女子高生が手ブラでやってきた_06
「……朝まで一緒に?」
「はいっ!」
女子高生と朝まで部屋で二人きり。
しかも薄着の女子。
いや、服は着てもらえば良い。
とにかくまずくないか。
こんな狭いところに朝まで女子と二人きりなのだ。
そんな事がマンガやアニメ以外であるのか!?
君はお母さんに怒られないかも知れないが、俺がお母さんに怒られちゃうかも知れない。
いや、お母さんどころか裁判長とかに怒られちゃうかも知れない。
いやいやいやいや。
とにかく家に帰さねば。
「えっと……朝、家に戻って用意するのとか大変だよね?」
「服もメイク道具も全てもってきています! ここから行けますっ!」
持ってきてるんかいー。
最初から俺の家に泊まる気だったっていう事か。
それって……朝まで……朝まで俺と一緒に……。
え、ウソ、マジで?
俺と?
こういう時にどんな顔をすれば良いのか解らないヤツじゃないか。
いや待て、何を俺は考えてるんだ。
落ち着け。
落ち着くんだ。
深呼吸。
落ち着いてみると、ひじりさんがすがるような眼で俺を見ていた。
そうだ、何か声をかけるんだ。
ビシっと、男として!
「あの……カオルンさん……」
「はい」
『はい』じゃないよ。
先に声をかけられちゃったうえに、もう少し気の効いた返事は出来ないのか。
出来る訳ないじゃん俺だもん。
そうだよね。
変な自問自答を続けて黙ってしまった俺に、ひじりさんは申し訳なさそうな顔のまま言葉を続けた。
「作り方を教えてくださいって言ったけど、私じゃかえって足をひっぱってしまうと思います」
「いや、そういう事では……」
どうやら、俺が躊躇しているのは彼女が足を引っ張るのではと懸念しているように思われていたらしい。
誤解だ。
だが、誤解を解こうにもどう説明したらいい。
今、俺は淫らな事を考えていますとでも言うのか?
言葉に詰まっている俺に向かって彼女は続けた。
「でも、一緒に作ろうって言ってくれて、本当に嬉しかったんです……! だからここにいさせてください。やれる事はなんでもします……っ!」
その言葉を聞いて俺は再び冷水を浴びさせられるような思いだった。
俺は何を考えていたんだ。
最初からこの子は作り方を教えてくださいと言っていたじゃないか。
本当に困って、どうしたら良いのか解らなくて、泣いてしまうくらい困っていたのに、それでもなんとかしようとしていたじゃないか。
たまにイベントで会うくらいの素性の解らない俺に助けを求めてしまうほど追い詰められ、だけどその助けだって、ただ助けてくださいと言うのではなく、自分で道を切り開くための力を貸してくださいというものだったじゃないか。
なのに俺は何を考えていたんだ。
まっすぐな彼女。
ゆえに他の事が見えなくなってしまっているのだろう。
俺が酷い人間だったら、さらに酷い状況になっていたかもしれない。
そんな女の子をどうしたら良いかなんて決まってる。
そのまま、まっすぐ突き進めるようにしてあげたい。
いい歳こいたおっさんらしく、若い子の力になってあげればいいじゃないか。
信じて良かったと思わせてあげたいじゃないか。
「解った。作っておくからなんて失礼な事を言っちゃってごめんね」
「そんな事……! 本当に嬉しかったんです。だから……!」
「うん、一緒に作ろう」
「……!!」
「必ず朝までに間に合わせよう、一緒に」
ひじりさんの目から涙があふれ出してきた。
「ありがとう……ございますっ!」
泣かせてしまった。
結局、俺はひじりさんを泣かせてしまった。
でも、この涙を悪い涙じゃなくするチャンスがまだあるはずだ。
「よし、はじめよう!」
「じゃあ、型紙に沿ってコスボードを切り出してくれるかな。カッターはその黒い刃のを使って。良く切れるから指を切らないように気をつけてね」
「はい!」
段取りを説明し二人で作業を進めていく。
「切り出したコスボードに布を貼り付けるため、型紙よりも大きめに布を切って……、コスボードに覆いかぶせる」
目の前で実際に作業を見せながら説明する。
「Gボンドで接着するけど、シンナーが入っているから喚起に気をつけて。窓開けて、さらにマスクをつけてね」
俺の指示に従ってマスクをつけるひじりさん。
今は汚れないように衣装を脱ぎ、ジャージにスパッツ姿となっている。
スパッツなんてご褒美だ。
絶対にそんな事は言えないけど。
「用意が出来たら接着する面どうし、この場合は布を張り付けるコスボードの表面と、金属っぽい質感を表にするために布の裏側に。そこにGボンドを塗って……」
ふむふむと頷くひじりさんが可愛い。
「で、あまったコスボードとか、定規的な物とかでGボンドを接着面に塗り残しなく、均等に伸ばす。で、Gボンドが乾いてから圧着する」
「圧着?」
「乾いた面どうしを押し付けてくっつける事。ぎゅーって」
「乾いちゃってもくっつくんですか?」
「うん。意外かもしれないけど、乾く前にやるとお互いがネバネバとくっついちゃって、表面から剥がれて均一にくっつかなくなっちゃうから気をつけて」
このあたりは慣れだ。
つい乾く前にやってしまい、残念な結果になってしまう。
「で、布の余った部分はコスボードの裏側に織り込んで……同じく圧着する」
そうやって出来上がった金属っぽい布を張り付けたパーツを見せる。
「凄い! ちゃんと金属みたいです!」
「角を鋭利にしたい場合とか、裏側も見せたいパーツの場合は、パーツギリギりのところで布を切った方が良いけど、今回は裏面が見えないようにやるから裏側でとめちゃって良いんじゃないかな」
「確かに! 裏側から見ると素の素材が見えちゃってますね。なのに表側はちゃんと鎧になってて面白いです!」
「面白いよね。それにやってみるとそんなに難しくないでしょ?」
「でも、布が綺麗に張れないです。ぼこぼこしちゃいます……やっぱりカオルンさんは凄いです!」
俺の作業を見ながら一緒に作っていたひじりさんのパーツ、確かに表面部分に気泡が入っていた。
「そこはやっぱり慣れかな。俺より凄い人はいっぱいいるしね。で、こういう時は……角になる部分を残して慎重に剥がしつつ、再び布を引っ張りながら貼り直して……支点になる部分を作って、そこから引っ張ってつけていく感じというか……」
説明しながら作業をしているとひじりさんが顔を寄せてきた。
近い。
マスクをしているので匂いが嗅げなくて良かったとアホな事を考えてしまう。
だってねぇ、噂に聞く、シャンプーの匂いとか嗅いじゃったら冷静ではいられなくなってしまうだろうし。
「服を作っている時もそうなんですけど、形になっていくのって嬉しいですね!」
ひじりさんがニコニコと笑っている。
良かった、元気が出てきたようだ。
この勢いにのって一気に作ってしまおう。
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