女子高生が手ブラでやってきた_05
「じゃあ、こんな感じで!」
「ぁ……はぃ……」
身体のサイズに合わせ、100均とかでも売っている工作用紙を切り出しつつ、なんとか胸の横と腰のパーツのサイズのアタリを決めた。
顔を赤らめたまま、大きく息をもらし、崩れるように床に座り込むひじりさん。
相当無理をしていたんじゃないだろうか。
だが、俺もやばかった。
本当にやばかった。
お題目があるとはいえ、一歩間違えば只のセクハラだ。
なのに気持ちのたかぶりが抑えられないほど舞い上がりそうだった。
「大丈夫? 本当は嫌だったんじゃない? 測るの、ラズさんから頼まれた時は断ったんだよね?」
つい、言い訳がてら今更な事を聞いてしまう。
「はい……」
「でも、じゃあなんで俺にはその……なんであんな恰好を?」
言いながらパンツいっちょの姿を思い出してしまう。
「……!! それは……」
さらに顔を赤らめるひじりさん。
ダメだ。
自分で聞いておきながら待つのに耐えられず、思わず勝手な憶測で話を続けてしましまう。
言った直後に言葉の補足をしようとドンドン早口になっていくオタク的なアレだ。
「あ、もしかしてコスだから? キャラに合わせるための露出なら恥ずかしくなかったとか?」
「恥ずかしいですっ!」
「す、すみません!」
我ながら何を言ってるんだと言った後に思ってみたがもう遅い。
いや、実際にそういう人も多いとは思う。
キャラに合わせていたら段々露出に慣れて平気になってしまう人。
キャラがそうなんだから恥ずかしくないという人。
ただ、今いう事じゃなかった。
「恥ずかしいですけど……こんな無理なお願いをしてるんだし。カオルンさんなら……」
「いやいやいや、ソレとコレは別でしょ!?」
ドレとコレが別なのか俺も良く解っていない。
「その理論だと弱みに付け込まれちゃうから! 俺がその気になってしまったら大変な事になっていたから気をつけて!」
お逃げさないと言いながら追いかけてくる森の熊さんのような事を言ってしまった。
「違うんです! カオルンさんとの事は我慢とかじゃ! 私にもできる事とできない事があって……!」
どういうこと!?
色々話がおかしくなっていく。
「とにかく、自暴自棄になってはいかんです。自分を大事に、ね?」
「は、はい……。でも本当に無理をしていたんじゃないです……」
「う、うん。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます……!」
何故か二人でお礼を言い合った。
自分を大事にって、本当に言う事があるんだな。
漫画でしか見た事ない台詞、我ながら呆れるほどの狼狽ぶりに思わず笑ってしまった。
それにつられたのか、ひじりさんも笑ってくれた。
「でも、本当に良いんですか、材料費とか……」
「ああ、大丈夫。そんなに鎧の面積広くないし。このくらいの量なら造形やってる人はストックで持ってるよ」
これは本当。
全身鎧などを作る時には結構な量が必要だし、場合によっては試作しながら作るので材料は多めに買ってあったりする。
ウレタンなんかは問屋さんでまとめて買っておくと安い場合があるのだ。
そう、やり方を選べば鎧とかだけを作るのは結構安く出来たりする。
じゃあ、衣装制作をしている人達がぼったくっているのかっているとそうじゃない。
単純に作業時間で考えても工数がかかる訳だし、材料もピンからキリまで色々ある。
なによりも技術料だ。
正直なところ、結構色々作ってきた気がしている俺でも『コレはどうやって作ってるの!?』と思うような造形物は少なくない。
いうなれば、そんな技術を駆使したオーダーメイドの服を作るようなものだ。
とはいえ金銭の感覚は人それぞれだし、目安になる物がハッキリある訳ではないのが難しい。
買う側も学生さんから社会人、果ては企業の場合もあるから、値段設定はなおさら難しい。
そんな事もあるので俺は人の衣装ってあまり請け負わない。
作るのが大変なのはもちろんの事、お金の件等がややこしいからだ。
作った物が依頼人の納得してくれる物になっているのか?
そのための労力、対価と合っているのか?
