第2話 暗躍する影
某国国防省長官室、ドア越しに一人の将校が至急の報を伝えるため立ち入りを求めノックをする。室内からは何ら返答も返ってこない。将校は、逸る気持ちを抑えきれずドアノブに手をかける。
「長官、至急の報告のため入室の許可をお願いします。」
ドアに施錠はされておらず開く。
「失礼します。」
将校は、室内に入るとすぐに異変に気付いた。長官が重厚な椅子にもたれかかり、眉間をレイザー用の武器で撃ち抜かれ絶命していたからだ。
「長官、長官〜。誰か。誰か来てくれ。」
と絶叫するが、誰も駆け付け来ない。駆け付けられない。このフロアーにいたすべての幹部職員が同じく絶命しているからだ。
将校は、訳も分からずただ立ち尽くす。手に握っていた報告書が床に落ちたことも気付かないまま。
[極秘 Z研究所消滅 研究者消息不明 反物質・物質の強制指向兵器化計画絶望的]
報告書にはそう書かれていた。
Z研究所消滅跡地の上空1万メートル、ジェット機が航行する高度である。そこに龍人族とカブトムシ人型生命体の5人の守護者が任務を終えて見下ろしていた。
「まだ、人間には早すぎる実験でしたね。“奴ら”を取り逃がしてしまったのは痛かったですが破滅を未然に防げましたね。」
カブトムシ型生命体の守護者が、チームの長である龍人族の守護者に語りかけた。
「核ミサイルなど地表の者共には危険だが、俺達には影響はない。だが反物質は違う。あれは星そのものを壊しかねない。それに指向性を持たせる実験など危険きわまりない。道徳もなく野蛮な人間共には10万年早い。こんなものは早めに摘んでおくに限る。」
「“奴ら”は、こんな危険なものを未熟な人間に与えるなど何を考えているのやら。」
「これで人間共も知ったでしょう。どうなるかを」
「ガーディアンに帰るぞ。」
それぞれに魔法陣が現れ、沈むように消えいく。それのいた眼下には、広大なえぐれた地表が広がっていた。
孝太郎と凛は、和歌山にある妻の静香の実家を訪ねていた。昔ながらの築100年を超える旧家でよく手入れされた広い庭がある。車を駐車場に入れると玄関先には、70歳になる妻の両親が出迎えてくれた。
「待ってたんよ。最近、顔も見せんで心配してたんよ。今晩は、美味しいごはんを準備ちゃるからゆっくりして行ってよ。」
お母さんが、労わるように話しかけてきた。
「お父さん、お母さん、長い間お伺いもせず申し訳ありません。」
孝太郎は、2人に頭を下げる。
「難しい話しは、後にして早よう中に入ってよ。さあ早く、早く。」
孝太郎は、凛を車椅子に乗ると義父母に促されるまま車椅子を押し、家の中に入って行った。義父母は、凛が右手と右足が使えないと知っており、テーブルを準備して、暖かな家庭料理を並べてくれていた。そして客間に孝太郎と凛のベッドも備えていてくた。
みんなで一緒に夕食を食べ、何気ない最近の話題で盛り上がった。その後、孝太郎が、凛を浴室に連れていきシャワーで洗いながしたあと着替えさせた。凛は、浴室で身体を洗われることに恥ずかしい様子であったが父親であり身体が動かないので仕方なかった。そして凛をベッドに寝かせると、孝太郎は、先ほどのテーブルに向かった。
「お父さん、お母さんに相談があります。静香の事で教えていただきたいことがあります。」
孝太郎は、真剣な眼差しで義父母を見つめた。すると義父が、昔を思い出すような遠い目をしながら語り始めた。
「もう3年になるのか。孝太郎くんも静香がいなくなったあと凛の事も含めよくやってくれたと感謝しているんよ。」
「静香は、きっと生きているんよ。だけど今、帰って来れないところにいるんよ。」
「どうしてそう思うのですか。」
孝太郎は、聞き返す。
「実は、静香は、自分達の本当の子供ではないんよ。妻がなかなか子供が出来なくてね。近くの神社に願掛けを妻がしていてね。その神社の境内に静香が捨てられていてね。静香を見たこれが、一目で静香に愛情を感じてしまって、方々駆け回って苦労して養子にしたんよ。最初見たときから不思議な子でね。首に翠色の淡い神々しい光りを放つネックレスを下げていてね。今、凛が、首に下げているあのネックレス。」
「小学生の頃には、何度か突然いなくなることがあってね。でも半日もするとあの神社の境内で見つかるんだ。」
「だから今度を突然帰ってくるものだと思っているんよ。」
孝太郎は、義父の話しを聞くと意を決したように本題の相談を話し始めた。
「お父さん、お母さん、実は、静香はこの世界の人ではなかったのではないかと思っています。」
「とんでもない事を言っているのは充分に分かっています。でも静香が失踪してから3年間必死に調べてみました。」
「結論から言うと静香は、別の世界の人間で、凛の病気の原因もそれに関係すると思っています。」
「私は、凛を救いたいんです。」
「もしかしたらお父さん、お母さんに会えなくなるかもしれません。今日は、お詫びと報告で寄らせてもらいました。」
「明日、先ほど話に上がった神社に凛と2人で行ってきます。もしかしたら帰ってこないかもしれません。よろしくお願いします。」
そう言うと立ち上がり、義父母に深々と頭を下げた。
凛は、ベッドに横たわっていた。父が祖父母と何やら相談事をしてることに気づいていた。多分、自分の事を話しているなと。
「ルナ、いるんでしょ。」
凛は、小さな声でルナを呼んだ。
「うん、いるよ。ここの家なんだか懐かしい匂いがするね。良いところだね。」
「お母さんの家なの。」
「だからだね。とっても気持ちがいい。」
ルナは、深い深呼吸をする。そして、ブルっと身体を震わせる。
「ルナ、これからどうなるのかな?」
「きっと大丈夫さ。」
「どうして言い切れるの?」
「僕がいるから。」
「もう、ルナっら。冗談ばっかり言って。」
胸を張るルナ。バカばっかりとルナの額を左手の人差し指でちょんと弾く。
ルナは、額を押さえて凛を上目遣いで抗議する。その姿が愛らしい。
「お母さん大丈夫かな?」
凛は、そっと呟いた。
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