第7話
さすられるように体が優しく左右に揺らされ、心地よいまどろみが遠ざかり、無音から何か声が聞こえてきた。
「……輝。……大輝……起きろ大輝!」
「んうぉ!? 何奴!」
「お前が何奴だ。もうすぐ授業が始まるから準備くらいしとけよ?」
「んぁ、ああ」
俺を起こしてくれたのは、どうやら伊賀だったようだ。
伊賀は俺が起きた事を確認すると、捻っていた背を戻し、自分の席にしっかりと座った。
俺と話すときや、休み時間などはいつもふざけたような態度を取っているが、授業となると眉目秀麗の役目を果たすかのようにしっかりと勤め、テストになればクラストップの成績を収める秀才っぷりを発揮するまるで主人公のような人物だ。
今も机に向って教科書を開いており、ノートとは別の勉強用のノートを使い勉強をしているまでの真面目ちゃんだ。
「影夜ー。次って何?」
「ん? 古典」
夏休み前に入れておいた机の中のものは一切と変わっておらず、パンパンに詰まっており、殆どの教科が机の中のものだけで乗り切れそうなまでの教科書が溢れんばかり入っていた。
机を倒さぬようにゆっくりと教科書を引き出すと、古典の教科書があり、少し漁ってみるとノートも見つかり、早くも暇になってしまった。
「……偶には影夜みたく勉強でもしてみるか」
ほんの気まぐれが人生を突き動かすというし、たまには悪くないだろう。
ためしに教科書を開いてみると、習った内容のはずなのに、全くと理解が出来ない。
特に現代語訳に直すことすら出来ない。
こんなに難しかったっけ?
そんな疑問が頭をよぎる。
そして同時に焦りも感じてきた。
「やばい。勉強せなアカン」
「やっと気付いた? 大輝」
俺の声が聞こえたのか、小馬鹿にするように煽ってくる。
ギシギシという音を立てると、影夜が椅子を倒してこちらを見て、教科書の問題を見てまたしても煽るように鼻で笑ってくる。
「これは……うん。これはマジでヤバイな。中学からありなおしたほうが良いんじゃね?」
「なぁ。これってもしかして中学で習うやつ?」
「うん。習うやつ」
「まったく覚えがないな」
「なら中学の教科書でも家で漁ってみれば?」
冗談じみたことを言ってくるが、本当に走したほうが良さそうな気もする。
「冗談だぞ?」
「本気にした俺のお前を信じる良心を返せ」
「んじゃそろそろ、ってか先生来たからまた休み時間にな」
「ん? おう」
考えに没頭していたせいか、先生が来ていたことに気付かなかったらしく、先生は教卓にたち、今日使うであろう教材を整理していた。
俺も影夜に習い、先程まで出していた散らかっている教科書などを閉じ、重ねて隅っこに置く。
そして。
――――キーンコーンカーンコーン。
鐘の音を合図とし、授業が始まった。
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