしないで。全然辛くなんかないよ」

リーゼ「でも…寂しくないの?家族がいなくて…」

ホライ「寂しくなんかないってば。家族がいなくても僕には一緒に旅をする仲間がいる。仲間がいれば寂しくなんかないよ」

リーゼ「そっか…」

リーゼはこの時もしも自分に家族がいなかったらと考えてしまい、自分が寂しくなってしまいました。

ホライ「…リーゼ、こっち見て」

リーゼ「え…?」

リーゼがホライの方に顔を向けると、突然がホライがリーゼの顔の前で大きく手を叩いてきました。

リーゼ「ひゃっ!?」

ホライ「えへへ…気分が沈む話はもうおしまい!これから旅をしていくんだからもっと気楽に、笑顔で行こうよ!」

リーゼ「…」

ホライ「大丈夫だって!世界中を回れば、きっとリーゼは姉さんと会えるよ!それにもしかしたら僕の家族にも会えるかもしれないしさ!そんなに寂しい顔しないでってば!」

ホライの言葉には特に根拠は無いことは、リーゼは分かっていました。

しかしリーゼはそんなホライの元気な笑顔を見て、不思議と自分にも元気が湧いてきました。

リーゼ「…うん!みんながいるから…笑顔、忘れない!」


ホライとリーゼは笑顔のまま、互いの顔を見つめあっていました。

そんな2人をロゼは船室の窓からじっと見ていました。

ロゼ(ふふっ…もうあんなに打ち解けているとはな…恐ろしい子だ、ホライは…)

ニコル「さ、さっきから何で笑っているのですか…?」

ロゼ「いや…何でもないさ…。リーゼ…少し警戒しておく必要があるな…」

ニコル(…あまりよろしくない感じがするのは気のせいでしょうか…)

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