第8話

 授業が始まり、内容は滞りなく進んでいる。

 そう、俺以外は。

 「はーい。ここまででわからない人はいますかー?」

 髪を後ろで小さく纏め、いかにもベテラン風を吹かすような六角のメガネを着けて女教師の先生が補助のために説明を促してくる。

 もちろん全くと言ってもいいはずの俺は手を上げる。

 「先生、全く理解が出来ないだけど、どうすればいいと思う?」

 「······え? あ、はい······え?」

 先生の手からチョークが落ちてしまう。

 落ちたチョークは砕け、数個の白い欠片と、少しの粉が地面に散らばり、甲高い音を立てた。

 その音で先生は調子を取り戻したのか、こちらをじっと見つめてくる。

 「まさか元根くん。勉強する気になったんですか!?」

 ずかずかと嬉々な表情で近づいてくる。

 教師にとってはきっと不真面目な人が勉強をするきになっただけでも嬉しい事なのだろう。

 「これかな? それともこっち? それか、こっちかな?」

 はしゃぐ子供の様に、俺の横に来ては、教科書を見せ、様々な問題を指で示す。

 周りの皆はただそれを口を大きく開け呆然と眺め、完全にノートを写す手が止まっている。

 「先生、少し落ち着いて。後でこいつに聞きますから」

 「あ、あら、そう。なら伊賀くん。よろしくね」

 咳払いをし、先生は乱れた前髪を整えながら教卓に戻っていく。周りもただそれを見送り、普通に戻る。

 「はい。では授業に戻ります」

 先程のように崩れた口調などは戻り、先生は黒板に新しいチョークを走らせる。

 底に書かれている内容は、当たり前だが一切と理解が出来ず、ただ外を見つめる事しか出来ない。

 「……ん? あれは」

 外を見てみれば、体育の授業なのか、体操服を着て運動している多数いる。

 その中でも目立つ、周りを寄せ付けない者がいた。

 「茜は相変らずだな」

 長い髪を一つにまとめ、ボールをただひたすらに地面に打ちつけ、ゴールへと投げている。

 バスケだ。

 茜の周りに必死に食らい付こうとする彼女たちは、彼女の圧倒的なまである身長の前では誰もなす術なしにゴールを決めていく。

 

 だが彼女は笑わない。

 

 いや、笑えない。

 

 誰も味方はいないから。

 

 誰かが言った。正義の味方は誰でも助けると。


 「……そんなの、アニメの世界だけだよな」

 相手チームがボールを取って試合が始まったのを見ると、俺も授業に熱を込める。

     *

 ――――キーンコーンカーンコーン。

 「はい。では本日の授業はここまで。全員担任が来るまで教室でまつこと。では以上、学級委員!」

 「はい! きりーつ、きょーつけ……礼!」

 平凡を演じるように周りにあわせ席を立ち、周りにあわせて礼をする。

 顔を上げると、影夜こちらをニヤニヤした顔で見てきていた。

 「なんだよ」

 「いーや? 何も」

 「ならいいんだが」

 後ろにいる鍵山のほうに体を動かすと、鍵山もニヤニヤと笑っている。

 「なんだよお前まで」

 「いーや? 何も? でござるよ」

 「……はぁ」

 ようやく五時間目まで授業が終わり、後は帰るだけになった。

 周りの皆んなはそれぞれ席を立ち歩き、ある者は同姓の友達、ある者は彼女の元へと、皆様々な目的で休み時間を消費している。

 校庭を見てみると、人はおらず、体育の授業で使うと思われる機材も全て片付けられ、一時間目に茜がやっていたバスケなどの情景が懐かしく感じてしまう。

 「やっぱし俺の身長が低いんじゃないよな。茜が高い、んだよ、な……」

 俺は日々気にしていることがある。それは身長だ。

 他のカップルどもは彼女にヒールを履かせたりなどをしても、同じか、彼氏の方がちょいと上回っているなど、彼女よりも圧倒的に慎重が高い。

 だが俺の場合は茜が普通の靴を履いているときも、俺よりも身長が高く、姉のような存在の様に覚えてしまうときが稀に起こってしまうなど、自分の身長を低いと思ってしまうことがあるのだ。

 すると横槍を入れるように机の上に突然と腕を置かれた。

 見上げてみれば、鍵山がおり、自分の身長を自慢するように背伸びまでしている。

 「大輝殿。認めるのだ、自分の身長が低い事を」

 「う、嘘だぁ! ……っていうと思ったか? この戯け」

 「ははっ。大輝、そうでもないぞ? この俺から見れば関城さんの身長は低いし、お前の身長はもっと低い」

 「まあ高身長さんから言わせれば世の中そんなもんですよね」

 俺を取り囲むように、朝のような慣れた配置に俺、鍵山、伊賀がついた。

 伊賀の身長は180台前半で、俺の身長である165を優に越えており、茜の172も超えてしまっている。それだけでもうらやましい限りだが、座高も高く、どうしても優等生に見え、その上顔もよいときた。まるで俺の敵を完璧の再現したような姿だ。

 そんな風に授業の話などとは全く関係ないただくだらない談笑をしていると、重い音を立てて開いた扉から入ってきた盾山が来た途端、二人とも静かになり席に戻る。それどころか、他の話していた生徒たちも足早に席に戻っていく。

 「はい、では全員が席に座ったことなので、帰りのホームルームを始めます。日直!」

 その言葉で日直がたち、いつもの様に腑抜けた合図をし、帰りのホームルームが始まった。

     *

 「きりーつ、きょーつけ……礼!」

 『ありがとうございましたー』

 その言葉で今日の学校での過程が全て終わった。

 だがそれを拒むように、先生がこちらを向いてくる。

 「元根くん。後で職員室に来るように」

 「え? ……なんでさ。まあいいけど……」

 先生は俺の返答を聞くと、大きなため息を吐いて出席簿を持って外に出て行く。

 「おいおい大輝、お前何したんだよ」

 「俺が何かやらかすほどのことが出来るほどの勇気があると思う?」

 「そりゃ違いねぇな。それじゃあやっぱし関城さんが何かされた・・・とかか?」

 「――ッああ。多分、だけどな」

 伊賀は茜のことをよく見て、誤解なしで友好的に接してくる俺の大事な友達だ。

 茜は見た目と口調、そして運動神経からよく不良だのヤンキーだのと影で言われ妬まれ、そしていじめられている。

 だからこそ伊賀のようなしっかりとした理解者は茜お環境を変えてくれるかの清華あるからありがたい。

 「んじゃ彼氏の務め、果たしてきますわ」

 「おう。俺は先に帰るからよ、帰りはラブラブチュッチュでイチャイチャしろよな?」

 「あいつがそんなことさせてくれないの、分かってるだろお前」

 俺は小さく伊賀に手を振ると、指示された職員室に向った。

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