第13話

 食事スペースに着くと、昨日と同じように様々なインテリアが互いに主張を繰り返しており、人の数も昨日と同じく、数える程でもなくあまり多いとはいえないような人数しかいない。

 今日も俺は昨日と同じの席に座り、ポテトを摘みながら持ってきているラノベを開いている。

 ホンに視線を落としながらポテトを摘もうと箱に手を伸ばすと、スカッとポテトどころか箱にも当たることなく宙を掻いた。

 「……ん?」

 視線をホンから放すと、相席に当たる前を見る。

 「茜か」

 これもまた昨日と同じように茜が箱を手にポテトを食べていた。

 「おう。ポテト貰ってるからな」

 これもまた昨日と同じセリフだ。

 だが決定的に違うところがある。それは声に覇気がないことだ。

 やはり昨日のことを未だに気にしているのだろう。

 「うん。それはいいけどさ。これ、忘れてたよ・・・・・

 俺はここぞというタイミングで鞄から青が特徴な輪のアクセサリー、ブレスレッドを取り出し、見せた。

 「は? それ……」

 ブレスレッドを見た茜は驚きを隠せないでいる。

 それもそうだろう。

 ブレスレッドは奪われたもので、茜のことをいじめる主班グループの誰かが持っているはず物だからだ。

 「また嵌めてくれる?」

 「お前が許してくれるんだったらな」

 半ば強制な言い方だが、茜は俺の差し出した手から受け取って、慣れない笑顔を浮かべ腕を撫で、嵌めてくれた。

 「ありがとなッ」

 茜は先程までの、悲嘆に暮れたものではなく、喜びと嬉しさに溢れた潤む双眸をうかがわせてくる。

 「もうこれからは簡単に外さないでよね? それじゃあ早く食べて学校にいこっか」

 「おうッ」

 大事そうにブレスレッドを拭くように撫で、口許を綻ばせる。

 自然と揺れる前髪が心の感情を表しているのかと思うほど、先程まで沈んでいた気分を表すように額に張り付くように固まっていたのだが、今はそれの真反対を表すように、柔らかく、そして繊細に自由な動きで踊っている。

 俺も茜のように口許を綻ばせると、箱の空いていない方のポテトに手を伸ばした。

     *

 「ったく。気にイラねーんだよ」

 ここで一人、復讐者が声を出した。

 そう。ただの復讐者。虚面を被り愚者を演じ人と成る復讐者が。

 「なんで……なんでよりにもよってあいつが茜のなんだよ」

 恨めしそうに視線を向ける先には、元根大輝がいた。

 爪を噛み、爪を噛み、爪を噛む。

 ただただその矛先を自信に向ける如く、爪を噛む。

 「まだ熟してないからね。今、手を出したり素チャったらボクの我慢が無駄になっちゃうからね」

 そして噛み千切った。

 爪の剥がれた親指からは赤く、艶かしさを漂わせるような艶のある真っ赤な汁を垂らし、鼻腔に鉄の不快なにおいを漂わせる。

 「あーあ。君のせいで爪、剥がれちゃったよ」

 ニヤリ。

 顔に酷笑を浮かべると、ハイライトをより輝かせた。

 「復讐内容に加算しなきゃねぇ!」

 虚ろな双眸を酷く歪め、哄笑する。

 「ハハハハハハ、ハハハ……ハハ」

 余韻を楽しんでいるのか、壊れた機械のように途切れ途切れに声を漏らす。

 ――カリッカリッ。

 今度は人差し指の爪を噛みだし、後爪郭こうそうぶに薄く淀んだ色痕を付ける。

 「もう、ホントにさ。これ以上イライラさせないでくれよ、大輝ぃ」

 カリッカリッカリッと薄暗い部屋に音を響かせた。

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