本当に色々ややこしい。
ただ、今回請け負ったのは損得が別だった。
こんな状況にあっても、ひじりさんが自分で作ろうとしていた事に心を打たれたのだ。
コレを助けなきゃ男が廃る。
少なくとも、俺が好きなマンガのキャラはそうだ。
一生懸命頑張っている人を見捨てたりしない。
オタクなんだから、好きなキャラに恥ずかしくないように生きたい。
というのは建前。
良いと思っている人を助けたくなるのは仕方ないよね。
それに、良くないと思いながらも女子に触れて浮かれてしまっている自分もいた。
頼りにされて、満更でもない自分も……。
キモイな俺。
いかん、考え出すと自己嫌悪に陥る。
「どうしたんですか?」
気が付くつとひじりさんが俺を見ていた。
「いや! なんでも! そ、そうだ、時間も無いんだから作らないとね!」
さきほど採寸時に工作用紙で作った鎧の型紙をハサミで切りつつ、改めて形を整えていく。
カーブさせたい部分にダーツという切り込みを入れて、セロテープで張り合わせる。
切り込みを入れた分、ツギハギ箇所は増えてしまうけど、カーブのRが綺麗になっていく。
「気になったんですけど、紙で鎧を作るんですか?」
「いや、これで形のアタリを決めて、本番のコスボードを切り出す型にするんだ。洋服の型紙と一緒だね」
「なるほどっ! 造形にも型紙があったんですね!」
「やり方は色々だけどね。3Dが出来る人ならパソコンで形を作った物を面にしてプリントアウトした物を型紙に使う人もいるし」
「そうなんですね、凄いですっ!」
物凄い尊敬の目で見られている。
「俺は3D出来ないけどね」
「そんな、カオルンさんも凄いですっ!」
謙遜しても誉めてくれるなんて。
こんな事は人生でそんなには無かったので危険だ、この子は俺に惚れてるんじゃないかと勘違いしてしまうアレだ。
「えっと、あー……」
上手く返事ができない、恥ずかしくて言葉に詰まる。
いかんよ、本当にいかん。
話を変えよう。
「そ、それで、作った鎧だけど、服にGボンドで直接接着しちゃっても良い?」
「Gボンド?」
「うん、簡単に言うと造形とかに良く使うボンド。柔軟性もあるし、かなり強力に接着出来る。布にもくっつくけられる。ちょっと貼り付け方が特殊だけどね」
「そうなんですか? ホットボンドとか普通のボンドとは違うんですか?」
ホットボンドというのは手芸の人や、最近だとスィーツデコを作る時とかにも使われる、熱で溶けてすぐに乾くボンド。
銃みたいな形のアタッチメントを使ってボンドを塗りつけていく事が出来るんだけど、とにかくお手軽で使いやすい。
100均系で買えば銃も材料も安い。
「ホットボンドでも良いかも。ただGボンドの方が強度があると思う。パーツの接続方法としては乱暴だけど時間的には楽かな」
布とパーツの接続方法は他にも方法は色々あるけど割愛。
用途や好みで材料や作り方を選べるのが工作の面白いところだ。
「直接貼り付けるんですね? それなら、服を着たままでくっつけてもらった方が良いですか?」
「いやダメ! いや大丈夫なんだけど!」
慌てて意味の解らない答え方をしてしまった。
再び身体に触れるような事はダメという意味と、服を着たままつけた方が確かに良いという事をまとめて答えてしまったのだ。
「本当は身体のカーブに合わせた方が綺麗かもしれないけど、今回は時間もアレだし、そこまでは無しで!」
時間もアレってなんだよ。
苦しい言い訳だ。
さっき、ちょっと触ってしまっただけであんな事になったんだ、それ以上に身体に押し付けるなんて今度こそ俺がマズイ。
「だけどごめん、接着するアタリだけ服に描いても良い? 目立たない奴で描くし、鎧で隠れるから」
「はい、大丈夫です!」
結局また触っちゃうんだけどね。
「じゃあ、ごめんね」
「はい……! ん……」
手で軽く触れ、服を身体のラインに沿わせる。
パーツを接着する部分に布用の水性ペンでシルシをつけていく。
「あ……く……くすぐったいです……」
「ごめん!」
腰とか胸の横とか、何故こんな場所ばかりにパーツがあるんだ。
そもそも、さっきの採寸の時に書けば良かったんじゃないか?
いかん、頭が回っていない。
集中。
集中するんだ。
「ふぅ……、一通りのアタリは取れたかな」
できるだけ冷静なフリをする。
けど、声が裏返っていたので焦っているのがバレバレな気がする。
「後は鎧パーツを作って、貼り付けたら完成だね」
「は、はい……! ありがとうございます!」
型があればパーツは作れるし、貼り付ける位置も決めた。
うん、ようやく落ち着いた。
時計を見ると23時を回っていた。
「もうこんな時間だね。後はやっておくよ」
「え?」
「後は俺だけでも作れるから大丈夫だよ。今なら終電間に合うし……」
「でも……!」
「うん、でももうこんな時間だし、お家の人も心配してるんじゃない?」
「友達の家で衣装作るっていってきました! 大丈夫です!」
俺が大丈夫じゃない。
なんて言えない。
いや、両親理解ありすぎだろう。
いや、まさか男の部屋いるとは思ってないだろう。
とも言えない。
「と、とにかく! 後は作っておくから、明日朝に最寄り駅か会場で……」
「そんなご迷惑はかけられません! 約束ですから一緒に……!」
「迷惑なんかじゃないよ、今も十分に手伝ってくれたんだし。わざわざ家まで来てくれたんだ、ひじりさんの気持ちは伝わった!」
「でも……」
「衣装も絶対に間に合あわすから、心配しないで」
「それは信じてます! ここまでしてくれたんです、もし間に合わなくても文句なんてありません。でも、お任せして自分だけ帰るなんてできませんっ!」
ええ子や。
解ってはいたけど本当にええ子や。
責任感が強いんだろう。
「だからお願いです! 一緒にいさせてくださいっ!」
そうか、一緒に。
「朝までココにいさせてくださいっ!」
「そっか……え? いるって、ココに?」
「はいっ!」
「朝まで?」
「はいっ!!」
1DKに朝まで二人きり?
……。
えええええ!?
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