11度目の大災
ゆきぐも
第1話 プロローグ
アガルタ神国は、神樹を守護し幾億年の月日をかけ地球(星)の管理をしている。神樹は、半径10キロメートルの虹の光を放つ光体で星の本体、生命の母と呼ばれている。神樹に仕える宗都テラが東西南北に4都浮かんでおり、その上空に半径100キロメートルの球体状に造られ首都ガーディアンが神樹と宗都テラを守護している。
宗都テラには、神樹の神官と巫女が仕え神樹の啓示を授かり神国を導いている。首都ガーディアンは、幾億年の月日と数千種の宇宙の民の知識から生み出されテクノロジーによる荘厳でいて種を護るシステムが構築された都市であり、数千種の種族が共存し守護者の任を務めている。
そして星の内殻に沿って、数千の小都市が形成され、星の内部にありながら豊潤で各都市独特の文化で繁栄し、アガルタ神国を構成している。
アガルタ神国とて誕生してから今まで平穏に繁栄してきた訳ではなく、10の大災と100の小災と呼ばれる動乱を経て、今の1000年の平安を迎えている。
今、アガルタ神国に暗い影が忍び寄っている。11度目の大災に誘おうとする影である。
「月夜の道を開け。ここに闇を導きテラを砕け。」
黒の闇を纏った男は、唱える。闇の魔法陣が現れ、北の宗都テラの一角が爆発し砕け散る。不敵な笑みを浮かべる男。
「母なる星よ、癒しの光を」
巫女は唱える。光の魔法陣が包み込み、一瞬に元の姿に治す。
「これで終わりと思うな。俺たちは、神樹を滅ぼし、神樹の呪縛から解放される。我らの主は我らと共にある。また会おう。」
男の足下に魔法陣が浮かび、男は吸い込まれ消える。
首都ガーディアンでも数10箇所で爆発や騒動が起こったが、守護者によりすべて鎮圧された。だが実行者はその場で絶命していた。逃げ切れなかった者は自ら爆死していた。自らの脳から情報が漏れないように。
巫女は、膝をつき祈りを捧げる。
「神樹のご加護を」
「守護者の長は、宗都テラに集まりなさい。至急今後のことを検討する。」
そして、至急の招集を命じた。
望月凛は、肩下まである黒髪を後ろでゴム紐で束ねた品のある美少女である。原因がわからない病気で入院し、今日で15歳の誕生日を病院の個室で迎えていた。発症したのは半年前で、最初は走っていて転ぶことが増えた程度だった。しだいに右足に痺れが出て右足を引きずって歩くようになった。今では右手に力が入らず利き手の右手で日記が書けなくなった。
このまま死んでしまうのではないかと不安に思うこともあるが、どこか楽観視しているところもあった。
それには凛だけの秘密があった。
父の望月孝太郎は、日本人の平均身長より少し高めの少し痩せている40歳になる医師である。
娘の凛は、孝太郎に残された命に代えても守りたい大事な一人娘である。3年前、突然失踪した妻の静香との間に生まれた忘れ形見なのだ。
最愛の妻の静香が失踪し、どこにいるのか全く分からない今、娘の凛まで失うことは孝太郎にとって死刑判決に等しく到底耐えられるものではない。
孝太郎は、凛の病気が発症してから今日まで寝る間も惜しんで治療方法を探していた。だがこれまで全く分からなかった。それが昨夜、ひょんなことからヒントが見つかったのだった。孝太郎は、それに全てを賭ける決心をした。娘の凛が、動けなくなる前に。
孝太郎は、娘の凛の病室にいた。凛の左手を両手で握ると祈るように呼びかけた。
「凛...、ここを出ないか...。お前の病は、ここでは治らない。絶対にお父さんが治してみせるから。」
凛は、振り向き微笑んでゆっくり頷いた。
そして...「お父さんを信じてる。生きたい」と...。
その夜、凛のベッドの上で飛び跳ねる手の平より小さな妖精。
うっすらと翠色のオーラを身にまとい、背中の羽根を羽ばたかせながら嬉しそうに飛び跳ねている。
「こら、ルナ、静かにしなさい。」
凛は、はしゃぐ妖精を優しく叱りつける。
「凛、なんで怒るの?凛は、嬉しくないの?ルナ、とっても嬉しい。」
ルナと呼ばれた妖精は、一向に止めようとしない。
「ルナ、ここ病院だよ。うるさいて叱られるから、ねぇ、やめてよ。」
ルナは、ぷくっと頬を膨らませ、はしゃぐのを止め、腕組をして冗談ぽく怒った振りを見せる。
「こら、ルナ。何でルナが怒るの。逆ギレ
はダメ。」
凛は、優しく諭す。
「凛、僕が凛のお父さんにこうなるよう仕向けたんだよ。僕のおかげさ。だから褒めて、褒めて。」
と甘える声で、凛の左手の中指を両手でつかむと上下に揺らす。
「もうー、ルナったら。」
凛は、そんなルナに呆れ顔で優しく、そして、
「ありがとう。ルナ。」
とお礼を言い、ルナのつかんでいる中指を左右に動かす。
「キャッ、こら凛、やめて。」
「急に動かすと危ないじゃん。凛の方がとっても大きいんだから、もうー。」
ルナは、凛に苦情を言う。
凛は、そんなルナに「ごめん」といたずらっぽく謝り、窓に顔を向ける。
カーテンの隙間から見える都会の光、遠くから聞こえる救急車のサイレンの響き。
「私はここから出られる。新しい世界が待っている。お母さんにも会えるかしれない。」
凛は、そっと呟き覚悟を決める。
「きっと…。」
高層マンションから見える広がる光の道、宝石のように煌めく都会の街並み。
孝太郎は、一人書斎で古い書物を読み更けると、ふっと溜め息をつき、
「もう、これしか道はないか。」
と呟くと立ち上がり、リビングに向かう。
広いリビングには、アンティーク調のテーブル、その上には、家族3人の写真が入った木枠の写真立てが一つ。高級感あふれる室内に一人はもの悲しさが漂う。
「あれから3年か...。」
孝太郎は、写真立てを右手で持ちジッと見つめ、写真に写る、美しく品のある女性に向け
「俺は、どうすればいい。」
「娘を、凛を救いたい。」
願うように呟いた。
あの日から1週間、孝太郎は、勤めていた帝王病院に辞表を出し、自宅の高層マンションを売却し、売れるものは全て売り、大切な思い出の品と本は、奈良にある実家に送った。
当然、病院側は、孝太郎が退職することを引き止めた。
「望月君、なぜ辞めるのか。君の患者を見捨てるのか。君は、この病院の宝であり、国の宝なんだよ。わかっているのか。」
と理事長は、辞表を取り下げるよう叱りつけた。
孝太郎は、難しい手術を幾度となく成功に導き、画期的な新薬の開発にも携わっている有能な医師であり、将来を期待されていた。
「すみません。私の我儘を許して下さい。」
と頭を下げた。
孝太郎の意思は固く、深い覚悟を決めていた。全てを投げ打ってでも護りたいものがあった。 孝太郎は、娘の退院手続きを終えると、鞄1つの娘の荷物を肩に掛け、娘の車椅子を押し前に歩き始めた。
「凛、行こう。きっと治してみせる。」
そう言うと、覚悟の表情を見せた。
凛は、澄み渡る青空を見上げ、「うん」と希望に満ちた返事を返していた。
凛と孝太郎の数奇な物語が始まる。
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