第6話

 校門前に着くと、電車の中のようなバラバラな色の制服ではなく、黒という純色がメインの制服で固められている。

 「そういえば衣替えだったな」

 思い出したように呟くと、茜の方を見る。

 今まで気づかなかったが、しっかりと夏服を着ており、暑苦しそうな長袖ではなく、二の腕中腹までしかない、腕を上げれば色々とちらリズムの期待できそうな、俺のような紳士変態には煽情的なまである端整な装いだ。

 「……ッああ。そうだな」

 何故顔をしかめたか。そんなの自身の評判を理解している俺は聞くことをしない。

 俺はデブで不潔だからと。茜は本当はボランティアすら快く受け入れる無垢な娘のはずが、スラリとした風骨なせいで嫉妬をされ、鋭い目つきから不良だというでまかせな情報を流され周りから虐げられているのだ。

 そんな二人組みが同時にとぷこうしてきたら、その場の空気が悪くなるのも当たり前だろう。

 耳を澄ませば聞こえてくる。

 『何で学校来てんだよ』

 『それな! とっとと帰れって』

 『てかあいつ、体だけはいいよな』

 様々な誹謗や恥辱、嗤笑ししょうが飛び交っている。

 あたりに広がる見世物の目、それを押し入るように歩く無関係を装い関係を持たんとする弱者。

 「夏休みが輝きすぎたんだよ。すこし我慢すればまたいつもの様になれるから。早く行こ?」

 「……ああ」

 俺の場合は自分で改善をしようとしたら出来てしまうぬ徐くナのだが、茜は違う。さの体で生まれてしまったらもうきっと俺の比にならないくらい、俺と比べることすらおこがましく覚えるくらい苦しんでいるだろう。

 そう思うと、自然とてに入れる力が強くなってしまう。

 「……大輝」

 「ん?」

 強く握りすぎてしまったかと心配し、急いで振り向く。

 すると。

 「はっ放せ!」

 轟き空気を覚えさせるほどの大声が俺の鼓膜を刺激し、腹部に衝撃が走った。

 「ッグ、フゥ」

 痛みを減らすと腹に力をこめるが、そらすらも容易に衝撃が貫き、膝が肥えた腹に突き立てられる。

 「お、おれなにかした?」

 苦痛で歪みそうになる表情筋を堪え、歪ではあるが、顔を緩め笑みを浮かべる。

 「お前の手が暑苦しーんだよ! てか離れろ!」

章付き合っていくしか出来ない身体的特徴だ。

 先ほどの膝蹴りあやりすぎたと認識しているのか、ふくらはぎを優しくつつく程度に蹴りを入れてくる。

 「で、デブなんだからしかたがないでしょ」

 「そんな言い訳は聞かない! 早く行くよ!」

 蹲ったせいで体から離れ増したに伸びるネクタイをグイグイと無遠慮に引っ張っていく。

 「わ、わかったから! 自分で歩くから放してくれ!」

 「ならさっさといくぞ!」

 荒れた言葉遣いで解放されたネクタイは、踊るように俺の顔の元に飛び、顔に張り付く。

 「あっ、まってよ」

 慌てて視界をふさぐネクタイを剥がすと、いつものように察そうと前を歩いていく茜の艶のある長い黒髪を追いかけて走った。



 俺は教室のある三階に着くと、茜に手を振る。

 「それじゃあまた放課後ね。迎えにいるからまっててねー!」

 「ああ。それじゃあ放課後な」

 茜は軽く手を翻らすと、そのまま隣にあるクラスに入っていった。

 ずっと一緒に居れないから最悪なのか、授業に集中できるから幸いなのか、何故か去年は一緒だったはずのクラスが当たり前だが、今年になったら別々になってしまった。

 「まあ仲が良すぎる人とはクラスを分けるって言うと、当たり前って言えば当たり前か」

 茜の姿が見えなくなると、俺も教室に入る。

 「……」

 クラスに入った途端、先ほどまで外に聞こえるまで流れていた陽気な声は全て消え、敵意の視線がクラスを飛び交う。

 進む足を戸惑わせるが、慣れればそこまで苦にはならない。

 「お、大輝殿! おはようでござる! 早速で悪いが今期のアニメ、見たでござるか」

 ため息をつくとした直ぐ、視線を散らせるような声がしんとした教室に響く。

 「おうござる。その質問、俺には愚問だぜ?」

 鍵山 守子かぎやま すね、通称ござる。俺の高校で初めて出来た友達と呼べる人だ。

 ござるは周りから腫れ物扱いされる俺に気安く放しかけ、俺の趣味であるアニメの話をしてきてくれたのだ。それ以上に、ござるの周りにいれば、オタク友達が群がるように寄り、高校生活をあまり苦難なく乗り越えられるような環境を作ってくれた人間だ。

 そんなござるは、俺が隣にある自分の席に着くと、ごそごそとバックを弄りだした。

 「ん? なんか特典でも当たったのか?」

 いつも決まった周期で当たり前のように自慢をするために見せ付けてくる。

 それはどれもこれも俺が欲しいものばかりで、俺の趣味を熟知していないと出来ない嫌がらせのため、実際のところは表では嫌がるふりをし、内面では嬉しかったりする。

 「ああ、そうでござるよ! 今日は……これでござる!」

 出してきたのは、レコードのようなでかい正方形の箱だ。

 レコードのように細くはなく、普通のラノベぐらいの厚さがある、掴みやすそうな箱だ。

 「で、これは?」

 「良くぞ聞いてくれた! これは今月限定はもちろん、20個という少ない個数の数量限定、某雑誌限定の特典なのだよ! あ、これ前期の○○でござる」

 「説明口調でありがとうって今回は今までにないくらいの幸運なんじゃないか? というか○○って俺が絶賛したお勧めおアニメじゃん! くそ、なんで気づかなかったんだ……っ」

 アニメはもちろん、ラノベも全巻コンプでコミカライズも現在までに出ているものは全て集めた、俺の中では最優良の部類にはいる作品だ。それの限定特典を見逃すとは盲点。気づかなかった自分を殴り飛ばしたい。

 ……あれ? 気づかなかったってことは今の自分、殴り飛ばせるんじゃ?

