Welcome to Underground(囁き声)_01

ちょっと下世話な話をしよう。


コスプレをする事で異性と出会う事ができるのか?


結論からすれば何処の世界でも同じ、『できる人もいる』が正解なのではないだろうか。


ただ闇雲に声をかけるよりは、出会いの切っ掛けの一つとして有効なのかも知れない。


魔法使いの俺が言っても説得力が無いと思うが。


実際のところレイヤーの男性人口は少ない。


さらに言ってしまえば、撮って欲しいレイヤーに対し、カメラマンは足りていないように見える。


そこに需要があるかは本人次第だろうけど、その比率の分チャンスはあるのかもしれない。


だから出会い目当てな人もいると思う。


ソコに目をつけたのかは解らないけど、以前出会いの方法の一つとしてゴシップ雑誌にコスプレが取り沙汰された事もあった。


アレって本当なのか気になったので聞いてみる事にした。


モモが『あ~……』っていう顔をしながら答える。


「変なメッセージならあたしんとこにも来たよ。同じ文面で友達にも来てた。内容はかなり雑だけど、レイヤーは若い子も多いし、承認欲求の強い人も多いから引っかかる人もいるんじゃない?」


「本当にくるんだ」


元々そういう事をしていた怪しい業者なのか、その雑誌が切っ掛けかは解らないけど、成功するはずが無いとあきらめず、実際に行動するマメさは大事なのかもしれない。


誉められる内容ではないけど。


「普通に考えたらオカシイって思うだろうけど、企業とかの公式レイヤーっていうのをステイタスにしている人もいるから、効果はあるのかもね」


「なるほど、公式レイヤーって言われると、なんだか凄そうだしね」


「でも企業も良く雇うよね、レイヤーなんて素人な上に、メンヘラ率高いのに。ちゃんと仕事としてやってくれるか保証がない訳でしょ?」


流石はモモ、ズバズバ言うなー。


とりあえず自分なりに思いつく答えを考えて見た。


「そのへんはお金の問題じゃないの? レイヤーの方がプロを雇うより安いんだろうし」


「それがそうでもないらしい、もらってる人は結構もらってる」


こういった事には興味がないのかと思っていたエクスが口をはさんできた。


業界にもツテがある彼が言うなら本当なのかもしれない。


「お金を惜しまないなら、ちゃんとしたモデル雇えばいいのにね。衣装も企業側で用意するんでしょ? プロ意識とか責任感もあるし、なにより事務所が保証してくれるんだろうし」


コスモデルをしているモモがそんな事を言うのかと思わなくもないが、思うところが色々あるのかもしれない。


「まあな。だが、ちゃんとしてる人も多いし、仕事が認められて継続してるという場合も多い。なにより、キャラの理解が早い事が利点なのかもしれない」


「そっか、求められる動き、ポーズの意味、そのあたりの理解が早いって事か」


お、納得したのか。


「でも明らかにそうでない人もいるじゃん。キャラに関係なく同じ角度、同じ表情で写る人」


やはり何か思うところがあったらしい。


「いや、まあ、そういうのは……ねえ、エクスさん?」


エクスは否定も肯定もせず黙って聞いていた。


うむ、今まさに学級会状態ってヤツだな。


「なのに雇われるって場合は立場を利用して囲う人がいるって事?」


「囲う……」


そんなの物語だけでしか聞いた事がなかったけど、実際にあるのか。


実際に……


「あ」


「ん?」


あった。


昔の出来事。


今になってアレはそうだったのではという事を思い出し、思わず声が出てしまった。


「いや……だいぶ昔の話だし、囲うかどうかは知らないけど、レイヤーの知人から業界に入りたがってるレイヤーの女の子がいたら紹介してって言われた事はあった」


「なにそれ」


「なんか、業界の人と飲み会するから、興味がある子がいたら連れってあげるよとか。俺が行きたいっていったらスルーされた。今思うとアレってそういう飲み会だったのかな」


「そういうのならあたしもある。レイヤーの子から業界関係者と合コンあるから女の子を集めてって言われた」


「行ったの?」


「行かない。そもそも合コンとか行きたくない。なんで知らない人と飲みに行かないといけないの?」


いや、飲みに行く理由は人それぞれだと思うのでなんとも。


「それに、その時は誘ってきた子が『自分がのし上がるために関係者へ生贄を捧げます』感が強かったから余計に行きたくなかった」


「うわー……。それは確かに怖いね」


「好きな声優に会せるって言ったらどうする?」


エクスがまた無表情で言った。


いや、ちょっと意地悪な顔になってる気がする。


「ぐ……やぶさかではない」


「なんだよ!? 意志薄弱かよ!」


思わずツッコミを入れてしまう。


モモの顔が明後日を向いていく。


「や……やぶさかではない」


そうは言いつつ、モモは行かない気がする。


なんだかんだ、芯は通っている子だ。


……通っているよな?


