コスプレの闇とかなんとかを抱きしめながら_序章_03
「ねえ、さっきからあたしばっかり話してない!? カメコさん問題も色々あるでしょ?」
「……そうだな」
モモがエクスに振っては見たものの、特に話を始める感じではなかった。
「ちょっとー。あるでしょ!?」
「あるな」
「目をつぶらされて足で何かさせられちゃった話とか、写っちゃマズイ物が写っちゃたから写真を渡せ渡さないでネットを介して揉めた人達の話のとかあるでしょ?」
そんな話あるんだ。
ネット怖い。
「あったらしいな」
「で、どうなの? 真相はどうだったの!?」
「本当にあったんじゃないのか?」
「……それで終わり!?」
「気になるなら本人に聞けば良い」
「聞く訳ないでしょ!?」
モモが騒ぎ出す。
こんな感じだけど、エクスとモモは仲が良い。
良いように思える。
誰に対してもフラットな感じのエクスだが、モモとは何故か良く一緒にいる。
てっきり付き合っているのかと思ったらそうでもないらしい。
謎だ。
この二人とは普段でも一緒にご飯を食べに行ったりする事があり、俺は友達だと思っている。
そう言いながらも、モモ以上にエクスが俺と仲良くしてくれるのが本当に不思議だ。
自分で会社を立ち上げているらしく、噂だとかなりのお金持ち。
実際カメラ機材とかバンバン買ってる話を聞く。
見た目は背が高く、顔も端正と言われる部類で、鼻筋がスッキリした涼しい目なんて男の俺も惚れ惚れする。
スラリとしているのに実は細マッチョという位に筋肉質。
お金持ちで容姿も良い、完璧超人と呼ばれる部類の人だな。
さりげなく会話に出てくる著名人の名前などから、芸能界やゲーム業界にもツテがあるように思える。
いつも冷静、冷たいくらいの印象だけど何故か俺とは仲良くしてれる。
実は蒼井イツジという本名も教えてもらった。
たまに二人でいる時にはイッちゃんと呼んでしまう事もあるが、基本はコスネームで呼んでいる。
それこそ、有名レイヤーにも知り合いは多いだろうし、他に特技もない俺と付き合うメリットがあるとは思えないのだが……。
しいて言えば、コスについての考え方だろうか。
エクスは写真を作品的に残したいように見える。
原作に出てきそうな一瞬の場面としての昇華。
コスは完全に趣味なんだろう。
男女、作品、ジャンルに関係なく、気に入ったらトコトン突き詰めていく感じだ。
俺の、『コスは作品ありき』という考え方と、その部分が合致して話が合ったのかも知れない。
とはいえ、流石に気になって『何故俺と仲良くしてくれるのか』と聞いた事がある。
いつも適当な返事だが、一度だけ適当じゃない時があった。
『お前の衣装は買えないんだろ?』
意味が解らなかったので聞いてみたが、結局どういう事なのか教えてはくれなかった。
「何か欲しい衣装があるならいいよ。エクスには世話になっているし、作る?」
「いや、いい」
「どっちなんだよ」
こう言っちゃなんだが、エクスのためなら喜んで作ってくれる人なんて大勢いるだろう。
俺よりレベルが高い人も大勢いる。
本当に不思議だ。
ブー、ブー、ブー、ブー……
不意に振動音が聞こえた。
「すまん、ちょっと席外す」
エクスの携帯だったらしい、そのまま部屋から出て行ってしまった。
「ワザワザ外に行くって仕事の話なのか……」
「で、実際のところどうなの!?」
俺が言葉を言い終わる前に、モモが目の前に迫って来た。
「え、どうって?」
「何があったの、ひじりちゃんと?」
「いや、だからさっき話した通りで……」
「本当に? 二人っきりだったんでしょ? しかも衣装作ってたんなら薄着だったんじゃない?」
「え? いや……」
「あたし、衣装やってる時はマッパで作るし」
鋭い。
流石は自作レイヤー。
俺も作っている最中、実際に着て確かめる方が早いのもあって、薄着、酷い時は真っ裸でやっている。
何度も着脱するのが面倒になってしまうからだ。
「いや、今回はほら……造形部分だし」
「ふ~ん。でも、衣装に着ける時に身体触ったりしたんでしょ?」
「それは……まあ、必要な個所は……」
「で、大丈夫だったの?」
「だ、大丈夫って!?」
「押さえきれない衝動とか、月夜に目覚めるなんとか、あるでしょ!?」
なんだそれは。
「いや、だって衣装作るんだし。邪なのは良くない。うん、良くないよ」
「本当に?」
「う、うん。本当に」
我慢していたのは本当だ。
必要以上には触れなかった!
……ハズだ。
「……じゃあ、試してみよっか」
「え?」
「それで大丈夫なら信じてあげる」
「え、何を言って……」
フワっと鼻をくすぐる甘い香り。
気が付けばモモに抱きつかれていた。
「!!!」
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