第5話 まだ終わらない

ニコル「さあ、早く捕えられた住人達の居場所まで案内してください」

頭領「は、はい…わかりました…」

ホライ達は目を覚ました盗賊の頭領にさっそく町の住人達が監禁された牢屋へ案内させました。

先程の戦いでボロボロになり、両手を縛られた頭領はもはや逆らう気さえ起こらず、ニコル達に大人しく従っていました。


頭領「ここです…」

頭領は地下にあった牢屋までニコル達を連れていき、持っていた鍵で牢屋を開けました。

ホライ「町のみんな!もう大丈夫だよ!」

「え、出られるの…?」

ロゼ「もう盗賊達は人をさらったりしないと言っている。安心してくれ。」

「や、やったー!自由だー!」

捕えられていた町の人達の顔に笑顔が戻り、手を上げて喜んだりする者や神様を仰ぐ者など、各々で喜びを表現していました。


ホライ「良かった!これで一件落着だね!」

ニコル「…」

ホライが安心する中、ニコルただ1人が妙に落ち着いていました。

そしてニコルは神妙な顔で頭領に尋ねました。

ニコル「…僕の父上と母上はどこにいるのですか?」

頭領「は、はい?」

ニコル「僕の父上と母上はどこにいると聞いているのですが」

頭領「お、おかしいなー…もう既に脱出しているのでは…」

ニコル「言え!父上と母上はどこだ!?」

ニコルは怒りながら頭領の胸ぐらを掴みあげました。

ロゼ「ニ、ニコル!落ち着くんだ!」

頭領「ひいいぃっ!?たたた多分、こことは別の場所に連れていかれたんだと思います!!」

ニコル「別の場所…?別の場所とはどこだ!」

頭領「む、向こうの大陸です!向こうの大陸でも人さらいが起こっていて、ここでさらった人やあっちの大陸の人を連れていって奴隷のように働かせる場所があるんです!きっとあなたの両親はそこに連れていかれて…」

ホライ「嘘!?ほかの大陸でも人さらいが起こってるの!?」

ニコル「…くっ」

ニコルは落ち着きを取り戻し、胸ぐらを掴んでいた手を離しました。

ニコル「まだ…終わらないのか…」


ホライ達は捕えられていた人達を行きで使った盗賊達の船に乗せて、港町に向けて出発しました。

ニコルは一人沈んだ顔で、静かに向こうの大陸を見ていました。

そんなニコルを見たホライとロゼはニコルに声をかけました。

ロゼ「ニコル…向こうの大陸に行くつもりかい?」

ニコル「はい…」

ホライ「それなら僕達も協力するよ!一緒にお父さんとお母さんを助けよう!」

ニコル「…お気持ちはありがたいのですが、これは僕の問題です。今度こそ関係ないあなた達を巻き込むわけには…」

ホライ「関係無くないよ!」

ニコルが何かを言おうとしたのをホライが止めました。

ホライ「あっちで捕えられてるのはニコル先生のお父さんとお母さんだけじゃないよ!きっとまだ港町の人があっちに連れていかれてるかもしれないし…あっちの大陸の人達もさらわれてるに違いない!こんなことを知って、そのままに出来ないよ!」

ニコル「ですが…」

ホライ「勇者を目指すものとして、困ってる人は放っておけない!」

ホライはあの時と同じく、真剣な眼差しでニコルを見つめました。

ロゼ「ニコル、こうなったホライは誰にも止められないぞ」

ニコル「…」

ロゼ「私からも頼みたい。私もあんな状況になっていると知って黙っているわけにはいかないんだ。ふふっ、ホライの勇気が伝染したかな?」

ニコル「…ありがとうございます。これからも僕に力を貸してください…!」

ニコルはホライ達に目に涙を浮かべ、深く礼をしました。

ニコル「そう言えば…あなた達は確か私に聞きたいことがあって訪ねたのですよね?それについてはいいのですか?」

ホライ「あ、それは事が落ち着いたらでいいよ」


「あの…ちょっといいですか?」

話が終わったホライ達の前にきのこのような帽子をかぶった白い服の女性が現れました。

ホライ「え?何ですか?」

「もしかして、あなた達が捕えられていた私達を助けてくれた方達ですか?」

ホライ「うん、そうだよ」

「わあ!本当ですか!私、助けてくれたことを改めてお礼を言いたくて…」

ロゼ「いや、お礼なんて結構さ。困っている人達を助けるのは当たり前のこと。特に、君のように美しい女性はね」

ロゼは髪をなびかせながら女性に話しかけました。

「え、えーっと…言っている意味はよく分かりませんが…とにかく、助けてくれてありがとうございました!」

女性はロゼの口説きを流し、深くお辞儀をして礼を言いました。


ニコル「…ところで、あなたはどちら様ですか?港町では見かけない人のようですが…」

「ご、ごめんなさい!申し遅れました!