「いい訳っぽいけど」


「ん?」


目を反らしていたモモが視線を戻しながら言う。


「出会い目的みたいなのは嫌だけど、単純に好きな作品を作っている人とかだったなら興味はあるよ。好きな作品の話を聞けたら嬉しいだろうし」


確かに。


俺はまさにそんな感じで行きたいといったらスルーされた訳だし。


「『関係者に会う』は仕事やお金絡みになるだろうし、単なるファン心理もあるだろうからわかる。けど、ただフォロワーやリツイート稼ぎのために何でもやる人は本当に理解できない。そういう人はただ有名になりたいからなの?」


お、矛先を変えてきたな。


まあ、俺もさっき話を変えようとしたし、ここは乗っておこう。


「なんでだろうね。『有名になって何かをしたい』という訳じゃない人って事だよね」


確かに、そういう人の目的ってなんだろう。


「まさに、ただ『有名になりたい』だけなのかもな。わざわざフォロワーを買ってる人もいるらしいし」


「え!? 買ってどうするの?」


「フォロワー数が多い方が人目につく。目的がある場合の話になるが、企業でもフォロワー数を目安に考えるとこがあるらしい。有名になる足がかりとして、宣伝活動の一環としては有効かもしれないな」


そういえば、つい最近でも声優さんですらフォロワー数で仕事が決まる場合があるという話が出ていた。


「じゃあ、そういう宣伝的な物じゃない人の場合は?」


「それこそ人によるだろう。そうだな……、自分は人に注目をされている人間だと周りに認識させるための具体的な目に見える数字、何より自分でもその実感を得るための数字」


「でも買った物なんでしょ? 実際には注目されてる訳じゃないんじゃない?」


「だからこその足掛かり。数字で判断する人達を取り込んでいくための切っ掛け」


この人はフォロワー数が多い、有名な人なんだ、人がいっぱい見るくらいなんだから何かあるのだろうって認識する人達を取り込む切っ掛け。


そんなところなのだろうか。


「本当にわかんない。自尊心の満足を得るためとか、フォロワ数=自分を認めている人数っていう考えの人が多いって事? もし本当にそうなら承認欲求って凄い言葉だよね……」


エクスは淡々と続ける。


「ツイッター、いやネットは魔物だ。それまで普通だった人が急に有名になった気になれる。自分が何かを言うと反応が起こりRTという数字で反映される。自分は人に影響を与えられる人間だ、人に注目される人間だ。そう考える人達が生まれやすい環境なんだと思う」


確かに。


俺みたいに無名な存在でさえ、RT数やフォロワー数っていう数字が増えいく事で反響があったという認識になる時がある。


フォロワー数が増えた事が原因かは知らないけど、急に言動が変わった人を見た事があった。


いや、急では無かったかもしれないけど、段々と『物を申す人』『格言風な事を言う人』になっていった。


もしそうなのだとしたら自信というのは恐ろしい。


「だったら、コスプレはその最たる例なんじゃない? 文字通り変わった恰好で目につきやすい訳でしょ。元の作品が凄いんだっていうのに、それに乗っかっているのを忘れて偉そうにする人いるし」


それも確かに。


会った頃は『●●が好きなんです! ■■さんの●●コス最高、本物です!』と作品やキャラを語ったり、コスを誉めてくれたりと初々しかった人が、いつの間にか『私、このまえ有名レイヤーの▲▲さんと併せしたんですよ……』と作品やキャラよりも、有名レイヤーさんとの人間関係を語る人になっていた事もある。


あまつさえ、その有名レイヤーと言う人の名前は聞いた事もなかったりする。


そもそも有名レイヤーってなんだ? って話なんだろうけど。



「コスプレしてイベントに参加した時に写真撮られたり、囲み撮影されたりもそういう要因かもね。普通に生きてたら人から写真を頼まれる事なんてないし、ましてや囲まれてひっきりなしに撮影される事もないだろうし」


「そうだね……お恥ずかしながら、それは俺もあった。大勢の併せだったり、それこそネットで有名な人がいる併せとかで便乗的に囲まれた事があるけど、あれはちょっとした芸能人気分になってしまうかもしれないね」


正直なところ『俺、もしかして凄いんじゃあ……!』と頭に乗ってしまいそうだった。


コスプレをしてるから人目についたんだっていう部分が抜けてしまっていた。


「さっき散々フォロワー数やRT数の話をしたのになんだけど、アップした写真がバズったりすると嬉しいもんね」


「確かに。何万とかRTがつくなんて普通は無いよね。まして現実でそんなに多くの人に自分を見てもらう事もないだろうし」


俺の発言が、俺の写真が注目されている!?