 「ってなに考えてんだよ俺は!」

 「どうしたでござるか? 朝から息子の野獣化は少々飛ばしすぎだと忠告を入れたいのでござるが」

 「あぁ。余計な心配ありがとう。今自分を殴り飛ばしたいって思っただけだよ」

 すると突然、横槍の様に引き気味な声が流れてきた。

 「大輝、お前がMだったとはな……」

 「そう思うか?」

 そこまで気にしていないことなので適当に流す。

 声の持つ主は俺の前の席にいる伊賀 影夜いが かげやだ。

 背もたれを支えにするように軟体生物のように背を曲げてこちらに顔を向けている。

 笑うように口を笑みを浮かべると、ふざけたように言ってくる。

 「いや? まったく」

 「なら言うなよ。今度は俺がお前Mだっていう偽情報を学校中に流してやろうか?」

 「いいよ。やってみれば?」

 「た、大輝殿はそんなことをしないでござるよな? ですよな!」

 慌てて止めに入ってくる。

 焦った顔を浮かべる鍵山に手をかがして静止させると、ポケットからスマホを取り出す。

 目的はもちろんタイムラインでの拡散だ。クラスの誰かが何か面白い内容の情報を乗っければ、次の日にはクラス中に広まるという驚異の拡散力のあるものだ。

 「これがなにか、わかるよな?」

 脅しの様に聞いてみる。

 だが先ほどからの余裕そうな笑みは一切と崩さずに、逆に面白がっているようにも見えてくる。

 投稿をしようとボタンを押そうとした瞬間、突然と伊賀は鼻で笑い、少しのためを作った後、口を開く。

 「別に止めはしないけどさ、お前にその情報を共有したりできる登録されてる友達いんの? いてもふざけてお前がMだっていう記事に摩り替わりそうだけど? それでもやるの?」

 「と、友達ぐらいいるぞ! ……親以外は10人もいないけど」

 「ほら、やっぱりな」

 高笑いをしながら俺の手からスマホを抜き取り、操作をする。

 きっと先ほどの投稿内容を消しているのだろう。

 伊賀影夜は食えない奴である。好きにっもなれなければ、嫌にもなれない。

 普段は俺で遊ぶが、何かあったときには助け、よく分からない奴だ。

 「ほらよ」

 返されたスマホを見てみると、やはりやり返しのように何か変なものを載っけたりなどはなく、先ほど書いた内容が綺麗さっぱり消されていただけだ。

 これだから本当に否めなければ、強く言う事もできない。

 そんな俺の友達だ。

 そんなこんなでアニメの話や、ゲームの話、はたまた声優の話など、趣味の話に没頭していると、ホームルームの始まる合図の鐘が天井や黒板の左右の上についているマイクから流れた。

 

 ――キーンコーンカーンコーン。

 

 聞きなれたフレーズの音がなり終わると、ドアが開かれ、制服とは違うスーツを来た大人が入ってきた。

 「はい。ではホームルームを始めます。学級委員、あいさつを」

 いかにも仕事できますよアピールをしている風にしか見えない四角のフレームをしたメガネをつけてなれたように口を動かす俺たちの教師、盾山 亜貴だてやま あきが教卓に着いた。

 「きりーつ、気をつけ……礼」

 学級委員の人の掛け声とともに礼をする。

 椅子を引く音や、お決まりの如く話し始める声などが、一瞬教室を占める。

 だが直ぐに先生の怒声で席を立ったままで話をしていた生徒たちはシュンとなり、ぐったりと席に座り、全体もそれにあわせ静かになった。

 「はい、ではホームルームに移ります。今日の重要なことは……」

 一つため息をつくと、頬杖をつき外を眺める。

 退屈なときは一番窓側で一番後ろから一つ前という絶妙な席はありがたいと思う。

 外には今日の夢で見た鬼ごっこやサッカーなどをやっている者は一切いず、ただ稀に風が砂を巻き上げたりと、特に不思議なことは起こらない。

 「元根ー」

 突然と名前を呼ばれ視線を戻すと、先生が怪訝な視線をこちらに向けながら出席簿になにか書き込んでいた。

 きっと出席確認なのだろう。

 別にこれといって目立ちたいわけでも、何か突っかかることもないので、普通に答える。

 「はい」

 一言返事をすると、あきれたようにため息をつき、次の人の名前を呼んで行く。

 「……寝るか」

 起きていても無駄だと判断し、両腕を枕に机に突っ伏す。

 窓からは未だに元気にミーンミーンミーンとセミの鳴き声が聞こえてくる。

 その音の場所を探るように意識を集中させると、機械的に生徒たちの名前を呼ぶ先生の声は一切と消え、セミの音も消えた。

 朦朧とする意識を光のない黒に行くために手放し、眠りに着いた。

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