私は行方不明になった姉を探して旅をしている魔道士リーゼと申します!」

女性はリーゼと名乗り、もう一度深くお辞儀をしました。

ニコル「旅をしている…つまり旅の途中でここに立ち寄った際に盗賊達に捕まってしまったという事ですね?」

リーゼ「は、はい!その通りです!」

ホライ「ありゃ…運が無いなあ…」

ホライの言葉にリーゼは苦笑いをしました。


そしてすぐにかしこまった顔をしてホライ達にお願いをしました。

リーゼ「あの…先程の話を聞いていたのですが…まだ捕えられた人達を助けるため向こうの大陸に行くつもりなんですよね?」

ホライ「そうだけど…それがどうかしたの?」

リーゼ「…その旅、私もついていっていいでしょうか?」

ホライ「え!?」

あまりに突然の申し出に3人は驚いていました。

リーゼ「さっき話した通り、私は姉さんを探して旅をしているのです…

もしかしたら姉さんも人さらいにあって捕まっているのかなと思って…」

ロゼ「なるほど…でも私達の旅はとても危険なものになる。そんな旅に君のようなか弱い女性を連れていくことはできない…」

ニコル「これ以上関係の無い人を巻き込むわけにはいきません。悪いですが港町で私達の帰りを待っていてください」

ロゼとニコルはリーゼの申し出を申し訳なく断りました。

それでもリーゼはうろたえながらも引き下がることなくお願いをしてきました。

リーゼ「で、でも…私、少しくらいなら回復魔法を使えるので…足でまといには…」

ホライ「別についていってもいいよ!」

リーゼがまごまごしながら喋っていると、ホライが笑顔でその申し出を了承しました。

ロゼ「ホライ!?何を言っているんだ!?私達の旅は危険なものになるんだぞ!」

ニコル(…?何か別のことに焦っているように見えますが…気のせい…?)

ロゼはホライに詰め寄りますが、ホライはそんなロゼを落ち着かせて自分の考えを言います。

ホライ「確かに僕達についていったら危険なことがふりかかるかもしれないよ?でも女の人が一人で旅をするなんてそっちの方がよっぽど危険だと思うんだ」

ロゼ「確かにそうだが…」

ホライ「どうせ危険な旅になるなら、僕らについていった方がいいんじゃないかな?もし危険にさらされても僕達が守ってあげようよ、ロゼ」

ニコル「…確かにホライの言うことも一理ありますね。女性の一人旅は何が起こるか分からないし、いざという時に守ってくれる人がいないのも不安です」

ホライの提案にニコルも賛成しました。

ロゼ「…分かった、君がそこまで言うのなら仕方がない…」

ロゼもホライの提案に仕方なく賛成しました。

リーゼ「じゃ、じゃあついていってもいいのですか?」

ホライ「うん、いいよ。これからもよろしくね、リーゼ!」

リーゼ「あ、ありがとうございます!こちらこそよろしくお願いします!」

リーゼはまた深々とお辞儀をしてホライ達に礼を言いました。


リーゼを旅の仲間に加えたホライ達は今度は向こうの大陸へ行き、ニコルの両親とさらわれた人達を助けるため旅立つのでした。


一方その頃

頭領「ま、待ってくれ!俺はあんたの言う通りにして町のヤツらをさらったんだぞ!」

「でもあなたは私が課した命令をこなすことは出来なかった、その事には変わりないわ」

頭領「だ、だってよお!しょうがねえだろ!あのガキ共めちゃくちゃ強いんだぜ!バカでかい光を出す魔法を使ってきやがるんだ!あんなの喰らったら、たとえあんたでもひとたまりも…」

「その口を閉じなさい。使命を果たせなかった上に他の大陸での人さらいをしている情報まで漏らした、あなたのような役たたずはもういらない。ここで消えてもらうわ」

「なっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!もう一度チャンスをくれ!今度は別の場所で人をさらってくるからよ!」

「見苦しい言い訳はもう聞きたくないわ。使命を果たせなかったものに次はない、あなたが手を組んだところはそう言うところなのよ」

頭領「た、頼む!お願いだ!もう一度チャンスを…」

「さよなら…」


「…光の魔法を使う子供…いったい何者なのかしら。」

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