そう勘違いしてしまっても仕方がない。


勘違いでも、続けてそういう事が起これば、それは勘違いじゃなくなる。


何をもって勘違いとするかにもよるのだろうし、さらに言ってしまえば『コスプレする理由って何?』という話になると、コレがまた千差万別だ。


「まあ、コスなんてやり方も考え方も自由なはずだし、あたしだって誉められたら嬉しいけど……でもコスして作品やキャラを推すんじゃなくて自分を推したい人が多すぎじゃない!?」


自分を推す。


それはまさに自信の表れかもしれない。


「フォロワ―数で自信を持っちゃった人がなんか語っちゃったり、自信満々で発言してるのを見るけど、実際に会って話してみると印象違う人も多いよ。思ったより普通? なのに、なんでこの人こんなに自信持ってるんだろうって思うもん」


流石はモモさん、敵を作りそうな発言バンバンですな。


「発言をする事でどんな事が起こるのか、どんな人の目につくのかを考えず、自信をもって言いたい事だけど言う。それが巧く作用するのかもしれないな。もちろん炎上する場合もあるだろう。だが、不思議と自信もって話している人間に人は騙されやすい。説得力があるように思われる」


「騙すって……」


「例えば欲しい商品があったとする。自信満々に進めてくる人と、自信なさそうに進めてくる人、どちらから商品を買う?」


「なるほど」


「なるほどじゃないでしょ。商品がいいものかを調べるべきでしょ? 自信満々な奴が進めてくるなんていかにも怪しいじゃない!」


「それは偏見では」


「いや、その通りの話だ。問題点はソコだろう。本当に欲しいものならちゃんと調べる。だが、そんなに欲しい物じゃないなら、ワザワザ調べない」


なるほど、消費者側の話で考えた場合か。


流れてきたRTとか、よっぽどの事がなければ深く知ろうとはしない。


パッと見て面白いかどうか、興味があるかどうかだけで判断するのが普通なんだろう。


「確かに。そうやって目にした時に、その人のそれまでの経緯を知らないで見ると凄い人に見えるのかもしれないね」


「声が大きい人の方が強い。迷惑かける事を気にしないで発言できる人の方が強い。何かを言われても気にしないで入れる方が強い。真面目な人ほど馬鹿を見るのかもな」


珍しくエクスが語っている。


普段は自分からこういった発言をするタイプではない。


曰く『相手の出方が解らないうちに自分の主張をするのは危険。情報を渡して相手に対策をたてさせる必要は無い。無駄に敵を増やす必要も無い』との事。


「フォロワー数が少なくても凄い人は多い。衣装、造形、メイク、写真の加工センス。だが、そんな事柄は関係ない。むしろ細かい点なんて知らない人がみたらどうでも良い、見たままが全てだ。有名になったから有名な物も多い。皆が良いと言っているから良い物。それで充分だ」


「一番売れている物が美味しいっていうなら、カップラーメンが一番美味しいラーメンになるって話?」


例えとして正しいのか解らないけど、面白い意見だと思った。


誰かの格言なのだろうか。


「そうだな。良い物だから有名になる訳じゃない。ニーズに合っているから有名になった。もちろん良い場合もあるけどな」


「でもそれって何でもそうでしょ? コス界隈だけじゃなくて」


モモの言葉を聞きながらエクスがまたちょっと意地悪な顔をしていた。


「そうだな。さっきも言ったが、コスなんて、ハタから見ている人にとっては見たままが全て。中身までは知る必要もない。……例えば写真として凄ければ、加工であろうがなんだろうが関係ない訳だな」


「加工は良いと思います」


それまでとは打って変わり、モモが無表情に言った。


「モモ、いきなり掌かえすの?」


思わず突っ込んでしまった。


「加工の話は別でしょ!?」


エクスが続ける。


「モモは商品が良い物かを調べる人じゃなたったのか? 無添加、無加工は健康に良いんだろ? ならば素材で勝負するべきでは?」


なんか変な理屈が混じっている気がするが言いたい事はなんとなく解る。


いや、これは単にエクスが意地悪で言っているだけの気がする。


「だって、気になるんだから仕方ないでしょ!? 豊齢線とかマジファックですよ。気になるところを直すのは許して欲しいのですよ。ワザワザ自分が望まない物をあげるなんておかしいでしょ? 他の人だってワザワザ見たくないでしょ!?」


なるほど、それはそれで言っている理屈は解る。


「とはいえ、限度はあると思うけどね」


「限度?」


「ある程度の修正や加工はいいと思うけど。というかあたしもしてるけど……。それは置いといて、人の顔をコピーしたり、身体をコピペするまでいっちゃうと流石にやりすぎな気がした」


「そんな人いるの!?」


想像以上にコスプレの闇は深そうだった。

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